LGBTQ+当事者の人々は、社会の中で本当に心地よく生きられているのだろうか。電通グループが2023年10月に発表した調査結果では、LGBTQ+当事者の子を持つ親の約6割が「自分の住んでいる地域では、性的マイノリティの家族がいる家庭は暮らしにくいと感じる」と答えており、誰もが属性に左右されず心地良く生きられる社会になるためには、課題も残ることが示唆されている(※)。
アメリカ・ポートランド出身のCharlie Sprinkman(チャーリー・スプリンクマン)氏も、LGBTQ+当事者の一人だ。チャーリー氏は、大学卒業後に全米の41州を旅行した際に、LGBTQ+である自分たちが尊重され、安心できる場所を探すことに苦労したという。
その経験からチャーリー氏が作ったのが、LGBTQ+の当事者が経営・運営する世界中のお店や拠点を見つけられるグローバルマップ「Everywhere is Queer」だ。マップはウェブサイトや同名のスマホアプリで閲覧できる(2024年3月時点ではアプリは一部開発途中)。
地図にはアイコンでカテゴリー分けされたお店や拠点の場所を示すピンが立っており、目的に応じて探すことができる。ピンが立っているのは、レストランやカフェ、ホテル、ヘルスケアセンター、タトゥースタジオなど、多岐にわたる。実店舗を持たないオンラインビジネスも掲載されている。
ピンをクリックするとオーナー自身やお店の紹介文が閲覧でき、そこから、ウェブサイトやSNSに飛ぶことも可能だ。多くの紹介文には、「クィア(Queer)の男性が運営しています」「オーナーはLGBTQ+支援コミュニティの一員です」というように、性的マイノリティの人々が安心できるような一文が入っていることも。お店の経営者は、指定のリストを申請し承認されれば、無料で地図に自分のお店を掲載できるという。
アメリカ発のアプリだが、アフリカ、欧州、オセアニア地域などにも多くのピンが立っており、2024年3月時点で、世界中の11万を超えるお店が登録されている。日本国内で掲載されているのは、神奈川県川崎市のコミュニティスペース「NAMNAM Space」、タトゥースタジオ「MAUX Tattoo」、沖縄県那覇市のバー「MIX BAR Fab.」の3拠点だ。
公式のインスタグラムでは、創設者のチャーリー氏が実際にさまざまなお店に足を運んだ様子が動画などで投稿され、その雰囲気を感じることもできる。
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「Everywhere Is Queer」には、主にお店の経営者たちが参加できるコミュニティもあり、LGBTQ+の起業家たちのつながりを促進している。チャーリーは、こうしたコミュニティを通してLGBTQ+の人々にとって安全な場所が増え、そうした人々が運営するビジネスが成功すれば、性的マイノリティへの地域の理解や社会的な受容が高まるのではないかと考えるからだ。
アメリカでは性的マイノリティの人々への理解が進む一方、それに反発する動きも起こっている。米国最大規模の人権団体「ヒューマン・ライツ・キャンペーン(HRC)」は、2023年に75の「反LGBTQ+法」が全米各地で可決されたことを受け、「非常事態宣言」を発令。同年には、ロサンゼルスでLGBTQ+教育に反対する保護者が小学校の前で抗議し警察が出動するという事件も起こった。こうした背景から、LGBTQ+の人々は身の危険を感じている。
だからこそ、「Everywhere Is Queer」は、性的マイノリティの人々に「仲間が世界中にいること」を伝え、勇気を与えるアプリなのではないだろうか。誰しもが自分らしく、心地よく生きられる世の中を作ることを目指す人々は、このマップが示すように、世界中にいるのだ。
【参照サイト】Everywhere Is Queer
【参照サイト】New app offers a global map, directory of LGBTQ-owned businesses
【参照サイト】75を超えるアンチLGBTQの州法が成立…ヒューマン・ライツ・キャンペーンが初の「非常事態宣言」へ
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Edited by Motomi Souma