オランダの街に「黄色い箱」が続々登場。道端で“空き缶の寄付”を募るワケ

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2023年、オランダでは新たに飲料の缶をデポジット回収制度の対象にした。この仕組みに金銭的メリットを感じて缶ごみを回収・返却・換金する人が増加し、結果として資源循環が促進された。

一方で、缶を探したあとごみ箱の中身がまき散らかされたままになったり、なかには人々がごみ箱の中身を探すときに手を怪我してしまったりする例も見受けられた。

こうした現状に対し、解決策として登場したのが「黄色い寄付箱」だ。資源の返却率を保って循環を確立しつつも、ごみが街に散乱せず、拾う人が怪我しない方法として注目される、デザイナーの発明とはどのようなものなのだろうか。

デポジット制の義務付けで、資源回収率が上昇。背景にあるオランダの政策

オランダでは、2006年以降1リットル以上のプラスチック飲料容器を対象に、デポジット制が義務付けられてきた。商品価格にデポジット金額が上乗せされており、飲料を飲み終わったあとに回収場所に飲料容器を持っていくと、容器一点につき少額が返却される仕組みだ。2021年7月には1リットル以下のプラスチック飲料容器も対象になった。

これを拡大する形で、2023年4月からは缶の飲料容器もデポジット回収義務の対象になった。一定の規模以上のスーパーなどの飲料小売店には、使用済みのペットボトルや缶の回収を義務化。こうした小売業者は、包装容器廃棄物基金(Afvalfonds Verpakkingen)に一定の金額を支払うことが義務付けられており、この基金が回収から容器の洗浄までを行う仕組みだ。

Image via verpact

この背景には、オランダが国を上げて取り組む「2050年までにサーキュラーエコノミーを確立する」という目標がある。この国家戦略では、2025年までに「プラスチック製品・プラスチック包装物の100%リサイクル」「プラスチック消費量を2017年比で20%削減する」といった具体的な目標が掲げられ、2030年までに消費原料の半減、2050年には消費原料の100%循環を目指している。

オランダ政府の思惑通り、このデポジット制は人々の行動を変えつつある。実際に返却することに金銭的メリットがあるため、缶やペットボトルを回収場所に持ち込む人は増加。スーパーの回収機械には場所や時間帯によって長蛇の列ができ、返却するのに長時間並ばなければならないこともあるほどだ。

一方で、自分の使う分以上に、収入の足しとするために集めて回る人も増加した。街で大きな袋いっぱいに空き缶を運ぶ人を見かけることも多くなった。公園でピクニックをしている人々のところに、空き缶の回収を申し出る人たちが来るほどだ。

Image via AFI (art for impact) B.V.

プラスチックや缶を捨てずに資源として回収し、再利用に回すことができるというのはデポジット制が導入された目的であり、これが機能していることは歓迎すべきことだ。また(本来であれば住民すべての収入が向上することが望ましいが)一部の人にとって金銭的な足しになること自体は前向きに捉えられている。

新たな問題にアプローチする「黄色い箱」の設置

一方で新たに問題となったのは、デポジット制が拡大されたと同時に、公園や道端にあふれるごみが増えたことだ。これは、ペットボトルや缶を探すためにごみ箱の中身を出す人が増え、一度取り出されたその他のごみがそのまま放置され、周辺に散らばるためだ。こうした状況がしばらく続くなか、街にはある変化が起きた。

これまでの街のごみ箱に、缶・ボトルホルダーが取り付けられたのだ。こうすれば、缶やボトルを捨てる人は、ごみ箱の中ではなくこのホルダーに置くだけでいい。缶・ボトルを回収したい人はごみ箱をひっくり返さなくてもいい。

容易に回収できるよう缶・ボトルホルダーがつけられたごみ箱(筆者撮影)

筆者は、こうした素早い市の対応に目を丸くしていたのだが、その数ヶ月後、さらに新たな変化を目の当たりすることになる。缶やボトルを安全に回収するための黄色い箱が登場したのである。

Image via AFI (art for impact) B.V.

これは「デポジット・ボックス(Statiegeldbak)」と名づけられたこの黄色い資源寄付のための箱で、市民が自ら資源を回収できるように、オランダの若手デザイナーであるパブロ・カンタトーレさんとアントニウス・ヤンセンさんによって考案された。上からボトルや缶を入れ、回収するときは下のレバーを引くだけだ。缶であれば最大80本保管することができ、水が通る構造になっていることで、雨が降れば中にはいっているボトルや缶が自然の力で洗浄されるので衛生的でもある。

パブロさんとアントニウスさんは、実際にボトルや缶を回収している人たちに聞き込み調査をするなかで、ボトルや缶を探す際、ごみ箱の鋭利なものに触れて怪我をしてしまったり、ペットの糞などにより病気になってしまったりすることがあるという事実を知り、こうした安全に資源を回収できるデポジット・ボックスを考えついたという。

さらに、わかりやすくオレンジに色づけられた郵便ポストから着想を得て、この寄付ボックスを明るい黄色にすることを思いついたのだそうだ。たしかに、「黄色いボックスはボトル・缶の資源をいれるもの」と言えば、提供する人や回収する人、誰にとってもシンプルでわかりやすい。

既存のごみ箱にかけられていたボトル・缶ホルダーは人々がそれ以外のごみを引っ掛けてしまうため、今後回収され、黄色い寄付箱に置き換えられていく予定だという。

この黄色い寄付箱は、2024年6月現時点までに、アムステルダム市内やショッピングセンター、ロッテルダム市などをはじめとするオランダ国内100箇所に設置されており、その他多くの自治体や商業施設などから関心が寄せられているという。オランダのマキシマ王妃までが、包装容器廃棄物基金の会合に足を運び、この「デポジット・ボックス」の取り組みについて熱心に話を聞いたというところからも、このトピックに対してのオランダの本気度がうかがえる。

オランダマキシマ王妃も熱心に「デポジット・ボックス」を始めとする包装容器廃棄物基金の取り組みに耳を傾けた。Image via AFI (art for impact) B.V.

編集後記

ごみが街中に散らばるのを防ぎつつも、「缶ハンター」たちを支援し、資源循環のループを閉じるデポジット・ボックス。それは、「きちんと回収場所に持ってきて下さい」と利用者に声高に迫るわけでもなく、ごみ箱を開けにくいように鍵をかけてしまったりするわけでもなく、柔軟でクリエイティブな課題解決のアプローチだ。背景には大きな経済格差の問題もありつつも、現場のニーズに寄り添いながら、資源循環率の向上を目指す、オランダならではの事例と言えるかもしれない。

【参考サイト】Verpakkingen en verpakkingsafval
【参考サイト】Aangifte & tarieven
【参考サイト】Statiegeld in Nederland, een toelichting
【関連記事】「勝手にポイ捨てが減る」ごみ箱のデザインを、行動経済学から考える

Edited by Megumi

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