「禁書」を子どもたちに配り回る?アメリカのワゴンカー“Banned Wagon”

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私たちが読書を通して得るものは多い。過去の歴史を知ることで、現在起きている問題を総合的に判断して対処することができ、世界の文学から多角的な視点を身につけ、想像力を膨らませることができる。本が私たち、特に子どもたちの成長過程で与える影響は大きい。

しかしながら、今アメリカの一部の州の公立学校や公共図書館で、多くの本が「禁書(=閲覧や所持の禁止)」の対象として、排除されている。非営利団体「ペン・アメリカ」の調査によると、2022年から2023年度にかけて3,362冊もの本が規制の対象とされ(※)、禁書の数は2021年から増加傾向にある。これまで禁書とされてきた本の多くは性的マイノリティや、人種などをテーマにしたもので、中には過去にノーベル賞を受賞した作家の作品や、長年人々に親しまれてきた名作なども含まれている。

誰もがアクセスできるはずの公共の場で、なぜ禁書が増え続けているのか。その理由は、アメリカが抱える社会的分断にある。近年、人種差別抗議運動「ブラック・ライブズ・マター」や、同性婚やLGBTQ+など多様性への理解が進む一方で、保守的な意見との対立が表面化している。

一部の保守派の保護者団体が、コロナ禍以降学校に対して発言力を増したことをきっかけに、「人種や性的マイノリティ、暴力的な内容を含む本が子どもたちに悪影響を与えてしまう」として設置する本の規制を求めた。そこに政党や政治家の後押しが加わったことで、禁書運動が拡大していった。

アメリカ、ニューヨークに本社を置く世界最大の出版社「ペンギン・ランダムハウス」は、フリーダム・トゥ・リーディング財団ペン・アメリカリトル・フリー・ライブラリー3団体と提携し、禁書に対する意識を高めるためのキャンペーンを実施した。それが「Banned Wagon(禁止されたワゴン)」だ。このキャンペーンは、言論の自由を支持し、検閲に抗議の意思を示すことを目的に、閲覧規制の影響を強く受けたコミュニティをワゴン車でまわり、禁書の対象となった本を無料で配布するというものだ。

「Banned Wagon(禁止されたワゴン)」は「Band Wagon(パレードで楽隊を乗せて走るワゴン)」にかかっている|Image via Penguin Random House

アメリカでは毎秋、禁書について考える機会として「禁書週間」が設けられており、今年2023年の禁書週間に合わせて、このワゴンはLGBTQ+や黒人に関する内容が含まれる絵本や児童書を載せ、アメリカ南部のテキサス州など4箇所を回った。イベント当日は本を求める人の列ができ、ワゴンを拍手で迎える様子から、人々の関心の高さがうかがえる。

複数の団体が連携して禁書に反対する運動の事例は他にもある。ブルックリン公共図書館は2022年から、アメリカ全土の13歳から21歳までの個人を対象に、オンライン上で無料電子書籍にアクセスできる「Books Unbanned(禁止されない本)」という取り組みをスタートした。ボストン公共図書館やシアトル公共図書館など他の公共図書館とも提携して、「図書館が読書の自由を守り、拡大していく」ことを目指している。

書店や図書館に並ぶ本が、誰かの意思や政治的な理由によって制限されている。これはフィクションではなく、今アメリカで実際に起きていることだ。互いの価値観の違いに対してどうアクションしていくべきか。子どもたちは本だけでなく大人の行動からも影響を受けていることを忘れてはならない。

PEN AMERICA INDEX OF SCHOOL BOOK BANS – 2022-2023
【参照サイト】Banned Wagon Tour
【参照サイト】Brooklyn Public Library
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Edited by Megumi

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