「そうだ、パンツを土に埋めよう」スイス全土に広がった、市民による土壌調査

Browse By

2人の少年がシャベルを地面に突っ込み、下着の残骸を苦労して掘り出すのを私たちは見ていました。下着が埋められていた2か月の間に、オーガニックコットン生地のほとんどが分解されていました。「ミミズや昆虫、バクテリアが僕たちのパンツをほとんど食べてしまった!」と少年たちは叫びました。「うちの土は健康なんだ!」

科学ジャーナルの『サイエンス』に掲載された記事は、このような書き出しで始まった。1,000枚のパンツを使って土壌の健康状態を調査する実験が、スイス全土で実施されたのだ。

「Beweisstück Unterhose(ドイツ語で「証拠品:下着」)」と名付けられたこの取り組みは、スイスの農業研究機関アグロスコープとチューリッヒ大学が2021年に共同で実施したものだ。多くの人々の手を借りながらスイス国内の土壌にいる微生物の状態を調査することで、市民の環境保全活動への参加意識を高める狙いがあった。

もともとはハンカチや靴下を使って土壌中の微生物の状態を見ることを考えていたが、同団体は、科学者以外の一般の人々に広く参加してもらいたいという思いから「パンツを埋めませんか」という宣伝に切り替えることに。それが農家や趣味で園芸をする人々の目を惹き、用意していた1,000人の参加者枠はすぐに埋まることとなった。

土壌の健康状態を測る方法は単純だ。まず、参加者に専用のアプリをダウンロードしてもらい、自宅の庭や農園、近くの土地に綿100%のパンツを埋めてもらう。数週間後に掘り出し、どれほど分解されたかを確認する。分解度は10%、20%、40%、60%以上、の4段階で評価され、分解が進んでいるほど土壌の中の微生物が活発な証拠となる。

参加者が結果を専用アプリに報告することで、全国規模のデータベースに統合される。これにより、地域ごとの土壌の健康状態を可視化できるという仕組みだ。配布したパンツの枚数から1,000件の報告しかないとはいえ、市民が自らデータを収集し、科学に貢献する「シチズンサイエンス(市民科学)」を全国レベルで行なった好例といえる。

論文の執筆者であるフランツ・ ベンダー氏と、マルセル・GA・ファン・ デル・ハイデン氏は、Nature誌のなかで「自らの土地から腐敗した下着を回収するという感覚的な体験が、参加者が土壌を“生きたシステムであり重要な資源”として捉えるきっかけになり、良心的な土壌管理者としての役割を果たす力を与えてくれたことを願っています」と語った。

一方で、このプロジェクトには課題もある。実験上、パンツの分解度合いは土壌中の微生物活動を示すものとされているが、その分解度合いには、土壌の湿度、温度、pH値などの要因も影響する。結果を適切に解釈するには、慎重な分析が必要だ。また、市民が自主的にデータを収集・報告するため、データの一貫性や精度の確保も課題になると言える。

それでも、シチズンサイエンス(市民科学)の意義は大きい。市民が協力し、自らがプロジェクトの実践者となり、このように土壌を大規模に調査する実績が一つできたことが広く報道され、今では世界25か国以上から似たようなプロジェクトが報告されたと論文では書かれている。市民とともに持続可能な未来を築くための第一歩として、こうした取り組みを検討する価値はあるだろう。

【参照サイト】Beweisstück Unterhose
【参照サイト】Assessing soil health with underpants

Thumbnail photo by Gabriela Braendle
【追記:2025/4/21】記事公開当時、この実験について文中で「『ネイチャー』に掲載された論文」とご紹介しておりましたが、正しくは「『サイエンス』に掲載された記事」でした。訂正し、お詫び申し上げます。

Climate Creative バナー
FacebookX