ヨーロッパの研究者は、なぜ今「脱植民地化」を学ぶのか【多元世界をめぐる】

2023.09.08

Kimika Tonuma
特集「多元世界をめぐる(Discover the Pluriverse)」

私たちは、無意識のうちに自らのコミュニティの文化や価値観のレンズを通して立ち上がる「世界」を生きている。AIなどのテクノロジーが進化する一方で、気候変動からパンデミック、対立や紛争まで、さまざまな問題が複雑に絡み合う現代。もし自分の正しさが、別の正しさをおざなりにしているとしたら。よりよい未来のための営みが、未来を奪っているとしたら。そんな問いを探求するなかでIDEAS FOR GOODが辿り着いたのが、「多元世界(プルリバース)」の概念だ。本特集では、人間と非人間や、自然と文化、西洋と非西洋といった二元論を前提とする世界とは異なる世界のありかたを取り上げていく。これは、私たちが生きる世界と出会い直す営みでもある。自然、文化、科学。私たちを取り巻くあらゆる存在への敬意とともに。多元世界への旅へと、いざ出かけよう。

人類の歴史で、最も多くの植民地を持った国はどこか。イギリスだ。強大な力を持ち、北米のアメリカやカナダ、インド、そしてアフリカの国々など、数々の地域を支配してきた。そんなイギリスが、いま過去のあり方を反省し、「脱植民地化」に進もうとしている。

ロンドンの名門大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンが、キャンパス内の建物の名前や、教育カリキュラム全体の見直しを通して、西洋を世界の発展の中心とした「ヨーロッパ中心主義」に警鐘を鳴らしたのも、その象徴的な例だ。

▶️ ロンドンの大学が「脱植民地化」に動く。その3つの教育改革とは?

脱植民地化(デコロナイゼーション)とは、これまでの歴史で土地を占領され、文化や価値観を強制されていた国の人々、そして住処やアイデンティティを奪われた先住民などが、宗主国が支配する経済的・社会的なシステムや、精神的な影響から独立する過程を指す言葉である。

イギリスやオランダなどの西ヨーロッパの大学をはじめ、北米でも注目を集めるこのトピック。西洋的な価値観の押し付けや、白人至上主義の社会構造、それぞれの地域の先住民の置かれる現状に自覚的になり、より包摂的な未来を目指していこうとする動きがある。

入植者と先住民の人々

Image via Shutterstock

脱植民地化は、なぜいま世界の持続可能な未来を考える上で重要性を増しているのか。この流れが、私たちにとってどのような意味を持つのか。本記事を通して、考えていきたい。

脱植民地化について考える大切な理由

昨今、この言葉が注目される背景には、多くの国や地域が独立した今でも「支配者」と「被支配者」という権力構造が変わっておらず、植民地であることを経験したグローバルサウスの地域は、支配者からの影響を一方的に受け続ける傾向がある、という考えがある。

たとえば、ヨーロッパによる植民地支配によって資源が略奪されたアフリカの多くの地域では、現在でも貧困が広がっており(※1)、先進国でも、資源の開発やごみの廃棄のため、先住民の人々の住む土地の環境が悪化している場所が少なくない(※2)

また政治面でも、大事な意思決定に対して植民地支配を受けた国の人々や、先住民の声が反映されにくい現状がある。世界的な課題である気候危機対策などは、そのいい例だ。

以前、世界のリーダー層が集まり気候危機対策について話し合う国際会議「COP27」に現地参加したユース4名に行ったインタビューでは、普段からマイノリティの人々と共に活動する山本氏から、グローバルサウス出身の人々にとっての会議参加の難しさが語られた。

今回のCOPはそもそも参加のハードルが高かったと感じています。会議参加のためのバッヂ取得はもちろん、会場がエジプトのシャルム・エル・シェイクというリゾート地で、そこへ行く航空券も、宿泊代も高いんです。
出典:温暖化を防ぐための会議「COP27」実際どうだった?現地参加したユース4人に聞いてみた

COP開催に先駆けて行われた行進。Walk for Your Future climate

COP開催に先駆けて行われた行進。Walk for Your Future climate

このテーマを知り、考えることは、日本というバックグラウンドを持つ人々にとっても重要だ。かつてアジアの国々を植民地支配するなど「加害の歴史」も持つ日本だが、他の宗主国のようにヨーロッパの白人国家ではない。資本主義国家で、いわゆる西側諸国でありながら、西洋世界では「アジア」として扱われ、差別を受けることもある。地理的にも人種的にも、絶妙な立ち位置なのだ。だからこそ歴史を振り返ったうえで、西洋の真似ではなく、自分たちで独自に築ける別の未来もある。

カナダのサイモンフレーザー大学が開催したTEDx Talksのなかで、学者であり環境教育者のニッキ・サンチェス氏が発した言葉は、(講演は主にカナダ国内の先住民に関してのものだったが)まさに支配者であった歴史を持つ私たちにも、重く響いてくる。

TED Talksでのメッセージ

Image via TEDxSFU

これまでの歴史で起こったことは、決してあなたのせいじゃありません。でも、これからを生きるあなたの責任なのです。
出典:Decolonization Is for Everyone | Nikki Sanchez | TEDxSFU

私たちが脱植民地化について学ぶことは、自国の歴史と現代の社会に対する理解を深めるだけでなく、「見知らぬ誰か」の境遇を想像できるような共感と連帯の精神を養うことにもつながり、よりよい社会を築くための一歩になり得るのではないか。

