テクノロジーや産業構造は加速度的に発展し、スマート家電や高機能なインフラの普及により、私たちの生活は格段に便利になっている。しかし今、その「裏側」で巨大なインフラを動かすために浪費されるエネルギー消費の急増が世界で課題になっていることをご存じだろうか。
特に、AI技術の進化に伴いデータセンターのエネルギー需要が増加し、結果として温室効果ガスの排出量が増加している。Googleの最新の環境報告書によれば、同社の温室効果ガス排出量は2019年以降48%増加し、2023年にはCO2換算で1,430万トンに達している(※)。
では、利便性をすべて捨てて昔の生活に戻るしかないのかと問われれば、必ずしもそうではないはずだ。地球との調和を図りながら、必要十分な技術で暮らす道筋はほかにないのだろうか。
こうした課題に対し、フランスを中心に持続可能なライフスタイルを探求する実験プロジェクト「Biosphere Experience」が新たな手がかりを示している。彼らはパリ近郊のブローニュ=ビヤンクールで「未来のアパート(Appartement du Futur)」を期間限定でオープン。2024年7月中旬から11月中旬まで、4か月にわたって実際にデザイナーらがそこに暮らすことでハイテクならぬ「ローテク(Low-tech)」中心の暮らしを検証した。
具体的にローテクな暮らしとはどのようなものだろうか。室内にはハイドロポニック(養液栽培)システムを導入し、野菜を栽培。食材の自給率を高め、また生ごみを堆肥化して栽培に活用する循環型のプランターを活用した。トイレは排泄物を微生物と植物で処理するコンポスト方式を導入し、水の消費を90%以上削減したという。

野菜栽培の様子 Image via Biosphere Experience
エネルギー源としては、ソーラーパネルを設置し、電力を自家発電式に。また、家電の使用を最小限に抑えるため、一部の機器は人力発電が可能なデザインに変更した。たとえば、手回し式の洗濯機やペダルを漕いで充電する発電機などだ。

パソコンは使用せず、必要最低限で Image via Boulogne Billancourt

手回し式の洗濯機 Image via Biosphere Experience
プロジェクト「Biosphere Experience」の中心となったのは、フランスの「ローテクラボ(Le Low-tech Lab)」でも活動しているエコデザイナーのキャロリンヌ・プルツ氏やローテク研究者のコランタン・ド・シャテルペロン氏らである。この未来のアパートの試みが示すのは、テクノロジーを排除するのではなく、あえて最小限に絞ることで、外部の大規模インフラに頼らなくても快適に暮らせる可能性があるという点だ。ただ利便性を捨てて過去の生活様式に戻るのではなく、「必要なものを厳選し、持続可能な方法で活用する」という発想が根底にあるという。
利便性の追求が人間の主体性を奪いがちな現代において、あえて「手間をかける」ことが、暮らしの選択をより意識的に行うきっかけとなるという点も興味深い。自らの手で維持・調整するプロセスを通じて、生活の創造性や自律性を取り戻すことができるのではないか。
このプロジェクトの成果は、今後レポートやオープンソースのガイドとして公開される予定であり、都市型住宅のあり方やライフスタイルの選択肢を広げる重要なヒントとなるだろう。単なるエネルギー削減ではなく、テクノロジーとの適切な距離感を模索しながら、プラネタリーバウンダリーの範囲内で心地よい生活をデザインする方法を提示する。今後この未来のアパートプロジェクトが、私たち一人ひとりの生活の在り方を問い直すきっかけとなるかもしれない。
※ So much for green Google … Emissions up 48% since 2019
【参照サイト】LE PROGRAMME BIOSPHERE : HISTORIQUE
【参照サイト】Le Low-tech Lab