木は住民の“薬”。ケンタッキー州の調査が、植樹と健康の関係を明らかに

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多くの人は、緑に囲まれて深呼吸をすると清々しい気持ちになることだろう。木は地球環境に欠かせない存在であり、私たちに美しい景観や木陰を提供してくれる。それだけではなく、木は人の健康とも深くつながっている。アメリカ・ケンタッキー州ルイビルの画期的な研究Green Heart Louisville Projectは、「木は人間の薬になる」ということを科学的に立証した。

このプロジェクトは、ザ・ネイチャー・コンサーバンシー(TNC)の資金援助のもと、ルイビル大学のアルニ・バトナガル博士が地元の研究室と連携して、2017年に発足されたものだ。

ケンタッキー州のルイビルでは、建物の老朽化や開発などにより毎年5万4,000本の樹木が失われている。また、炭鉱地帯の中心に位置しているため、年間を通したルイビルの大気汚染レベルは全米で連続ワースト1位だ(※1)。最近の研究では、ルイビルの死因のトップである心臓病や糖尿病のリスクの高さと、緑が少ない居住地域の空気の質の低さが関係しているということも判明した(※2)

Green Heart Louisville Projectのチームは、「より緑豊かな地域は健康被害のリスクを下げ、生活を向上させ、コミュニティの結束力を高める」という仮説を立て、それを検証するための“臨床実験”を行った。

実験の対象となったのは、ルイビル南部の高速道路に隣接した低・中所得地域だ。この地域は、市内の裕福な地域に比べて樹木が少なく、大気汚染によって健康被害を受けている人が多い。住民は54%が白人系、29%が黒人系、11%がヒスパニック系である。

その地域の25歳から75歳の約750人を対象に、血液、尿、爪、毛髪のサンプルと健康データを採取した。その後、住民とともに調査地域の一部に約8,500本の常緑樹、630本の落葉樹、45種類の低木を植えた。そして2023年と2024年、同地域の住民から新たにサンプルを採取したのだ。

結果、調査対象者たちは植樹をしていない地域の住人と比較して、血液の炎症を起こす高感度C反応性タンパク質(hsCRP)と呼ばれる指標の値が、13%減少したことがわかった。ほかにも、心臓病やがん、糖尿病、関節炎などのリスクだけでなく、うつ病や不安障害といったメンタルヘルスリスクが20%減少したことも判明した。木が環境と人の健康に良い効果をもたらすだけではなく、植樹の体験が人々につながりをもたらしたと考えられるだろう。

同プロジェクトでは、今後も植えた緑のメンテナンスをしながら、空気を冷やして汚染防止を最大化するための最適な樹木の種類や、近隣の緑化の住宅高級化などに及ぼす影響について調査していくという。プロジェクトは、NYやワシントン、デンバー、さらには全米に広がっていく予定だ。

緑は富裕層の特権ではなく、すべての人間にとって必要不可欠なものだ。木が住民の処方箋となれば、良い健康予防となる。それは、長期的な医療費の大幅な削減を可能にするだけでなく、誰かの命を救うことにもつながるかもしれない。木の薬が効くとわかった今、それを試す価値は十分にあると言えるだろう。

※1 The Green Heart Project
※2 Green Heart Louisville

【参照サイト】The Green Heart Louisville Project 
【参照サイト】The Green Heart Project
【参照サイト】UofL Green Heart Project: residents’ inflammation lower after trees added to neighborhoods
【参照サイト】Groundbreaking Study Demonstrates Clinical Benefits Of Planting Trees: The Green Heart Louisville Project Reveals How
【参照サイト】A City Finds Success Using ‘Trees as Medicine’
【参照サイト】Living in tree-filled neighborhoods may reduce risk of heart disease, study shows
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Edited by Megumi

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