「私たちにもっと課税を」
2024年1月に開催されたダボス会議にて、250人を超える世界各地の億万長者たちが、このメッセージを発した。彼らは「Proud to Pay More(もっと支払うことを誇りに思う)」という公開書簡を通じて、世界のリーダーたちに対し、格差是正や、教育・ヘルスケア・インフラの改善、気候変動対策に向けて富裕層へのさらなる課税を求めたのだ。
これは富裕税と呼ばれ、かつてヨーロッパの複数の国で導入されていたが、1995年から2007年の間に多くの国で廃止された。現在ではフランス、ノルウェー、スイスなど一部の国のみが導入している。しかし、近年の格差是正や財政問題の解決のため、再導入が検討されており、前述の億万長者たちによるメッセージは2021年頃から発信されてきた。
そんな富裕税が、早ければ2024年中に世界の億万長者を対象に実施決定に至るかもしれない。
2024年4月にアメリカで開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議において、ブラジル、ドイツ、スペイン、南アフリカの財務大臣らが、世界3,000人の億万長者が獲得する富に対して最低2%の課税をかける提案に賛同する署名をしたのだ。これが実現すれば、年に2,500億ドル(約38兆円)が確保され、貧困や格差解消に向けた社会・環境面からの施策に活用されるという。
2024年のG20議長国であるブラジルは、2月に行われたG20財務大臣・中央銀行総裁会議において、超富裕層に対する課税制度を提案。フランスのルメール財務大臣は富裕層による税金逃れを批判し、富裕税への支持を表明していた。
G20財務大臣・中央銀行総裁会議は年に4回実施され、2024年2月と4月の会合を終えた今、残るはブラジル開催の7月と、アメリカ開催の10月の計2回。ブラジルのアダジ財務相は、7月の会議において富裕層への課税制度に合意し、共同宣言を出すことを目指すと主張した(※)。
この課税システムはフランスの経済学者、ガブリエル・ズックマン氏が支持しており、所得ではなく財産に課税すること、そして一部の国だけでも実施に踏み出すことを重視するという。英メディア・The Guardianによると、ズックマン氏は2024年6月に開催されるG7に向けて、富裕層への課税について技術面の詳細を準備しているとのことだ。
Proud to Pay Moreのサイトには、世界のリーダーに向けてこんなメッセージが書かれている。
「私たちが3年間問い続けてきた簡単な質問に、あなたたちが答えてくれないことには驚きました」
政治に関連する動きは、その影響が多くの領域に及ぶからか、遅々として進まないことが多い。だが今の希望の光は、今回ブラジルの提案する富裕税に対して、強く反対する政府が現れていないことだ。
「国際経済協調の第一のフォーラム」を築くはずのG20諸国。日本を含め、世界経済に影響力を持つ国々は未来を見据え、協調を生む歴史的な決断を下すことができるだろうか。
※ Brazil’s proposal to tax super-rich gains momentum amid G20, next steps in July
【参照サイト】Proud to Pay More
【参照サイト】Economist Gabriel Zucman proposes that billionaires pay at least 2% in annual taxes on their fortunes
【参照サイト】Tax our wealth, super-rich tell politicians at Davos
【参照サイト】France backs global minimum tax on billionaires at G20
【参照サイト】ブラジルの富裕層課税案、G20で支持拡大 7月の共同宣言目指す
【参照サイト】World’s billionaires should pay minimum 2% wealth tax, say G20 ministers
【参照サイト】‘A good start’: Germany, Spain and France propose billionaire tax to help tackle climate crisis
【参照サイト】South Africa, Brazil, Germany & Spain Spearhead Global Tax Offensive Against Super-Rich Elite!
【参照サイト】財務省関連 主要国際会議日程(令和6年3月~令和6年12月)
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