ますます暑くなる夏。エアコンや冷蔵庫が手放せない一方、電気代は高騰し、体調にも財布にも厳しい季節がまもなくやってくる。ただ、そんな酷暑の中で、そもそも電気にアクセスできない地域はさらなるリスクに晒されているのだ。
そんな酷暑を「電気不要のどこでも使える冷蔵庫」で乗り越えようと、インドの都市・インドールに暮らす3人の高校生、ドゥルブさん、ミスランさん、ムリドゥルさんが立ち上がった。
彼らが開発したのは、電気を一切使わず、塩水の化学反応を活用して冷却する冷蔵庫「Thermavault(サーマボルト)」だ。使用する塩は、塩化アンモニウムと水酸化バリウム八水和物。これらが水に溶ける際、イオンが分かれて熱を吸収するため、周囲の水が冷やされるという仕組みだ。
塩化アンモニウムで約2~6度、水酸化バリウム八水和物を加えると0度以下を維持することができる。本体は断熱プラスチック容器で、内側が銅板で覆われ、プラスチックと銅の隙間にこの塩水を注げば10時間以上冷却が続くという。
3人はサーマボルトを、医療物資の輸送に役立てることを目標としている。インドの農村部では電気が安定して供給できない地域もあり、4つに1つのワクチンが冷却不足により使えなくなっているそうだ。電気を使用しない冷蔵庫があれば、ワクチンを無駄なく届け、医療へのアクセスを広げることができるだろう。
サーマボルトは、冷却が終わっても、加熱して水分を蒸発させれば再び使用できるためごみの発生も抑制できる。3人は医療分野からのプラスチックごみ削減にも向けて、この装置の導入を目指しているとのことだ。
この投稿をInstagramで見る
2025年4月には、13〜19歳の学生を対象とした世界最大の環境サステナビリティコンペ・Earth Prizeでアジア部門の代表者としてサーマボルトが選出され、1万2,500ドルを獲得。これから国内120の病院で200台を装置する予定だという。
気候危機や資源制限が深刻化するいま、電力に依存せずに「冷やす力」を持つこの冷蔵庫は、これからの社会で貴重な価値を持つだろう。ただし、今回サーマボルトで活用した仕組みは、高校で習う溶解熱という現象が土台となっている。華やかで高性能なプロダクトではなく「誰もがアクセスできる」冷却機能を再構築する、やさしい技術なのだ。
「テクノロジーは、誰のために、どこで、どう使われるべきか」という問いを引き出して形にするには、専門知識の量だけではなく、身近な知識の使い方が重要であるのかもしれない。
【参照サイト】3 teens invented a salt-powered refrigerator that doesn’t need electricity. They’re building 200 of them for hospitals to use.|AOL
【参照サイト】インドの高校生が発明!塩で冷やす電気いらずの冷蔵庫「サーマヴォルト」|TECH SPARK
【参照サイト】Meet The Earth Prize 2025 Regional Winners!|The Earth Prize
【参照サイト】The Earth Prize 2025 Asia Winner: Thermavault!|YouTube
【関連記事】泥水を飲み水にするペットボトルキャップが、水不足の地で暮らしを潤す
【関連記事】古代の技術で、電気なしの涼しさを。ハチの巣にヒントを得たインドの建築技術