米国の大学「音楽教育の脱植民地化」を目指して教員募集

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2021年11月、アジア人初の快挙が報じられた。韓国の音楽グループBTS(防弾少年団)が、米国の三大音楽賞の一つ「アメリカン・ミュージック・アワード」で最優秀賞を獲得したのだ。

あえて「アジア人初」と言われると、はっとする。世界規模の音楽賞では、いわゆる洋楽(Western music)の分野で活躍するアーティストが登場する印象が強い。実際、2020年以前の同アワード受賞者は白人系のアーティストが大半を占め、それに黒人系のアーティストが続く。

こうした偏りは、決して偶然ではないという。コロンビア大学でも教鞭を執った作曲家、ジョージ・ルイス氏は、芸術に関する研究プロジェクト・Outernationalに対し次のようにコメントしている。

植民地主義がどんな風に聞こえるかは、おそらく皆がすでに知っているだろう。世界中の、あまりにも多くの現代音楽フェスで耳にしているからだ。これは、クラシック音楽の排他的な白人らしさのステレオタイプの絶え間ない悪循環に陥っているのだ。しかし植民地主義の音を生み出しているのは、作曲家や即興演奏家ではない。音楽キュレーターや音楽団体である。

音楽の授業で習った偉人たちを思い出してみると、白人系の作曲家がほとんどだ。同じ時代に活躍した黒人やラテン系、アジア系の音楽家もいたはずだが、私たちが出会う機会は少ないだろう。この傾向が引き継がれ、気づかぬうちに、一部の人種や特定の出身地のアーティストに偏った曲を聴いているかもしれない。

この現状を覆し、より平等で多様性のある音楽界を築こうとする動きもある。その一つは、音楽教育だ。ニューメキシコ大学は2024年4月、「脱植民地化された音楽教育」のための教授の募集を開始した。

脱植民地化に関する知識は問われないものの、持っていると望ましい条件の一部に、脱植民地化された音楽教育カリキュラムや社会正義に関する専門性が含まれている。

これは、同大学の多様性に関する「2040年戦略プラン」に基づく取り組みだ。その一つとして、2027年までにURM(Underrepsented Minority:低評価を受けるマイノリティ)向けの終身在職制度(※)を採用する学部の割合を増やすことを掲げている。ラテン・ヒスパニック系、アフリカ系アメリカ人、ネイティブアメリカンが対象だ。

音楽教育の脱植民地化は、カリキュラムを作れば達成できるものでは決してないだろう。クラシック音楽から長く続く偏重の文化を変えるには、時間がかかるものだ。同大学でも、教授の採用を皮切りに、どんな変化が生まれるのか注目したい。

いつか、私たちが「脱植民地化された音楽」を聞きながらフェスを楽しむ日や、音楽の授賞式を眺める日は来るだろうか。その日が来るならば、きっとより多くの人と共に楽しめる時間が生まれているはずだ。

テニュア制度について(案)|文部科学省

【参照サイト】University of New Mexico seeks ‘decolonized music education’ professor|The Colleg Fix
【参照サイト】Visiting Assistant Professor, Music Education (Instrumental OR Choral) (req28742) – HigherEdJobs
【参照サイト】New Music Decolonization in Eight Difficult Steps|OUTERNATIONAL
【参照サイト】2040 Strategic Planning|The University of New Mexico
【関連記事】デザイン教育を脱植民地化する。「リスペクトフル・デザイン」提唱者インタビュー【多元世界をめぐる】

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