カギは、地域ぐるみのコンポスト。草の根の実践者たちと描く「生ごみ焼却ゼロの2030年」

Browse By

私たちの税金が、「水」を燃やすために使われている──こう聞いたら、あなたはどう感じるだろうか。水を燃やすとはどういうことか、そんなことにお金が使われるのはもったいない、と思う人が大半だろう。しかし、これは実際に日本で起こっていることである。

水と言っても燃やしているのは飲料水ではなく、その重量の80%を水分が占める「生ごみ」だ。世界的にも珍しい生ごみの焼却は、日本では処理方法として長年一般的となっており、そこに資源や税金が投入され、CO2の排出や環境への悪影響を引き起こしてしまっている現状がある。

しかしそんな生ごみも、きちんと処理すれば私たちの生活や環境を良くする貴重な資源となる。その方法のひとつが、微生物の働きによって生ごみを発酵・分解する「コンポスト(堆肥化)」だ。今、このコンポストが環境負荷が低い生ごみの処理方法として、また単一農業や化学肥料の使用などにより劣化してしまった土壌の回復にも寄与するとして、世界中の都市や産業界で注目されている。

生ごみ焼却ゼロプラットフォーム」は、そんなコンポストをはじめとする様々な方法を通して「2030年までに生ごみ焼却ゼロ」を目指す。2022年の発足以来、全国で地域へのコンポストの普及などを行う市民団体を束ね、勉強会や知見の交換、堆肥化に関するデータ収集などを行ってきた。

2030年までに日本の「生ごみ焼却」をゼロにするプラットフォーム

2024年5月24日・25日、同団体初の実地カンファレンスが、神奈川県・鎌倉市で開催された。1日目は、主に事業系食品廃棄物から豚の飼料を生産する「日本フードエコロジーセンター」、また飼料化に向かない食品廃棄物からエネルギーを生産する「さがみはらバイオガスパワー」を視察。2日目の午前中はプラットフォームの会員向けミートアップを開催し、午後は鎌倉の一般市民も招いたカンファレンスを行った。

本記事では、主に2日目に行われた会員向けミートアップから、生ごみ焼却ゼロプラットフォームの進める活動や、同団体が描く家庭や自治体におけるコンポスト普及に向けた具体的な道筋、ワークショップから得られたアイデアなどについてお届けしたい。

草の根団体が力を合わせ、「ごみにならなかった生ごみの量」を可視化

ミートアップの様子。当日は、13の会員団体から代表者などが参加した。

ミートアップの様子。当日は、13の会員団体から代表者などが参加した。

鎌倉市庁舎の会議室で開催された会員向けミートアップでは、昨年までの活動報告や今後の活動方針、2030年に向けた目標の共有、目標に対する具体的なアクションを考えるワークショップなどが行われた。

生ごみ焼却ゼロプラットフォームでは、隔月で開催するオンラインでの勉強会を通して、生ごみやコンポストに関する知見の向上、コンポストの地域への普及に向けた意見交換などを行ってきた。2024年6月現在、全国で地域へのコンポストの普及や啓発活動を行う38の加盟団体が、それぞれの活動の推進につなげている。

2023年度には、『生ごみの循環により土壌が回復し、持続可能な食を支えていく』というビジョン、また『生ごみ焼却ゼロの推進』というミッションも改めて策定した。

平由以子さん

平由以子さん

都市型のバッグ型コンポストを普及・継続支援するローカルフードサイクリング株式会社代表で生ごみ焼却ゼロプラットフォーム設立の呼びかけ人でもある平さんは、「生ごみ処理の方針として、減れば良いということではなく、生ごみが再び食べ物になって循環する『クローズドループ』を目指します。また、生ごみ処理の過程が環境や生態系を傷つけるものでないことが重要です」と話す。

また同年度には、プラットフォームとして独自の助成金を会員団体に支給することで、家庭へのコンポストの導入を推進できたことが大きな前進だったという。具体的には、それぞれの地域で活動する会員団体がコンポストを新規で導入する世帯の目標数を掲げ、その数に応じてプラットフォームとして助成金を支給。会員団体は、実際に導入した世帯数を報告した。結果、プラットフォームが助成金を支給した21団体から全国の1,000世帯以上に導入が叶った。

さらに、コンポストを導入した家庭にコンポストに投入した生ごみの重量を1週間計測してもらうことで、会員団体の働きにより実際に堆肥化された生ごみの量をプラットフォーム全体として集計した。結果、2023年度は106トン786キログラムの生ごみが堆肥化された(※)

