リラックスしようとすると、逆に不安になる「stresslaxing」との向き合い方

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いざ夏休み。

多忙な日々をリセットして、「さあ、休みだ、リラックスするぞ!」。そんな思いを持つ人も多いだろう。

しかし、休んでもリラックスできない。それどころか、リラックスしようとすればするほど、不安や心配が湧きだして、ぐるぐるとした思考の渦巻きにハマり、かえってストレスに陥った経験のある人はいないだろうか。

いきなり不穏なことを言わないでほしい。そんな声が聞こえてきそうだが、この「stresslaxing(ストレスラキシング)」と呼ばれている一般的なものだ。「stress(ストレス)」と「relaxing(リラックス)」を組み合わせた造語であり、情報過多の社会において、意識的にリラックスし、気持ちを落ち着けようとしてもかえって不安や心配が増大し、ストレスを感じてしまう現象を指した言葉だ。

例えば、リラックスするためにソファに横たわってテレビを見ているのに、頭の中では仕事や他のストレス源について考え続けているような状況をいう。

リラックス

ではなぜ、リラックスできないのだろうか。そこにはいくつかの理由が組み合わさっている。私たちの感情をコントロールするのは脳で、不安や恐怖を感じる部分は扁桃体と呼ばれる。扁桃体は、常にスイッチオンの状態で、潜在的な危険に備えている。そうでなければ、私たち人類は進化の過程で生き残れなかったにちがいない。

要するに、私たちの脳は常に周囲を心配し、緊張し続けるようにできている。だからリラックスしようとしても、脳は自然と抵抗してしまうのだという。さらに、常に不安を感じている人は、認知のコントロールが難しい。心配性の人ほどストレスラキシングに陥りやすいといわれている。

また、私たちの社会のあり方もストレスラキシングを引き起こす原因の一つとなっている。今あなたが触っているスマートフォン。常にテクノロジーから切り離されることのない私たちの生活スタイルは四六時中、心身を興奮させ、覚醒させているのだ。

仕事と切れることのない生活もそうだ。スマホやPCの普及で、労働と休息の境目は一段と曖昧になった。勤務時間以外に上司やお客さんから電話、メールが入るのは当たり前という人もいるだろう。近年では、勤務時間以外の業務を拒否できる、「つながらない権利」が労働者の権利として主張されるほどになった。

EUで進む、在宅勤務中の「つながらない権利」とは?

追い打ちをかけるのが、私たちの「忙しさ」に対する価値観だ。生産的でありたい、他人の要求に応えたいという欲求を持ち、休むことに引け目を感じている人も多いかもしれない。「忙しくて……」といいながら、実際には暇な時間が怖いという状況に陥っている。

調査によると、日本の多くの労働者は所属する企業や組織に対して、まだまだ「滅私奉公」型であるという。それでいて、「生涯現役でいたい」という人が世界全体の5倍もいる(※)。休むことがあまり上手くないと感じている人も多いかもしれない。短い休暇にもかかわらず、忙しくレジャーに出かけ、忙しく遊ばなくてはならないと予定を詰め込む人も多い。そんな私たちは、休もうとしても休めない、ストレスラキシング体質ともいえるかもしれない。

働くことも大切だが、休むことも同じくらい重要だ。では一体、どうすればいいのか。まずは、社会心理的な側面から見直してみてもいいかもしれない。仕事とプライベートの区切りをつけてみよう。勤務時間以外は、デバイスをオフにしてしまう。あれもこれもやらなければという忙しい人は、To Doリスト方式をやめ、「やれたことリスト」を作ってプチ達成感を味わってみてはどうだろうか。あなたは十分頑張っているし、できていることに気づくだろう。

そのうえで身体的な緊張をほぐしてみよう。筋弛緩法やマインドフルネスが有効だ。マインドフルネスは扁桃体を減少させ、記憶にかかわる海馬を増加させる効果があると報告されている瞑想法でもある。数分でも取り組んでみてもいいかもしれない。

さあ、リラックスの準備はできただろうか。もちろん、誰もがすぐにリラックスし、ウェルビーイングな状態になれるわけではない。こうしたストレスラキシングという状況もあることを理解しながら、自分に合ったリラックス方法を模索していくことも大切だ。新たな休息の仕方は、新たな仕事の仕方を教えてくれるかもしれない。

※ Randstad Workmonitor 2023 Report
【参照サイト】How to stop ‘stresslaxing’ and actually relax
【参照サイト】日本人の仕事観:「生涯現役希望」8%、世界全体の5倍も―人材サービス企業の調査で
【参照サイト】「つながらない権利」あなたの会社は認めてる? 欧州を中心に法制化進が、なぜ日本は反応が鈍いのか
【参照サイト】Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density
【参照サイト】Stress reduction correlates with structural changes in the amygdala

Edited by Erika Tomiyama

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