街を彩る“優しい反逆者”たち。市民の手で緑を取り戻す、ゲリラガーデナーの挑戦

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公共空間に、ゲリラ的に草花を植える「ゲリラガーデナー」の存在を知っているだろうか。彼らの活動に迫った、モキュメンタリー(※)『Rebels With Cause(大義ある反逆者)』が公開された。

※ mock(まがいもの)+documentary(実録):ドキュメンタリーの手法を用いて、事実であるかのように表現されたフィクション作品

まず登場するのは、鼻から下を黒い布で覆った男女二人組。暗い色の上着にグレーのスウェットパンツと、いかにも“悪そうな”見た目をしている。どうやら彼らは、ゲリラガーデナーの新メンバーとして活動を始めたようだ。

するとここで、ゲリラガーデニングを広めている活動家・Ellen Miles(エレン・マイルズ)氏が登場。新人である二人は、彼女に対し厳かに植物の贈り物までして尊敬の気持ちを表現するが、エレン氏は「そんな武装はしなくて良いよ」と、二人よりも物腰が柔らかそうだ。

彼女が率いるゲリラガーデナーのチームでは多世代がともに作業をし、花の香りを楽しみ、どこにどんな植物をどう植えるべきかをよく心得て草花を植えている。とても穏やかな“ゲリラ”活動だ。

二人は、想像していた活動の雰囲気との違いに戸惑いつつ、コミュニティのつながりが感じられる活動方針に惹かれるが……

──こんなストーリーを描くショートフィルムだ。この動画内の二人組は仮想の登場人物だが、エレン氏はロンドンを拠点として実際にゲリラガーデニングを実践してきた本人だ。この動画は、デンマークのNPO・Imagine5が、メディアプラットフォーム・WaterBearによって作成された。

このゲリラガーデナーの活動は、今欧州で広がりつつある。街路樹の根元や芝生の端、空き地、空になった公共のプランターなど、近所かつ放置されている場所で植物を育てることを通じて、都市に自然を増やしているのだ。それと同時にこうしたアクションは、コミュニティの人々に力を与える活動になっている。

「公共の場がもはや公共的ではない状況に直面して、私たち市民は影響力がないと思わざるを得ないことが多々あります。(中略)コミュニティは地域において、発言権がないのです。しかしゲリラガーデニングを通じて、私たちは自治権やパワーを持っているのだと学びました。

(中略)多くの気候アクションは実は、飛行機に乗らない、肉を食べない、ファストファッションを買わない、プラスチックを使わない、などの『インアクション(不活動)』です。なので私たちにできるのは、ポジティブなインパクトを生むというより、ネガティブなインパクトを制限することだけのように感じてしまいます。一方で、外に出て植物を植えると、生物多様性を支えることができ、実際に自分の近所や世界にインパクトを与えられるのです」

Imagine5はショートフィルムの公開に合わせて、ゲリラガーデナーになるための手順を掲載した記事も公開。植物を植えるのにおすすめの場所や、植物を選ぶ際に気を付けるべきこと、必要な道具などを確認することができる。また、エレン氏による「原生種と外来種について」の解説動画も、実践の助けになりそうだ。

このように市民が公共スペースの緑化に貢献する動きは、イギリス以外でも活発になっている。特にフランスは、「緑の権利」として市民が公共スペースに自由に植物を植えることを法律で認めているのだ。パリの都市農園・NATURE URBAINE(ナチュール・ユベンヌ)では、種子・粘土・良質な土を混ぜてだんご状にした「シードボール」づくりを実施。これを適切な場所に投げ込むことで都市環境の再生に貢献できる。

日本でも、自治会や町内会の活動が活発だった頃には、こうして地域の清掃や花壇の整備に取り組んでいたのではないだろうか。住民主体の地域活動が減るなかで、まちの緑地や空き地は人々の手を離れ、企業や公的機関の「所有物」となってしまった。

だが、そのまちで生きる市民こそ、地域に必要な空間を描くのにふさわしい存在であるはずだ。ゲリラガーデナーは、市民をまちの「消費者」から「作り手」へと押し上げようとしている。

【参照サイト】Rebels With Cause:The guerrilla gardeners planting the town green|Imagine5
【参照サイト】TOOLKIT:A guide to guerrilla gardening
【参照サイト】‘I call it botanarchy’: The Hackney guerrilla gardener bringing power to the people|The Guardian
【参照サイト】Le permis de végétaliser|Ville de Paris
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