※ 計算方法:1世帯ごとの7日分の投入量から、1日分の平均値を出し、それを全世帯分合算。この値を365日分で掛け算した。

2024年現在、日本で家庭から排出されている生ごみの量は、環境省がごみの組成調査や住民へのモニター調査などを通して推計している。一方で、日本国内の家庭で自家処理されている量はデータとして収集されていない。生ごみ焼却ゼロプラットフォームでは、今後もこうしたデータ収集に力を入れていくことで「ごみにならなかった生ごみの量」を可視化し、生ごみ焼却ゼロの目標達成に役立てていくという。

坂野晶さん。一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事、生ごみ焼却ゼロプラットフォーム運営事務局

坂野晶さん。一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事、生ごみ焼却ゼロプラットフォーム運営事務局

2030年までの目標は、生ごみの30%を家庭や地域で堆肥化すること

では、「2030年までに生ごみ焼却ゼロ」とは、具体的にどのような状態を指すのか。同団体では、この大きな目標に対して、理想的かつ現実的だと考える堆肥化の目標割合を掲げた。以下がその内訳だ。

©︎2016-2019 TairaYuiko循環生活研究所/ローカルフードサイクリング株式会社

©︎2016-2019 TairaYuiko循環生活研究所/ローカルフードサイクリング株式会社

生ごみ全体の30%を飼料化、30%を行政や企業で堆肥化、残り30%を自宅や地域で堆肥化する。また、これを前提とすると、2030年までにコンポスト導入を目指すべきは国内の1,450万世帯となる。

生ごみは、堆肥化のほか家畜の飼料にするという手もあり、すでに事業系食品廃棄物に対しこうした取り組みを行う日本フードエコロジーセンターのような民間企業は存在する。また、海外には行政が家庭からの生ごみの堆肥化を担うことで高い循環率を維持している都市もある。

一方で、堆肥化を全て行政が担ってしまうと、市民が主体的に生ごみの循環に関わる機会が失われてしまう。生ごみ焼却ゼロプラットフォームが生ごみの3割を家庭や地域でコンポストするという目標を掲げるのは、コンポストが持つ教育的可能性に価値があると考えているからだ。

平さん「コンポストは、混ぜたときの感動や、微生物との出会い、微生物によって自分が生かされていることを知る最善の教材だと考えています。ですから、どんなに自治体の回収能力が上がったとしても、3割は家庭や地域でコンポストを行うということを、文化として残していくと良いのではないかと思っています」

コンポスト

「自分には関係ない」と感じている人を、どう巻き込んでいくか

自宅や地域でのコンポストを3割、行政や企業での堆肥化を3割に。後半のワークショップでは、この「6割堆肥化」の目標を実際に達成するために何ができるのかを参加者同士で考えた。

平さん「生ごみの循環は、自分が良いと思ったモノや方法を押し付けても、地域の人に受け入れられなければ広がっていきません。ですから、どうすれば住民の皆さんのやりたいという気持ちにつなげることができるのかを考えることが重要です」

平さんが語るように、コンポストの普及のためには、生ごみの問題は自分には関係ないと感じている人たちをいかに巻き込めるかがカギとなってくる。そのためにできることとして参加者から出た3つの観点をまとめていきたい。

1. 地域コミュニティを土台に、地道に広げていく

全体として共通であがっていたのが、家庭へのコンポストの普及に欠かせないのは「地域コミュニティ」だという意見だ。

例えば、家庭へコンポストを導入しようとしたとき、どのような状態になったら堆肥化できているのかの判断、臭気が発生したときの対処法など、慣れるまでは疑問や不安が出てくるものだ。実際に、行政の勧めや補助でコンポストセットを購入したが、使いこなせずにそれ自体がごみになってしまっているという事例もあるという。

ワークショップの様子。グループにわかれて付箋にアイデアを書いていく。

ワークショップの様子。グループにわかれて付箋にアイデアを書いていく。

これを解決するためには、地域にコンポストについて相談できる人がいたり、場合によっては家庭のコンポストを“診察”に来てくれるアドバイザーのような存在がいたり、継続支援の仕組みがあることが重要だ。学校やカフェなど、市民が日常的に集う場所でコンポストの勉強会を定期的に実施していくこともひとつの手かもしれない。

また、コンポスト導入に躊躇してしまう大きな理由ひとつとして、特に都市部では「できあがった堆肥を持っていく場所がない」という問題がある。これを解決するためには、歩いて気軽に訪れられるコミュニティガーデンや花壇、エディブルヤードなどを地域の中に可能な限り多く作っていくことが必要そうだ。

堆肥を使いたい身近な農家の存在を知らせることも、堆肥の出口を作っていくことにつながる。そのための具体的なアイデアとして、地域のコミュニティガーデンや農家などが、今どのくらい・どのような種類の堆肥が欲しいのかを可視化して地域住民とコミュニケーションできる地域アプリを作ると良いのでは、という意見が出ていた。

