国境を超えた輸出入が盛んになる今、他国の文化を楽しむと同時に考えたいのが、海上輸送に伴う二酸化炭素の排出だ。海上輸送分野は、年間約9億トン、世界全体の約2.5%に当たる二酸化炭素を排出している(※1, 2)。これは航空分野とほぼ同じ割合だという。
さらに貨物輸送分野の成長率を踏まえると、その排出量は2050年までに10%に及ぶと予想されている。環境に配慮した燃料の開発も進む一方、グローバルな物流市場が拡大し続ければ、二酸化炭素の排出量を完全に埋め合わせることは難しいだろう。
こうした貨物輸送の課題に対し、フランスの企業が帆船を再興し現代のテクノロジーと融合させることで、解決を試みている。帆船貨物輸送会社・TransOceanic Wind Transportが製造した帆船「Anemos」だ。同船は長さ約81メートル、幅約15メートル、そして高さ約63メートルと、現在使用されている帆船の中でも世界最大級であり、2024年8月から9月にかけて大西洋横断に成功した。
Anemosは通常の貨物船と比較して、最大約90%の炭素排出を削減できるという。つまり150〜200トンの二酸化炭素排出を防ぐことができるそうだ。
ワインやジャムを載せたAnemosは、8月中旬にフランス北西部のル・アーブル市を出発し、3,662海里(約6,782キロメートル)の大西洋横断を開始した。9月初旬にニューヨークに到着した後、コロンビアでコーヒーを積んで帰るそうだ。
伝統的な帆船との大きな違いは、現代テクノロジーの導入だ。帆を支えるロープ類は、滑車やセンサーなどが高度システムで管理・操作されるという。バックアップとして、ディーゼルエンジンによる発電機能も備えている。
今回Anemos号は、約1,000トンの貨物を載せた。既存の帆船の積載量がおよそ35トン、通常のコンテナ船はおよそ3万8,000トンであることを加味すると、Anemosは帆船としてかなり大型である一方、通常のコンテナ船の代替となるには積載量の増加が求められることが分かる。
このような帆船の開発は、欧州を中心に注目を集めており、同じくフランスでは、Grain de sailが商品の製造から帆船での運送まで手がけている。さらにオランダで運用中のTres Hombres、スウェーデンで開発されているOceanbirdなどが帆船の拡大に取り組んでいるのだ。
帆船での輸送は、通常のコンテナ船に比べて時間はかかる。通常の貨物船は、時速およそ25〜46キロメートルで進む。一方Anemos号は、時速およそ18.5キロメートルだという。この“遅さ”は、果たしてネガティブなものだろうか。オンライン上で買い物をするとき、本当は緊急ではないのに、数日後に届く最短配送を依頼してしまう人は少なくない。
一方で、配送の選択肢に「遅くても良い」「環境に優しく」をクリックする場所はないだろう。今私たちは、急ぐという選択肢ばかりに囲まれているかもしれない。
風と共にゆっくりと配送される帆船輸送。二酸化炭素排出量の少ない輸送手段としてこれから導入が進めば、気長に待つ時間さえも豊かなものとなるはずだ。
※1 Fourth IMO GHG Study 2020 Executive Summary
※2 国際海運の2050年カーボンニュートラル達成に向けて|国土交通省
【参照サイト】TOWT
【参照サイト】SAILING CARGO VESSEL “ANEMOS” IS APPROACHING AMERICA.|TOWT
【参照サイト】World’s Largest Wind-Powered Cargo Ship Makes Transatlantic Voyage To US | IFLScience
【参照サイト】France’s first wind-propelled cargo ship successfully crosses Atlantic
【参照サイト】TOWT: First sailing cargo ship begins transatlantic journey – Offshore Energy
【参照サイト】Le plus gros cargo à voiles du monde a achevé sa traversée de l’Atlantique
【参照サイト】Transatlantic Freight Companies Have the Wind in Their Sails
【参照サイト】World’s Largest Sail-Powered Cargo Ship Has Embarked Maiden Atlantic Crossing
【参照サイト】Climate impact of shipping | Transport & Environment
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