廃材を新素材に変えるデザイナー、村上結輝

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農林水産省によると、令和元年度において日本では食品ロスの量は年間570万トンと推計されている。日本人の一人当たりの食品ロス量は一年で約45kgに上り、これは日本人一人当たりが毎日お茶碗一杯分のご飯を捨てているのと近い量になるという。

こうした廃棄問題に対して、新素材開発というクリエイティブな手法でアプローチしているのが、素材デザイナーの村上結輝さんだ。村上さんは、卒業制作で廃棄されたバナナの皮からレザー素材を作り出し、現在コーヒーかすや石膏(せっこう)ボードといった廃材から新素材開発を行っている。今回は、村上さんにこれまでの素材開発の経緯や、廃棄問題に対する具体的な取り組みを伺った。

話者プロフィール

村上さん村上 結輝(むらかみ・ゆうき)
株式会社On-Co 執行役員/素材デザイナー
1998年4月8日生まれ、愛知県在住。新型コロナウイルスの流行を機に大量生産大量消費の中で暮らしていた自分の生活を見直すようになり、芸術大学の卒業制作でバナナ皮からレザー素材を開発。卒業後も廃材を活用した素材開発や、資材本来の価値を活かしたプロダクトデザインに注力。2021年にはコーヒーかすと牛乳から作る「カフェオレベース」、2022年には廃棄石膏を利活用した「resecco」などの新素材をリリース。身近な廃材を美しい素材に生まれ変わらせることで、アップサイクルの考え方や可能性を感じてもらい、社会課題を「自分ごと化」するきっかけを創出している。

コロナ禍で見えた、身近なごみ問題

村上さんが素材デザイナーとして活動を始めたきっかけは、卒業制作として開発したバナナレザーだった。その当時、新型コロナウイルスの影響を受け、自宅にいる時間が多かった村上さんは、自然と身の回りのごみに目が向いたという。そこで、プラスチックごみを出さない生活を始め、自然素材の製品を買うようになり、実際にYouTubeでプラスチックフリーの生活について発信活動を開始した。

「自分がどれだけプラスチックごみを出しているかが見えてきて、廃棄問題など社会課題を解決したいと思うようになりました。子どもの頃は自然に触れていたのに、徐々にプラスチックなどの便利な素材が身近になり、視野が狭まっていたなと感じます。新型コロナウイルスでの外出自粛期間を通して自然の良さを再発見しました。

その中で、僕と同じような境遇の人もいるんじゃないか、何かきっかけがあれば変わる人がいるんじゃないか、と気づきました。僕が自然素材かつ廃棄されるものから新しい素材を作って、たくさんの人に届けたら、こうした食品ロス問題に気づいてもらえるのではないかな、と思ったんです」

バナナの皮から、新たな素材開発へ

バナナのレザー
当時、村上さんは名古屋芸術大学でインテリアや空間デザインを学んでいた。その中で、家具のアップサイクルを通じて、廃材を活用したりデザインしたりすることがあったという。こうしたものづくりが得意だと感じた村上さんは、実際に卒業制作として廃棄されるバナナの皮からレザー素材を開発しはじめた。

「最初に自分が食べたバナナの皮を乾燥させて粉末にし、色合いや状態の変化を実験しました。バナナからレザー素材ができるかはわからなかったのですが、試行錯誤するうちに偶然出来上がりました。制作時期がコロナ禍だったので、設備もない自分の家で料理をする感覚で始めましたね」

バナナのレザー財布

バナナレザーを制作するにあたって村上さんが心がけていたのは、すべて自然素材で作り、最終的に土に還るようなものづくりだという。

「最終的にバナナレザーの実験から形になるまで約半年かかりました。バナナからレザーを制作するのは未知の領域だったのですが、『この素材を加工したらこうなるんじゃないか?』と考えるのはもともと好きなので、実験自体も苦ではなく、失敗も生かしながら楽しんで制作できました」

卒業制作として完成したバナナレザーの財布は、20〜30本のバナナから作られている。バナナジュースを扱うお店から実際に廃棄されるバナナの皮を提供してもらうなど、お店と連携しながら制作したという。

