鳥のさえずりが充足感を高める。人間と自然の“音”の関係を、英国の研究チームが発見

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寒い冬を乗り越えると、うぐいすが春の訪れを告げるように、鳥の声は私たちの生活が四季のめぐりの中にあることを思い出させてくれる。都市化が進んだ地域であっても、どこかで季節ごとの鳥のさえずりが聞こえるだろう。

鳥の声は「自然界の声」の一部だ。こうした音の情報は、55年間にわたる録音から生態系の“健康状態”を伝えるなどして、人間社会に閉じがちな私たちを自然界へと引き戻してくれる。

沈黙する「自然のオーケストラ」が、私たちに教えてくれること

そんな自然の音と人間の意外な関わりについて、新たな研究結果が発表された。ある場所を訪れたとき、その環境の鳥のさえずりが多様であるほど、そこでの経験に対する人々の充足感や、自然への親近感が強くなることが分かったのだ。イギリスの研究者・ナタリア氏が率いるチームが2024年12月に発表した。

研究の対象となったのは、ぶどう畑ツアーの参加者。同国内の3つのぶどう畑で、それぞれ鳥の声の多様さと音量に差が出るようスピーカーで環境をコントロールした上で、場所によって参加者の自然に対する見方やツアー満足度がどう異なるのかを調査した。すると、鳥の種類が多様であるほど、参加者はサウンドスケープとのつながりを強く感じ、ツアーへの評価も高くなったそうだ。

つまりさまざまな鳥のさえずりが聞こえることは、ただ「何となく」心地良く感じられるのではなく、自然に触れることへの姿勢を実際に変えているのだろう。

この発見は、さまざまな場面で生かすことができる。例えば、自然の中でのツアーを企画しているならば、その行程で「五感を使えているか」という観点を重視してみてはどうだろう。普段は視覚に頼りがちな学びも、聴覚から取り入れてみることで、言葉では伝わらない変化を生むことができるかもしれない。

ほかに、都市空間デザインにも大いに生きる。都会でも鳥は共存している一方、車が行き交い工事音が響く都会では、鳥をはじめ生態系の声はかき消されてしまう。街中の「音」から都市デザインを見直してみることで、そこで暮らす住民の環境意識が変わることもありそうだ。

この研究を行ったNatalia氏とSimon氏は、The Conversationの記事で自らの研究を“利己的”と指摘しつつ、このように言及している。

私たちの研究は、自然の音風景を保護するための、強力ではある一方、利己的な主張を提示しています。(中略)企業や人々が環境保護に投資し、職場の中庭や屋外席のあるレストランなどのクリエイティブな環境で自然との関わりが促進されることを願っています。

研究から分かったことは、「鳥が人間に与える」前向きな変化であった。しかし、忘れてはならない。人間の行動も鳥に変化を与えている。互いに影響を及ぼし合っていることを想像しながら、より生態系とのバランスが取れた社会に向けて、鳥の声に耳を澄ましてみよう。

【参照サイト】The hidden benefits of birdsong|The Conversation
【参照サイト】Why birdsong matters more than you think|The Guardian
【参照サイト】Increased bird sound diversity in vineyards enhances visitors’ tour experience, People and Nature, Vol. 6, Issue 6.
【参照サイト】Smartphone-based ecological momentary assessment reveals mental health benefits of birdlife, 2022, Scientific Reports, Vol. 12.
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