2月20日の「社会正義の日」。国連によって制定されたこの記念日は、2025年で16回目を迎える。
この国際デーは、すべての人が平等に権利と機会を享受し、公正に扱われる社会の実現を目指す日だ。社会正義とは、貧困、不平等、差別、失業、人権侵害といったあらゆる不公正に立ち向かい、すべての人が尊厳を持って生きられる社会を築くための理念である。
「社会正義の日」は、こうした課題への意識を高め、社会の変化を促すきっかけとなる日だ。では、公正な社会を築くために、どのような行動を取るべきなのだろうか。ここでは、最近実践された社会正義への道筋を照らす7つの事例を紹介する。
社会正義を目指す世界の事例7選
01. 気候変動対策のカギは女性の参加。アプリ「ジェンダー気候トラッカー(GCT)」でデータを可視化
気候変動対策において、ジェンダー平等はどこまで進んでいるのだろう。最近の研究では、国会での女性議員の増加がCO2排出削減を促進する傾向があり、災害時の被害も女性の方が影響を受けやすいことが明らかになった。
しかし、現場に目を向けてみると、気候変動対策を議論する場における女性の参加はまだ十分とは言えないのが現状だろう。こうした課題を可視化するために登場したのが、「ジェンダー気候トラッカー(GCT)」というアプリだ。GCTは、国際NGOのWEDO(Women’s Environment and Development Organisation)によって開発され、女性の気候変動対策への参加状況を国別にデータ化している。
アプリで確認できるのは、気候変動におけるジェンダー平等の決定事項、女性の参加データ、各国の取り組み状況などだ。このアプリによって誰もが簡単にデータへアクセスできることで、専門家だけでなく市民も政策決定や気候変動対策に参加する機会が広がる。
ジェンダー平等の視点を持つことは、「最も弱い立場の人々が最も大きな影響を受ける」ことへの問題意識を持つことでもある。この取り組みは不公正を是正する重要な一歩となるだろう。
02. 最大3年間買い替え不要。成長に寄り添う制服が女性の教育支援に
西アフリカのトーゴでは、多くの家庭の女子が家計や家事の負担を担っているため、中等教育の修了率はわずか39%にとどまっている(※)。この問題を解決すべく、アメリカ人のペイトン・マクグリフ氏は非営利団体「Style Her Empowered(SHE)」を設立し、成長に合わせてサイズ調整が可能な制服を開発した。
SHEの目的は、最大3年間買い替えの必要がない特別な制服を提供することで、経済的に困難な状況にある少女たちの退学リスクを減らすこと。また、制服製作時に出る布の端切れを布ナプキンとして再利用し、生理の貧困が原因で少女たちが教育の機会を失うのを防いでいる。
また、SHEは制服作りを通じて女性に雇用の機会を提供し、トーゴの最低賃金よりも75%高い給料や授業、託児所の提供、社会保障といったサポートを行っている。雇用された女性の多くは教育経験がなかったが、読み書きを学べるSHEの大人向けプログラムにより雇用者全員の識字率が100%に向上。さらに、彼女たちの子どもたちも全員が学校に通えるようになった。
03. 誰もが学べる機会を。米マサチューセッツ州で、富裕税を活用し全コミュニティカレッジの授業料を無償化
2023年8月、マサチューセッツ州でMassReconnectと呼ばれるプログラムが始まった。当初、このプログラムは州内の15のコミュニティカレッジの授業料を「25歳以上の州民を対象に無料にする取り組み」として実施されたが、2024年8月には予算が増加し年齢制限が撤廃された。
これにより、過去1年以上マサチューセッツ州に住み、高校卒業資格を持つ学位未取得者であれば、年齢や収入に関係なく誰でも無料で学べるようになった。さらに、年間最大1,200ドル(約19万円)の書籍や学用品の費用も支給される。
このプログラムの資金は、「ミリオネア税」と呼ばれる富裕層向けの新しい税収で賄われている。急速なインフレで生活が厳しくなる中、MassReconnectは教育を特権ではなく、すべての人に開かれた権利として保障するための取り組みだ。
04.音楽教育にもっと多様性を。米ニューメキシコ大学が「脱植民地化」されたカリキュラムを組める教師を募集