「卒業制作展では、思っていたよりも反応が良く、多くの賞もいただけました。バナナの皮からレザーを作れるということ自体に驚く方もいましたね。バナナレザーは、動物性の皮とは異なり、早い段階で経年変化が見られるようになり、数ヶ月で使い込んだ風合いが出て、実際にレザーからバナナの香りがするという特徴があります」

廃棄食材から、新たな素材の開発へ

カフェオレベース

大学卒業後フリーランスとして素材デザイナーの活動を開始した村上さんは、その次にコーヒーかすと牛乳を用いて「カフェオレベース」という素材の開発に取り掛かった。

「『カフェオレベース』はコーヒーかすと牛乳からできている素材です。何か新しい素材を作りたいと思っていた中で、日常生活で身近なコーヒーが思い浮かびました。僕も毎日ドリップしてコーヒーを飲んでいるのですが、コーヒーかすが廃棄として出ます。その活用方法を調べる中で、海外のコーヒーかす素材の製品を見つたのですが、それらはコーヒーかすと樹脂を混ぜているものが多いことに気がつきました。そうすると、結果としてその素材は土に還らない。何か代替案はないかと考えていたときに、牛乳で接着剤ができると知って、牛乳とコーヒーかすで新しい素材を作ろうと決めたのです」

試行錯誤すること1,2か月でコーヒーかすを活用した新素材「カフェオレベース」が誕生した。そして、実際にコーヒーかすが出るカフェという場所で「カフェオレベース」のアイテムを使えたらと思い、ランプシェードやスツールなど商品化したという。

企業と進める、建材をアップサイクルした新素材の開発

リセッコ

石膏ボードをアップサイクルした「resecco(リセッコ)」

こうした斬新かつクリエイティブな素材開発が反響を呼び、企業と新素材の共同開発も行っている村上さん。最近取り組んでいるのが、廃棄される建材・石膏ボードをアップサイクルした「resecco(リセッコ)」だ。今後壁紙や床材、天板や家具など様々な用途に展開していく予定だという。

「実際に石膏ボードの廃棄問題があり、その解決策としてクライアントと一緒に新素材を考えていきました。石膏ボードは建築材として使われているのですが、家の中に住んでいる人が石膏ボードを見る機会はほとんどないですよね。家が解体される際に産業廃棄物として廃棄され、日の目を見る機会がなく、その後埋め立てされる……そうしたサイクルではない、違う道を作りたいと思うようになり、『resecco(リセッコ)』を生み出しました」

「ごみ」から、新たな素材開発へ

yuki murakami
現在、村上さんのもとには化粧品の空き容器や、エキスの搾りかす、衣服を作る際に出る糸くずなど様々な廃材の活用や素材開発の依頼が多く寄せられているという。

「実際にそういった依頼を受ける中で、こんな廃材があるんだと驚くことがあります。自分でも継続的にごみを減らしていきたいと思っていますし、自分が作った素材を生かした自給自足の生活にも憧れがあります。

私は『すべての廃棄をなくす』というよりも、『新しい行き場を作る』ということを大切にしています。みなさんにロス問題の現状を知ってもらった先に、何か解決策があるのではないか。ごみの存在を発信するだけでなく、その廃材を使って素材開発をすることで、『ごみは美しく生まれ変わらせることができる』と気づいてもらうきっかけを作っていきたいです」

編集後記

食品や衣服など私たちの日常生活の中で廃棄されるものは多岐に渡るが、近年そうした廃棄問題に対してリサイクルやアップサイクルといった取り組みが多く見られる。その中で、自然素材を用いて最終的に土に還る素材の開発を目指す村上さんの取り組みは、現状のリサイクルやアップサイクル技術に対する新たな見方につながるだろう。

リサイクルやアップサイクルといった技術に絶対的な「正解」はないからこそ、一人ひとりが想像力をふくらませ、新たな「資源」を作り出していくことが大切だと感じた。

今回紹介した村上さんのカフェオレベースの新作は、今月5月6日から8日かけて南青山の複合施設スパイラルにて行われる「SICF23」Exhibitionで展示予定だ。気になる方は、ぜひ会場に足を運んでいただきたい。

【参照サイト】yuki murakami
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Edited by Megumi

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