実践者たちが集まっているだけあり、意見が絶えない。

実践者たちが集まっているだけあり、意見が絶えない。

地域でのコンポストの実施は、高齢者の日常的な見守りにつながったり、災害時に避難所での生ごみ処理や食料確保につながったりする側面もある、といった話も出ていた。こうしたコンポストの副次的メリットを地域に広く伝えていくことも必要だろう。

2. 行政が主導し、トップダウンで仕組みを作っていく

一方で、やはり国や自治体といった行政が明確な目標を掲げ、トップダウンで仕組みを整えることも大事だ。例えば、以下のような具合だ。

  • 自治体として堆肥回収の仕組みをもっと整えていく
  • ごみ箱の分別にコンポスト可能という種別を作りスーパーや学校などに置く
  • コンポストセットの無料配布に予算を割く

その際に、買いに行くことが難しい住民に対してコンポストセットの配達を行ったり、コンポストを始めるための勉強会を開催したりと、導入と継続を手助けする仕組みも、合わせて整えていく必要がある。

すでにさまざまな自治体に置かれている環境系の役職をアップデートして「コンポストアンバサダー」といった役割の職員を作ることや、地域起こし協力隊の枠でコンポスト普及を専門に働く人材を採用することなども具体的な案としてあげられた。

さらに、日本が国として「地産地消率100%」や「食料自給率100%」といった目標を掲げ、各地方自治体が手をあげて具体的なアクションを実施できる仕組みを整えて欲しいといった声もあがった。

ワークショップの様子

グループごとにまとめた意見を発表。

3. 実践的な学校教育と、明確なインセンティブ

このほか、地域、行政といった区分けにかかわらず重要とされていたのが、学校での教育とインセンティブだ。教育に関しては、例えば以下のようなアイデアが挙げられた。

  • 小学校や中学校の中でコンポスト係を作り、子どもたちが主体的にコンポストに関われる仕組みを作る
  • 命の循環や食の栄養について、学校の授業で教える
  • 給食の残りをコンポストすることで食の循環を体感させる

インセンティブに関しては、コンポストをすると野菜や地域通貨がもらえるなど、市民にとっての明確なメリットを示すことが重要ではないかという話が多く出ていた。ユニークだと感じたのは、確定申告の際に堆肥化した生ごみ量を書く欄を作り、税金控除の対象にするというアイデアだ。このように、既存の仕組みを利用し、組み込んでいく形でコンポストの導入を推進できる可能性は大いにあると感じられる。

ワークショップで書かれた付箋の一部。

ワークショップで書かれた付箋の一部。

編集後記

年々その量は少しずつ減ってきているが、環境省の調査によれば、日本で排出された食品廃棄物の量は2018年度時点で約2,531万トンにものぼる(※)。冒頭でも述べた通り、そのうち8割弱が焼却処分されている現状は、土壌を回復し栄養素の高い農作物などを作ってくれる貴重な資源を全て無駄にしていることにほかならない。

逆に言えば、今捨ててしまっている生ごみを堆肥化できれば、それが資源となり、新たな産業となっていく可能性がある。また、今回のワークショップでも話が出ていたように、コンポストは生活圏内の地域コミュニティづくりや食育のツールとしても大きな役割を果たす可能性を持っている。

今回初めて生ごみゼロプラットフォームの会員の方々と交流し、その熱量や実直さに驚かされた。会員にはコンポストに限らず長年地域に密着した活動を行ってきた人々が多く、だからこそ出てくる地域の課題や生活に密着したアイデアの共有が、今後のコンポスト普及に欠かせないと感じた。こうしたネットワークが更に広がっていくことにより、コンポストは生ごみ処理の選択肢としてのみならず、より良い地域づくりや食育のツールとしても存在感を強めていくだろう。

生ごみ焼却ゼロプラットフォームでは、2030年に向けて今後もこのようなミートアップや視察、堆肥化のデータ収集などを行っていく。生ごみ焼却ゼロに向けて共に取り組みたい企業、行政、教育機関、市民団体などに属する方々は、生ごみ焼却ゼロプラットフォームのウェブサイトを確認してみてはいかがだろうか。

食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢(環境省)

【参照サイト】生ごみ焼却ゼロプラットフォーム
【関連記事】2030年までに日本の「生ごみ焼却」をゼロにするプラットフォーム
【関連記事】【5/24・25開催】「生ごみ焼却ゼロプラットフォーム」主催の鎌倉カンファレンス。2030年までに、すべての生ごみを資源に

FacebookTwitter