“誰か”がいないと座れない、シーソー型ベンチ。会話のきっかけ作りでメンタルヘルス向上へ

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ロンドンのショッピングストリートに、突如黒いシーソーが現れた。片面にヒゲの形をした背もたれがついていて、普通に遊べるわけではないようだ。ベンチのように腰掛けることはできそうだが、どうにも不安定だ。一体これは何なのか……。

このシーソー、実は「会話を促すためのベンチ」なのだという。その名は「A Problem Halved(半分になった問題)」。男性向けのメンタルヘルスケアに取り組むチャリティー団体・Movemberが企画したインスタレーションで、二人で座らないと安定しないベンチを設置することで、忙しなく人々が行き交う中でも、親しい人や友人、通りがかりの人とも会話を始めるきっかけを作ろうとしたのだ。

ベンチの名前は、「A problem shared is a problem halved(共有された問題は、半分になる)」ということわざに由来。抱えている悩みや不安を誰かと共有することで、その課題を少し軽くすることができることを伝えようとしている。

その背景には男性のメンタルヘルスに関わる問題があった。イギリスでは自殺によって命を落とす人の4分の3、世界では3分の2が男性であるという。Movemberは2003年に設立され、メンタルヘルスの向上や自殺予防、前立腺がんと精巣がんの啓発に取り組んできたのだ。

団体が設立されたきっかけは、男性の健康促進と前立腺がん支援を目的に、参加者が10ドルの参加費を支払い、ヒゲを生やすチャリティーイベント「Movember」だ。オーストラリア在住の男性二人が「ヒゲをまた流行らせよう」と冗談半分で話した後、乳がんのファンドレイジングに感化されて始めた。以来、それが組織名となりヒゲをモチーフとした活動が続いている。

今回の取り組みにおいて特長となったのは、男性をターゲットとしたキャンペーンでありながら、誰でも参加できるデザインにした点だ。あえて男性だけに限定せず、対象を広げ自然と会話を生むベンチを置くことで、間接的ながらもよりオープンに男性のメンタルヘルスへの必要性も伝えられるだろう。

街中にあるシーソー型ベンチは、一時的な解決策かもしれない。しかし、この発想を地元の地域や企業のオフィスに取り入れてみてはどうだろう。「活動するための場所」だけではなく「集まってただ会話をする仕掛けのある場所」が増えれば、メンタルヘルスに限らず悩みを相談し、課題を予防できる社会が生まれていくかもしれない。

【参照サイト】The moustache bench: A problem shared is a problem halved|Movember
【参照サイト】Movember’s A Problem Halved Bench Inspires Mental Health Conversations|Trend Hunter
【参照サイト】Movember Have Launched Surprise ‘A Problem Halved’ Bench Installation In London To Inspire Conversation About Mental Health|Secret London
【参照サイト】‘A problem halved’: Movember’s moustache-shaped bench inspires conversation|Marketing Beat
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