今や静寂は希少?米国NPOが、自然の音だけが聞こえる「静かな場所」を守る

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私たちは一日中、人工の音に囲まれて暮らしている。

早朝の静まり返った室内でも、冷蔵庫やエアコンがかすかな音を立てている。起床する頃には、スマートフォンから次々に通知音が鳴り響く。やがて、屋外を自動車や飛行機が通り過ぎる音が聞こえだし、一日の始まりを告げる。

自動車や飛行機がいつでもどこでもひっきりなしに行き交う現代では、たとえ人のまばらな田園地帯や深い森林のなかであっても、完全な静寂を見つけるのは難しい。

人工の音がない、本当に静かな場所は、一体どこにあるのだろう。

アメリカを拠点とするNPO・Quiet Parks International(以下、QPI)は今や貴重となりつつある「静かな場所」を守る活動に取り組んでいる。

「静か」といえば、何の音もしない完全な静寂を想像することが多いだろう。ちょうどヘッドホンのノイズカット機能が不要な音を技術的に低減してくれるようなイメージだ。

しかし、QPIが重視する「静かな場所」は、完全な無音空間ではない。彼らはたくさんの自然音に満ち溢れた豊かな「静けさ」を守りたいのだ。

QPIがとくに力を入れているのは、世界中から自然の音だけが聞こえる場所を探し出し「Quiet Parks(静かな公園)」として認定する取り組みだ。

彼らの認定作業は、まず現地に実際に足を踏み入れて調査することから始まる。録音技術者(サウンド・レコーディスト)が高感度マイクを携え、候補地の内部を歩き回って周囲の音を収音。その音声データを元に、「自然の音だけが聞こえる」場所と言えるかどうかを検討するのだ。

できるかぎり高水準の候補地を選び出すため、認定には厳格で客観的な基準が存在する。たとえば、「15分間、一度も人間由来の音が聞き取れない」ことなどが条件の一つだ。それ以外にも、「車やモーターボートが走行していない」こと、「百万エーカー四方に送電線が張り巡らされていない」ことなどが好条件とされるという。

QPIの認定によって、対象の場所に対して法的な強制力を伴う保護がなされるわけではない。しかし、CNNの記事によると、彼らは「この認定によって地域が認知され、メディアの関心が高まり、エコツーリズムが増加し、地方自治体に静けさを維持する動機が与えられることで、保護活動が促進されることを期待している」という。

また、静けさは、野鳥や動物たちにとっても良い効果がある。個体同士がコミュニケーションを交わしやすくなり、繁殖や危険を察知するのに役立っているのだ。

静かな森

Image via Shutterstock

英単語の“quiet”には、物理的な静かさのほかに「心の平静、安らかさ、安息」といった、内面の安定の意味がある。静けさのなかで過ごしていると、ストレスや不安が和らぎ、ふさぎ込んだ気持ち、反芻する思考から意識を取り戻す効果があるという。その有効性は、科学的にも検証されてきている。

約120年前、結核菌などを発見し、感染症研究に大きな貢献を果たした細菌学者、ロベルト・コッホがこんな言葉を遺していた。

コレラや疫病と同じように、騒音と真剣に格闘しなければならない日が、やがて人類には訪れるだろう。
──Quiet Parks International Aboutページより

コッホの言っているようなその日が、もう訪れつつあるのかもしれない。静けさを失わないために、私たちができることは何だろう。

【参照サイト】Quiet Parks International
【参照サイト】One Square Inch
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Edited by Yuka Kihara

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