2024年4月3日午前10時、チェコ・プラハの広場にある時計が一瞬、止まった。まちのシンボル的存在であり、観光名所としても知られる世界最古の天文時計。特に故障したところもなかったというが、一体何が起きたのだろうか。
実は、これは同国の全地域を対象に実施された「No Rush Day(急がない日)」という企画の一つ。時間に追われ多忙な日々を過ごす人々に向けて、ひと呼吸置いて、時にはゆっくりと自分の人生について振り返ることを呼びかけるための取り組みだ。特に、車のスピード違反による交通事故への啓発を目指している。
この取り組みを企画しているチェコ保険会社協会は、2022年から車のスピード違反について危険性を訴えており、映画の作成やYouTubeでの動画配信をおこなってきた。「あらゆることが、不当なスピードによって命を危険にさらすほどの緊急事態ではない」
という今回のメッセージは同国内に広がった。大学や文化施設、サッカー協会、企業なども「No Rush Day」を取り入れ、サッカーの試合開始時間は通常より遅くなったとのこと。4月3日の開店時間やミーティングの開始時間を数分でも遅らせることで誰でも企画に参加できるとして、市民にも広く参加を呼びかけた。
さらに、同協会は2024年3月29日に1分の動画を公開。急いで車の運転席に座った女性に対し「永遠に止まってしまうことがないように、私たちはスピードを落とさなくてはならない。2023年、スピード違反による事故で138人の心臓が永遠に止まってしまった。手遅れになる前に、減速して」
と、人々が呼びかける。この動画は公開されて4日間のうちに再生数が97万回を超えた。
「No Rush Day」のマニフェスト冒頭には、「私たちは、時間、分、秒との絶え間ない競争の時代に生きています」
と書かれている。時間に振り回され、追いつこうとして急ぎ、息つく間も無く1日が過ぎ去っていく──そんな競争が本当に必要なのかを問いかける一日なのだ。
プラハの天文時計は、1410年から動き続けるその針を止め、車のスピード違反が原因で命を落とした138名を弔って、死神の像が138回の鐘を鳴らした。その音色は、まさに「急ぎすぎる」現代の私たちの暮らしへの警鐘となったはずだ。
【参照サイト】Prague’s Astronomical Clock will stop on Czechia’s Don’t Rush Day
【参照サイト】Prague’s Astronomical Clock will stop for a bit on 3 April – find out why
【参照サイト】National No Rush Day
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