「学名」にも差別が?植物や菌の名前からアパルトヘイト由来の表現削除へ

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生き物の呼び名は言語によって違えど、世界の共通言語となっているのが、学名だ。これは主にラテン語を用いて、属名と種小名を連ねる二名法によって表現されている。種小名は、その生き物の特徴を捉えており、由縁がある土地や人物を示す表現が用いられることもある。

こうした表現は、研究者などが科学的な論述をするにあたって広く使用されている。しかし、これまで必ずしも「公正な」学名が付けられてきたわけではなかった。一部の学名には、植民地支配に関連する差別的な表現が含まれているのだ。

たとえば、アフリカの海岸サンゴであるErythrina caffra(エリスリナ・カフラ)。実はこの「caffra」という言葉は、アパルトヘイト時代の南アフリカで黒人を差別的に表現する際に使われた言葉だ。これ以外にも「caffra」という表現を持つ植物が多く存在する。直接的な支配がなくなった今もなお、その名を口にする時、人々は植民地支配の歴史を思い起こすことになる。

この現状に対して、分類学において大きな一歩と言える決定が下された。2024年7月18日、スペイン・マドリードで開催された第20回国際植物学会議において、差別的な表現が含まれる植物の学名を撤廃・修正していくことが合意されたのだ。

前述の「caffra」という表現は、今後、アフリカの起源であることを意味する「affra」などに置き換えられていく予定だ。このほか、戦犯者に由来する学名の植物も変更対象となる。今後変更が行われる植物・藻類・菌類は200種以上に及ぶという。

枝の先にたくさん咲いているオレンジ色の花々

海岸サンゴのErythrina caffra(エリスリナ・カフラ)も、Erythrina affraになる見込みだ|Image via Shutterstock

「caffra」の変更については、2021年頃から南アフリカのネルソンマンデラ大学に所属するGideon Smith教授と Estrela Figueiredo教授が提案してきた。約3年の月日を経て、今回556人による匿名投票の結果、63%の賛成により可決された。主な反対理由は、名称変更に伴う膨大な作業や混乱を避けるべきとの考えだったそうだ。

同会議では、学名の差別的な表現を監督するための特別委員会を新設することも決定した。2026年以降に命名される植物については、同組織が管理する予定だ。

季節のめぐりや地域の違いで、さまざまな姿を見せる草花や木々。その移ろいや美しさに喜びを感じるとき、特定のコミュニティの人々が心の傷を痛めることは、あってはならないだろう。言葉の裏にある歴史や価値観に立ち返り、改善の余地を問う姿勢を持ち続けていたい。

【参照サイト】In a first, botanists vote to remove offensive plant names from hundreds of species|Science
【参照サイト】Botanists Vote to Remove Racial Slur From Hundreds of Plant Species Names|Smithsonian Magazine
【参照サイト】Botanists vote to remove racist reference from plants’ scientific names|The Guardian
【参照サイト】Botanists Vote to Remove Apartheid Slur from Plant Species Names in Africa|Good News Network
【参照サイト】Some plant names can be racist. Scientists are looking to rename them|NPR
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