現代のフードシステムでは、生産された食料の約3分の1以上が廃棄されている。この状況が続けば、2030年までに世界全体の食料廃棄量は現状より30%増加し、21億トンに達するという(※1)。
そんな中、メキシコに拠点を置くバイオテクノロジー企業「Polybion(ポリビオン)」が、地元で発生した農業廃棄物を原料にヴィーガンレザーを作る技術を発明した。「Celium(セリウム)」と呼ばれるこの新素材が今、次世代素材の開発において世界から注目を集めている。
Celiumは、廃棄される果物をバクテリアに食べさせてセルロースを生成し、これをバイオレザーの土台となる素材に加工して作られる。セルロースは豊富で多用途なポリマーだ。細菌がセルロースを生成することで、大規模生産が可能で柔軟に応用できるバイオマテリアルの開発が大きく進展する。
環境保護や動物愛護の観点から、こうしたヴィーガンレザーへの移行を試みるブランドが多い中でも、Celiumは優れた特性を持つ。既存のインフラを利用した染色プロセスやなめし(皮を柔らかくする工程)などに対応しており、多様な用途に対応できる。素材の厚みなども企業の要望に応じてカスタマイズ可能で、従来のレザーに匹敵する強度と質感を実現できる。牛の飼育によるメタン放出もなく、Celiumはわずか20日で製造が完了するのだという。
これらにより、二酸化炭素の排出量は動物由来のレザーの10%未満、そしてカーボンフットプリントはマイセリウム(キノコ)から作られるレザーの4分の1に抑えている。また、本来廃棄される果物を利用することで、廃棄物の埋め立てによって発生するメタンも抑えられている。Polybionは、ETHチューリッヒの研究者シモーネ・ブリュンドル氏と作成したライフサイクルアセスメント(LCA)レポートもサイトで公開している。
Celiumは、オランダに拠点を置く、デザインを通じて社会的変革を推進する国際的なプラットフォーム「What Design Can Do(WDCD)」が気候危機をテーマに開催したデザインアワード「Redesign Everything Challenge(すべてをリデザインする)」で賞を取ったことでさらに知名度を上げた。
環境負荷の最小化を目指すデンマークのファッションブランド「Ganni(ガニー)」は2023年7月、廃棄されたマンゴーを原料に作られたCeliumを素材としたブレザーを展示会で披露。Ganniはこれまでも環境負荷の低い素材の使用を推進しており、Celiumとの協力により、その取り組みをさらに強化した。
現時点でのコラボブランドはGanniのみだが、2024年5月にはCeliumの一般販売が開始されている。
こうした代替レザーの技術革新は急速に進んでいる。たとえばタイのマヒドン大学の研究者らによって、現在市場で入手可能な植物由来のヴィーガンレザーに比べ最大60倍もの耐性があるグリーンレザーなども開発されている。廃棄されたパイナップルの葉の繊維と天然ゴムから作られた素材は、バッグ、衣類、靴の製造に使用される(※2)。
耐久性の弱さがデメリットとして挙げられることも多いヴィーガンレザー。開発が進むにつれ、Celiumのような素材が主流となる日が来るのもそう遠くはないのかもしれない。
※1 Tackling the 1.6-Billion-Ton Food Loss and Waste Crisis
※2 Ce matériau à base de feuilles d’ananas pourrait-il révolutionner l’industrie du cuir ?
【参照サイト】Polybion公式サイト
【参照サイト】Would You Wear Bacteria-Grown Leather?
【参照サイト】Ganni unveils faux leather jacket made using bacteria instead of cowhide
【参照サイト】This faux-leather jacket is made by bacteria
Edited by Erika Tomiyama
寄稿者プロフィール:吉野有香(よしのありか)
英国での高校留学中、国際環境法について興味を持ち、経済発展を妨げない環境保護について考えるようになる。現在はフランスの大学で経済学を専攻。今の関心テーマはサーキュラーエコノミー、サステナブルファッション、サステナブルツーリズム。