各国で進む、脱植民地化の研究

脱植民地化は、いまや各国の教育機関で調査研究が進められるテーマだ。どのような研究があるのかまとめるため、ここにいくつかの事例とそのリンクを残しておく。

イギリス国内だと、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの他にも、ケンブリッジ大学から出版された「Decolonising African Studies?」や、同国ウェスト・ミッドランズ州のウォーリック大学による教育方法論「what is decolonising methodology?」などがある。

オランダ・ユトレヒト大学を拠点とする研究グループ「Decolonizing Sustainability Group」は、科学の世界や市民社会、ガバナンスにおいて、どのような市民が意思決定に参加できているのか、どのような過程で周縁化(ある特定の価値観に基づき、中心ではないものとされ、見えない状態であること)や排除が起きるかを探っている。

IDEAS FOR GOODは今回、同グループのメンバーにコンタクトを取った。グループの立ち上げに関わったキャロル・アンネ氏は活動についてこう語る。

「私たちの研究のここまでの結論は、グローバルサウスのアクターが科学的な分野から排除される傾向にあることです。そもそも、私たち研究者が当たり前としている“学術ジャーナルへの発表”、というのは非常に西洋的な知識生産の方法であることを自覚しないといけません。

気候変動に対しても、グローバルノースの国々が自分たちの行動を正当化するために、実際にはグローバルサウスの国々にとってあまり有益でない、または公平ではないソリューションを推進することもあります」

また、AIをはじめとしたテクノロジーには既存の社会通念が反映されており、先住民やその他のマイノリティの世界や価値観が排除されているとする考えから、あえてその目線を入れてAIの議論を進める「INDIGENOUS AI」という団体もある。

Image via INDIGENOUS AI

日本でも、北海道大学大学院文学研究院の小田博志氏が制作した「脱植民地化のためのポータル」がある。そこでは、ペルー、カナダ、日本の北海道などでの取り組みが紹介されている。

若者のあいだでも脱植民地化は始まっている

最近では、研究者などに限らず、Z世代など多くの人たちがこの言葉を使用している。

海外のSNS上でも、若者を中心に脱植民地化の概念が支持を集めている。インスタグラムのハッシュタグ「#decolonization」で検索すると、35万件ほどの投稿があることが確認できた。ヨーロッパ系の発信者から、アフリカ系の発信者までが、西洋文化の押し付けを批判する声や、アフリカの産業が今でも西洋世界に支配される現状を訴える声、先住民の権利を尊重するよう訴える声をあげている。

 

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アメリカとカナダ:私たちがあなたに何をしたっていうんだ!?(罪の自覚がない)

先住民:……。

(元々先住民の服を着ていた人が、西洋化された社会で洋服を着るようになった場面)

(1862年 入植者との争いで絞首刑となった38人のダコタスー族先住民たちを映した場面)

他にも、たとえば以下のようなテーマの投稿が見られた。

  • スーパーフードやオーガニック食品を使う、あくまで西欧諸国にとっての“ヘルシーな“食のあり方の植え付け
  • 白人至上主義を当たり前としすぎていることへの批判
  • ロマンス言語がアフリカ文化にもたらした同性愛嫌悪の概念

SNS上での投稿の場合、単純に「既存の価値観に問題提起をする」ことを「脱植民地化する」と表現することもあり、発信者が必ずしも過去のさまざまな植民地の歴史を理解したり、広範囲の脱植民地化について考えたうえで投稿しているとは限らない。

しかし、世界で特定の人種の優位性や資源の略奪などがいまだに存在する今、先住民やその支援者たちは、自治や公平な権利を求めて訴え続けている。

ヨーロッパの研究者は、なぜ脱植民地化を学ぶのか

ヨーロッパの研究者は、なぜ脱植民地化を学ぶのか。ここについては、決まった答えはなく、それぞれが個人的な理由を持っている。

現在進行形で植民地主義による不当な扱いを受けており、その状況を打破したいと思っている人もいれば、自分の暮らす社会の「公正な移行」のプロセスで、脱植民地化の考えを導入することが不可欠だと考える人もいる。

これまで植民地支配をしてきたヨーロッパの国々に対し、「今更何を言っているのか」と批判的な気持ちを抱く人もいるかもしれない。しかし改めて植民地主義に向き合い、自国の歴史にも批判的になり、新たな道に向かおうとしていること自体はポジティブな傾向とも言える。

脱植民地化は、より公正な社会への出発点になるか。注意深く見ていくとともに、新たな学びがあれば何度でも発信していきたいと思う。

※1 Europe and Africa: Decolonization or Dependency?
※2 Gas Pipelines: Harming Clean Water, People, and the Planet / DUMPING OF TOXIC WASTE ON INDIGENOUS LANDS, DAMAGE FROM MINING, DEFORESTATION AMONG ISSUES, AS INDIGENOUS FORUM DISCUSSION FOCUSES ON PACIFIC REGION

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この記事を書いたライター

戸沼 君香

Kimika Tonuma

戸沼君香(とぬま きみか)。IDEAS FOR GOOD 共同編集長。日本初のソリューションジャーナリズム認定トレーナー。デンマークへの高校留学をきっかけに、フォルケホイスコーレ留学や現地のNGO勤務を経験。北欧ツアーやイベントの企画運営にも携わる。関心テーマは言語と、愛のある建設的なジャーナリズム。冒険を愛する4ヶ国語話者。