駅の喧騒や鳥の声……世界中の日常を「音」で記憶するプロジェクト

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自然に囲まれた場所に行くといつも「静寂」に驚く。そして同時に自分が日頃いかにたくさんの音に囲まれて生活しているかに気付く。電車のアナウンスと発車音、歩道のアスファルトに靴が当たる音、スマートフォンのメッセージ通知音……普段意識して聞かない音もすべて私たちの生活を記憶する一つの要素なのだ。

「産業革命以前は、われわれの周りの音は数百年間、あまり変わっていなかっただろう。鐘や馬のひづめ、手工業の音などだ。現在の変化のペースはおかしい。携帯電話の着信音のようにほんの数年前の音が、時代遅れに聞こえてしまう。」

AFPのインタビューでそう語るのは、イギリス・ロンドンのStuart Fowkes(スチュアート・フォークス)さんだ。彼は携帯型録音機器を片手に、地下鉄を待ち、電気自動車を追いかけ、電話ボックスでコインを入れて電話をかける。ロンドンの「日常の音」を記録していくのだ。

世界中の生活音こそ、街の記憶を保存するのに必要な要素なのではないか?そう考えたスチュアートさんは「Cities and Memory(シティーズ・アンド・メモリー)」というサイトを立ち上げた。サイトができてから5年間、世界100か国から5,000以上の「音」が寄せられ、現在は1,000を超えるコラボレーターとともにストックを増やしているという。彼らのチームが集めた音はイギリスの大英図書館にも所蔵されている。

筆者は数年前に日本からイギリスに移り住んできたのだが、「大阪駅の音」を聴いて、実際に日本にいるかのような気分になった。懐かしい場所がある人にとって、音は記憶を呼び覚ますための大きなトリガーでもあるのだろう。

私たちの生きる世界は昨今かなり「視覚優位」になっているとスチュアートさんは語る。図書館や美術館に所蔵されるのは「視覚で捉える」ものが圧倒的に多い。さらに最近は写真や動画を気軽に撮影できるようになったことから、自分や他人の視覚的作品を見る機会が多くなった。旅行にいっても、インターネットで見た「景色」を答え合わせのように探していないだろうか。

普段「ノイズ」だと思って遮断している音も、私たちが暮らす街の風景の一部なのだ。そう思うと、たまにはイヤホンを外して外を歩きたくなる。

【参照サイト】Cities and Memory
【参照サイト】公衆電話から8ミリカメラまで 「失われつつある音」保存プロジェクト
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