経済大国といえば、依然としてアメリカのイメージは強い。2024年9月現在、同国の名目GDPは約28兆7,800億ドルと圧倒的な1位であり、中国、ドイツ、日本、インドが続く。2位の中国が約18兆5,326億ドルであったことと比較すると、その差は10兆ドル近くにのぼる。1980年以降、アメリカのGDPは常に世界トップに位置し、絶えることなく「成長」してきたのだ。
そんな経済大国にも、とある波が押し寄せている。欧州を中心に議論が高まっている脱成長のムーブメントだ。行き過ぎた資本主義に歯止めをかけ、計画的にエネルギーや資源の使用量を減少させていく動きを指す。
その象徴とも言える組織が、シカゴに設立された「Degrowth Institute」だ。2024年10月に正式な設立を迎え、すでに市民向けのさまざまなイベントを開催している。勉強会やコーヒーを飲みながら語る会、ブッククラブなどを、他組織とも連携しながら実施しているようだ。
同組織の共同代表であるJohn Mulrow氏は、経済や金融の中心地であるアメリカにおいて脱成長組織を立ち上げることの意義について、IDEAS FOR GOODの取材でこう語った。
「アメリカで脱成長運動を拡大することは、環境面において重要です。なぜなら、金融の流れは環境規制や生物多様性の保全などの生態学的機能と密接に結びついているからです。世界の生産・消費活動の約25%は、アメリカを拠点とする企業や個人によって行われています。
つまり、私たちの社会は社会的かつ生態学的な影響に対して大きな責任を負っていると言えます。だからこそ私たちは、政治的境界に関係なく経済の有害な側面の脱成長を追求することを提唱します」
同国において脱成長の議論が深まることは、気候危機対策における一つの希望とも言える。とはいえ、こうした議論をアメリカ国内で展開するにあたっては、市民からのネガティブな反応が返ってくることもあるだろう。
しかしJohn氏は、学術分野やビジネス界で脱成長について語るとき、往々にして肯定的な反応を受け取ってきたというのだ。
「私が出会った人々の多くは、有限の世界での終わりのない成長は破滅への道であるという考えに直感的に同意していました。脱成長は、気候変動対策、エネルギー転換、環境正義、その他多くの環境問題に対する活動の成果が、社会で実現されるために欠けているカギなのです」
同氏は、再エネが増加するだけではなく化石燃料から置き換わることや、そもそも必要なエネルギー総量を減少させることの重要性も指摘した。本質的に持続可能な社会に向けて、脱成長は“チャンス”でもあるとのことだ。
Degrowth Instituteでは、2025年に脱成長サマースクールを開催することを目指している。3日間にわたり、脱成長の原則や歴史、科学、そしてムーブメント構築について議論される。その講師陣は、国内を中心に、気候正義、再生型農業、連帯経済、生態経済学、そして先住民族経済学など、成長至上主義からの脱却に向けた道筋を示す分野から招かれる予定だ。
世界の経済成長をけん引してきた、アメリカ。世界全体への影響力を持つ国として、これからどのような「成長」との向き合い方を示すだろうか。その片鱗は、市民レベルから既に見え始めているのかもしれない。
【参照サイト】Degrowth Institute
【参照サイト】GDP, current prices|IMF
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