石炭から養蜂へ。米国で最も貧しい州が挑む、環境も経済も回復させる新産業

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全米で最も貧しい州の一つと言われるウエストバージニア州。ここ数年の州としての失業率は5%前後だが、地域によっては失業率が28%にものぼるところもある。

高い失業率の背景には、炭鉱産業の衰退がある。かつては炭鉱地として栄えたウエストバージニア州だが、1980年以降、次々と閉山。若者は都会へ出て行き、まち全体が活力を失ってしまった。こうした事情から、「石炭産業を復活させる」と豪語したトランプ氏への高い支持を集めた州でもある。

しかし、時代は脱化石燃料。石炭産業によって経済振興が図られる確信はない。そんな中、ウエストバージニア州で新たな収入源として注目を集めている仕事がある。養蜂業だ。

2018年から、NPOアパラチアン・ヘッドウォーターズが「アパラチアン養蜂家集団プログラム」と称して、養蜂家を増やすための研修プログラムをスタートした。同団体は中央アパラチアの炭鉱跡に自然のカシやブナなどの森、小川を取り戻し、持続可能で経済的な機会を創出することを目的に2016年に設立された。

養蜂家が増えるウエストバージニア州

同団体は、これまでにウエストバージニア州内の17地域でプログラムを実施。約90人(2019年度は55人、2018年は35人)の養蜂家が誕生した。一つの養蜂箱には約4万から6万の蜂がおり、天候にもよるが毎シーズン27から45キロの蜂蜜が生産できるという。

450グラムあたりの平均取引価格は6-7米ドル(日本円で約650-760円)。仮に春と秋の1シーズンに45キロ生産すれば、単純に1箱あたり600-700米ドル(約6万5000-7万6000円)の収入が見込める。ウエストバージニア州には貧困ライン以下で暮らす人も多く、そうした人たちにとっては重要な副収入になる。養蜂箱が複数あれば当然その分収入も増え、主な収入源にしていくことも可能だ。

たとえば、ワシントンポストによると、2018年に受講したルイザ・モーテンさん(58歳)は、教会のアシスタント事務をしているが収入は貧困ラインを下回る15,800米ドル(約17万円)。三つの養蜂箱からスタートしたモーテンさんは、1シーズン1箱あたり31キロ弱の収穫で合計1200米ドル(約13万円)ほどの収入を見込んでいる。養蜂はあまり手間をかけずに他の仕事と兼業することもできるのも魅力だそうだ。

さらに、蜜蝋を使ってリップクリームやキャンドルなどの加工品をつくれば事業は拡がる。同NPOでは、蜂蜜を使った加工品に関するプログラムも提供している。

このプログラムへの参加費用は無料で、関心のある人なら誰もが参加できる。「私たちの活動の目標は、低所得層がより多くの収入源を確保ができるようサポートすることなので、低所得者層を活動の重点対象にしています」と同NPOの調査研修担当のケイトマン博士。受講者は講座が終了すると養蜂箱や蜂などを無料もしくは割引で受け取り、その後も継続して講座やメンター指導を受けられる。同団体が蜂蜜の買い取りを行う養蜂家は、所得の必要性に応じて選ばれるという。

養蜂業のメリットは経済的な効果だけではない。共同創設者のケイト・アスキッシュさんは、ワシントンポストに対し、「養蜂業は地域にも環境にもWin-Winなのです」と語る。蜂を増やすことによって、受粉が植物の繁栄をもたらす。そして炭鉱開発により破壊された環境を回復させ、また、農薬や気候変動の影響で減少が危惧される蜂をさらに増やすことにも貢献できる。まさに一石二鳥の事業と言えそうだ。

ワシントンポストによると、収穫された蜂蜜は、春はブラックベリーの香りがする軽やかな甘さ、秋の蜂蜜は色が濃く、濃厚な味わいだそうだ。ウエストバージニア州での試みが成功すれば、豊かな自然の恵みを活かしながら、経済的なメリットを生み出すモデルをつくることができる。蜂蜜のような甘い結果をもたらすかどうか、今後の展開に大いに注目したい。

【参照サイト】Appalachian Head Waters
【参照サイト】Why West Virginians in coal country are turning to beekeeping
【参照サイト】Out-Of-Work Appalachian Coal Miners Train As Beekeepers To Earn Extra Cash