世界的な音楽賞では、白人系アーティストが大半を占め、黒人系がそれに続く傾向がある。この偏りは偶然ではなく、音楽教育で白人系作曲家に焦点が当たることが影響している。
こうした状況を変えるため、ニューメキシコ大学は2024年4月、「脱植民地化された音楽教育」を推進する教授の募集を開始した。専門知識は必須ではないが、社会正義や多様性に関する知識が望ましい条件とされた。
これは「2040年戦略プラン」に基づく取り組みで、2027年までにマイノリティ向けの終身在職制度を拡大することも目指している。対象はラテン・ヒスパニック系、アフリカ系アメリカ人、ネイティブアメリカンだ。
05.子どもたちを望まない妊娠から守る。ホンジュラスで走る「性教育バス」
ホンジュラスは、ラテンアメリカで2番目に10代の妊娠率が高い国となっており、この問題が少女たちの教育機会や就労の制限、貧困の連鎖につながっている。
この課題に対処するため、国連人口基金(UNFPA)は「夢の通り道(Rutas de los Sueños)」というバスで子どもたちに包括的な性教育を提供するプロジェクトを開始。臨床心理士や医療従事者が同乗し、性教育やリプロダクティブ・ライツ、避妊法などについて指導している。
バスは電力とインターネット設備を備えており、情報が届きにくい貧困地域にも訪問可能だ。VRを活用したラブストーリーなど、子どもたちが身近に感じられる方法で、暴力や性に関する問題への理解を深め、責任ある意思決定を促している。
「夢の通り道」という名前の通り、性教育だけでなく、子どもたちが自分の将来の夢やライフプランについて考える機会も提供。子どもたちが夢を描き、希望を持つことが彼らの人生に大きな意味を持つということを伝えている。
06.聴覚障害があっても、一緒に盛り上がれる。歓声を“振動”で感じる応援ウェア
イギリスのサッカーチーム、ニューカッスル・ユナイテッドは、聴覚障害のあるサポーターがスタジアムの興奮を体感できる「サウンドシャツ」を導入した。このシャツは触覚技術を活用し、試合中の振動を身体で感じられる仕組みだ。
「Unsilence the Crowd(群衆の沈黙を破る)」と呼ばれるこの取り組みは、ユニフォームスポンサーのSelaと王立ろう者協会の協力で実現。プレミアリーグのクラブが聴覚障害支援団体と連携するのは初の試みとなる。
スタジアムのアクセシビリティ向上と、多様なサポーターが一体感を味わえる場づくりへの一歩となるこの取り組みは、今後、他クラブへの普及も期待されている。
07.視覚障害者の人々がつくる、点字から着想を得た“ネジなしメガネ”
南米コロンビアのメガネブランド「Soul Optic」では、視覚障害のある職人たちがメガネを手作業で製造している。点字板に着想を得たシステムを活用し、ネジを使わずに部品を丁寧に組み立てる仕組みだ。
蝶番は点字セルの形からインスピレーションを受け、部品には小さな溝があり、職人が正しい組み方を触覚で確認できる工夫が施されている。コウモリのように視覚以外の感覚を活かした作業が特徴だ。
Soul Opticはサステナブルな素材やゼロ・ウェイストの梱包を採用し、環境負荷の軽減にも取り組んでいる。また、多様な雇用機会を提供するために、視覚障害者がつくるのに適した製品と生産プロセスを重視しているという。
差別や不待遇に立ち向かった結果、眼鏡のデザインの核となるブランドのアイデンティティが確立された事例だ。
まとめ
社会正義の日が祝されるようになってから、この16年間で私たちの社会はどう変わったのだろうか。
経済格差の拡大、気候変動による不平等、性差別、移民・難民問題、人権侵害、ヘイトクライム……社会に根深く残る問題は数えきれない。しかし、こうした現実に向き合いながらも、「行動」がたしかに社会を変えてきたこともまた事実だ。
社会正義の実現には、法律や政策の改革だけでなく、個人の意識や行動の変化も欠かせない。身の回りの差別や不公平に気づき、小さな行動を積み重ねることで、社会全体の変化を促すことができる。2月20日の「社会正義の日」をきっかけに、自分に何ができるのか、身近なところから考えてみるのはいかがだろう。
【参照サイト】World Day of Social Justice 20 February
【関連記事】社会正義(Social Justice)とは・意味