ものの気持ちから循環を考える「TENSHO Design Workshop 資源未来洞察」。日蘭交流プログラム2024レポート【前編】

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IDEAS FOR GOODでは2023年、気候変動対応・循環経済の連携推進に向けた日蘭交流の一環としてオランダ大使館が主催した「循環経済視察・交流プログラム(以下、オランダ視察ツアー」の様子をご紹介した。

循環経済への移行に向けて日本とオランダが学び合えること。日蘭交流プログラムレポート【前編】

同プログラムでは、4日間にわたりオランダの3都市(ハーグ・ロッテルダム・アムステルダム)をめぐり、行政・民間企業など多様な視点で循環経済の促進に取り組む人々の元を尋ねた。

現地で得た学びやネットワークを今後の日本における循環経済推進につなげるべく、2024年3月6日、東京・駐日オランダ王国大使館(以下、オランダ大使館)を会場に、循環型のまちづくりをテーマとする日蘭交流イベントが開催された。当日は、特別展示企画の「日蘭アップサイクル建築・まちづくり展」とワークショップ「TENSHO Design Workshop 資源未来洞察」、夜には前述の現地ツアー参加者を交えたラウンドテーブル(意見交換)の場が設けられた。

本記事では、同イベントの内容をご紹介するとともに、サーキュラーエコノミー実現に向けた日蘭交流の最前線に迫る。

日蘭アップサイクル建築・まちづくり展

午前中は、慶應義塾大学が展開する、JST・共創の場形成支援プログラム「リスペクトでつながる『共生アップサイクル社会』共創拠点」が鎌倉市で展開している循環型社会プロジェクトの取り組みを展示する「日蘭アップサイクル建築・まちづくり展」が開催された。

同拠点では、2021〜2031年までの10年間を対象に、鎌倉市を舞台として循環型のまちづくり(循環型社会モデル)の実装を目指すプロジェクトを展開している。

▶︎記事を読む:循環が、自己表現になる未来。慶應鎌倉拠点が目指す循環型社会モデルとは?

まちから集められた資源を活用し、3Dプリンターにより製作されたベンチ。資源回収など循環への協力が生活者の身近な場所に、目に見える形で返ってくる仕組みとなっている。

上記の建造物模型は、サーキュラーデザインの原則を取り入れている。様々な素材から作られた正方形のモジュール建材を敷き詰めることで自由に壁をカスタマイズことができ、組み立てや解体ができる仕組みとなっている。

建材の大きさは椅子としての活用など多用途を想定したサイズになっており、一時的に壁として活用されているものの、様々な姿に形を変えることができる。このように家具と壁の境目をシームレスにするユニークなサーキュラーデザインが特徴だ。

また、同プロジェクトでは資源回収システムをリデザインするためのモビリティもプロトタイピングが行われている。

「TENSHO Design Workshop 資源未来洞察」

午後の「TENSHO Design Workshop 資源未来洞察」では、生活者に資源(もの)の循環をジブンゴトとして感じてもらうための新しいフレームワークを検証するワークショップが行われた。

デジタル駆動超資源循環参加型社会共創コンソーシアム・アップサイクル都市モデル分科会と慶應義塾大学SFC・田中浩也研究室が開発した本ワークショップの最大の特徴は、「ヒト」ではなく「もの」の気持ちになって循環のライフサイクルを考えるという点だ。

ものにとって「ライフサイクル」は「ライフ(人生)」そのものであり、アップサイクルとは生まれ変わり(転生)を意味する。普段とは異なる視点から、ものが誰に出会い、どのように扱われ、何に生まれ変わり、まちのどこに置かれたいのかを考えるという、これまでにない斬新なワークショップとなっている。

資源が渦を巻くように循環する「Vortex Economy®︎」の概念とは

本ワークショップの冒頭では、慶應義塾大学と大成建設株式会社(以下、大成建設)が共同で製作した、新しい資源循環ビジョン「Vortex Economy®︎(ボルテックス・エコノミー)」の概念が紹介された。

「Vortex Economy®︎」とは、行政や企業、民間など複数の主体が共創し、地域内における資源循環を可能にするためサーキュラーエコノミーの考え方を発展させた新たな概念だ。Vortexとは「渦」を意味する英単語で、資源の渦がまちの中で複数存在しつながることで、循環経済が形成されることを目指したビジョンだ。特に、ある資源がその用途や形を変えながら循環していくシステムの実現に向けて、資源の価値を資産へと高める具体的な方法を交えた概念となっている。

「Vortex Economy®︎」について紹介を行う、大成建設・古市理氏


大成建設公式YouTubeチャンネル

Vortex Economy®︎の概念を取り入れたワークショップ「TENSHO Design Workshop 資源未来洞察」は3部制で、次のように進む。

第1部:これまでの「ものの来歴」と、関わってきた人を再確認しよう

ファシリテーションは、2023年のオランダ視察ツアーに参加した慶應義塾大学SFCの田中氏が務めた

第1部のキーワードは、「これまで」。資源がこれまで(=資源が不要とされるまで)どこでどのように使われていたのか、そしてリサイクルのためにどのように収集されてきたのかを特定し、マップ化する。

ワークショップ会場の様子

次に、先に特定した「これまで」の資源の流れとそれのプロセスに関わるステークホルダーを関係図に表す。今回のワークショップでは、次の4つの資源に絞って議論を行った。

  • PPバンド
  • 人工芝
  • 紙おむつ
  • アクリル板

マップ上の円は、時計と同じように時間軸を辿っていく。12時を資源循環の始まりとし、時計回りに、過去→現在→未来と、ものが辿ってきた場所とその関係者をあぶり出し、マップ上に配置する。

