イギリスの代表的な料理、ビーンズ・オン・トースト。トマトソースで煮込んだ豆をトーストにのせるだけのシンプルな一品だが、手軽さと安さから“庶民の味”として長年親しまれてきた。そんなビーンズ・オン・トーストが、意外な姿で再登場した──なんと「石鹸」として。
色も香りも本物そっくりなこの石鹸を手がけたのは、スキンケアブランド・The Goodwash Companyと、衛生の貧困解消に取り組む団体・The Hygiene Bank。このコラボレーションプロジェクトには、深刻な社会問題への訴えが込められている。
その問題こそが「衛生の貧困」だ。衛生の貧困とは、石鹸や歯ブラシ、生理用品など日常の衛生管理に不可欠なものが、経済的理由で手に入らない状態を指す。これは、健康リスクや社会的な孤立を招く可能性もある重大な問題だ。
The Hygiene Bankによると、イギリスでは約530万人(成人の8%)がこの問題に直面しているという(※1)。物価やエネルギー費の高騰により、「食料を買うか、衛生用品を買うか」という厳しい選択を迫られる家庭もある。一方で、この実態を知らない人々はイギリス全体で約2,000万人いると推定されている(※2)。
そこでThe Hygiene Bankは広告代理店・Saatchi & Saatchiと協力し、“食べられる石鹸”を通じて社会へのメッセージを発信。困難な選択の現実を可視化し、人々の気付きを促す狙いだ。

Image via Hygiene Bank
また人々が衛生用品を手に入れにくい要因には、イギリスで石鹸や生理用品に生活必需品としての軽減税率が適用されていないこともある。現在それらの商品には20%の付加価値税(VAT)が課されており、The Hygiene Bankはその見直しを求めて請願活動を展開している。今回の石鹸はその働きかけの一環としても開発されたのだ。

Image via Hygiene Bank
Goodwash Companyは試行錯誤の末、カカオバター、有機オーツ麦粉、アボカドオイル、パプリカなどの天然素材を使用して、“ビーンズ・オン・トースト味”のリアルな石鹸を完成させた。区分上は食品であることから、軽減税率が適用される。有名シェフがそれを使って作った料理がSNSに投稿するなど、ユーモアと社会的メッセージを同時に伝えるキャンペーンとして注目を集めている。
この石鹸は、あくまで社会的メッセージを伝えるための抗議キャンペーンの一環だ。商品を購入しなくても、誰でもThe Hygiene Bankのウェブサイトから寄付をすることができる。
私たちが当たり前のように使っている石鹸が、ある人にとっては買う余裕のない「贅沢品」になっているかもしれない。ビーンズ・オン・トーストの石鹸を通じてその現実に気づいたとき、あなたはどう感じるだろうか。
※1 The Hygiene Bank Launches #StopTheSoapTax Campaign to End VAT on Soap The Hygiene Bank
※2 Saatchi and the Hygiene Bank Unveil Powerful Symbol of Hygiene Poverty in the UK Little Black Book
【参照サイト】The Hygiene Bank
【参照サイト】Beans on toast soap aims to tackle hygiene poverty
【参照サイト】The Edible Soap
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Edited by Megumi