第2部:「ものの気持ち」になって、来世の姿をたくさん思い描こう

マップが完成したら、対象となる資源(もの)を擬人化し、気持ちを考えてみる。

自分が「もの」だったら、資源循環の先でどんな形に姿を変えて転生したいだろうか。前世で関係した人々の元に現れるとしたら、どんなふうに再会したいだろうか。

感情に働きかけながら、資源の気持ちを考えてみるセッションだ。

第3部:まちの中のどこかに、来世の新しい居場所を見つけよう

ここまでに感情移入を促しながら考えを深めてきた「もの」が、来世に向けた新しい願望を持ち、前世では出会うことのなかった人や場所との新しい出会いを求めているとしたら……。

そんな場面設定のもと、資源が来世で活躍できる新しい姿や場所、すなわち「転生のストーリー」を考えてみる。

ここで、今回のワークショップで生まれた4つの転生のストーリーをご紹介しよう。

切られる側から切る側へ生まれ変わる「PPバンド」

結束バンドとして知られるPPバンドだが、それ欲しさに買いものをする人はいないだろう。家電や家具を買ってそれを持ち帰るために結束し、家に着いたらバンドは一目散に切ってしまい、あっという間にごみになってしまう。そんな場面に心当たりがある人が多いかもしれない。

来世ではいろんな人に「永く」使ってもらうためのアイデアを議論したという。

「前世の結束バンドはいつも切られる側だったので、来世ではハサミやカッターなど切る側になりたいです」
「前世では家具を守る梱包材だったから、来世では家具になって守られてみたいです」

前世でのネガティブな体験をもとにした発想が数多く生まれた。

人と人とのコミュニケーションを妨げない「アクリル板」の来世

コロナ禍で我々の暮らしを守る存在であったアクリルパーテーション。その材料であるアクリルは、透明で視覚的には邪魔にならないのだが、「スペースをとる」とか「声が聞こえない」といった理由から、邪魔者扱いされる側面が多くあった。

議論の軸となったのは、「これまでコミュニケーションを阻害してきた分、今後はコミュニケーションを活発化するアイテムになりたい」という考え。加えて、環境負荷も考慮し、可能な限り原料に戻すことなく、アクリル板のままで使い続ける方法を議論したという。

「視覚的な存在感がない方が良いとされていたが、今後はアートやサイネージなど、人々の目に見えることで活躍するアイテムになりたいです」
「例えば、スピーカーの筐体(きょうたい)になれたら嬉しいです。アクリルパーテーションのせいで音が聞き取りづらいという課題があったので、これからは人々に音を届けるという役割を担いたいです」

ひと目に触れながら文化を継承する存在になりたい「紙おむつ」

「紙おむつ」の転生における大きな課題は、使用済み紙おむつに対して人々が抱く「嫌悪感」だ。正しく殺菌消毒等の処理を施していても、つい匂いや手触りが気になってしまうという人は多いだろう。

また、おむつが実際に使用されているのは数時間から半日程度だ。使用後はすぐにごみ箱に捨てられ燃やされてしまうため、使用目的としての機能を発揮する時間が非常に短いという特徴もある。

「来世では、人の目に触れる美しい洋服になって、ファッションショーに出てみたいです」
「『使い捨て』とは対照的に保存・保護される『伝統文化』や『遺産』になれたら嬉しいです。例えばブロック材に生まれ変わって、組み替え可能な有形の文化遺産になれたら、長生きできると思います」

紙おむつの原料であるパルプは、自然に近い色味をした繊維素材だ。技術開発がうまくいけば、洋服を編むための繊維に生まれ変わることができるかもしれない。

人や水に触れたい、自由に動き回りたい「人工芝」

「人工芝」と聞くと、サッカースタジアムやプールサイドなどスポーツ場面での用途が思い浮かぶが、家庭でも猫よけや子どもの安全柵として使われることもある。

「サッカースタジアムの芝は、スタジアムの外に出ることができません。芝を転がるサッカーボールのように自由に動き回ることができる来世を望みます」
「プールサイドでは人の足の水を拭うだけで、水の中に入れませんでした。カヤックやサーフボードになって、水に入ってみたいです」
「家庭で猫や子どもを寄せ付けないという役割のあった人工芝は、不快な触り心地です。来世では、柔らかくて人を安心させるマットに生まれ変わりたいです」

自由に動き回りたい、水に入りたいという二つの欲望を満たすアイテムは海洋ごみになってしまうのではないかという意見もあがるなど、多角的な発想で議論が行われた。

資源のライフストーリーを想像し、その循環をジブンゴト化する

これまで単なる「物質」としてしか捉えていなかった廃棄物や不要な資源。それらがどんな場面で誰の手によってどんな役割を果たしてきたのかを見つめ直すと、それぞれの資源が循環し続けるためにあるべき場所や姿が自ずと見えてくる。

「TENSHO Design Workshop 資源未来洞察」のワークショップを通じて、資源の見え方が変化するのを体験した参加者が多くいたようだ。

本ワークショップのレシピは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのもとで公開されている。今後、様々な地域や組織での活用されていくことを期待したい。

レポートの後編では、ラウンドテーブル(意見交換)のセッション「循環する未来を築く『しげんバンク』」の様子をお届けする。

▶後編はこちら

循環する未来を築く「しげんバンク」。日蘭交流プログラム2024レポート【後編】

【参照記事】新しい資源循環を実現したまち「Vortex City」のHP公開を開始
【参照サイト】JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)リスペクトでつながる「共生アップサイクル社会」共創拠点
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