ニュージーランド政府「人口が10万倍になった」と発表?嘘のようで本当の人口が示す、命の危機

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日本の人口を聞かれたら、多くの人は「およそ1.2億人」と答えるはず。特に異論を示す人もいないだろうし、この数字から大きく外れた選択肢が出てくることはないだろう。

同じように計算すると、ニュージーランドの人口は500万人となる。しかし2025年9月、同国の政府機関が「この国の真の人口は、6,950億である」と発表。本当の人口は10万倍も多いことが示されたのだ。

一体なぜ、そんな数え間違いが起きたのか──実はこの発表、同国の「環境保全省(DOC)」が行ったもの。人間の数だけを数えるのではなく、鳥や魚、昆虫、植物など、国内で生きるあらゆる命を人口として数え直すことで、同じ土地に生きる生き物たちが減少しつつある現状を訴えたのだ。

6,950億という数字は概算ではあるものの、人間の数を圧倒するほど多くの生き物が共に暮らしていることを教えてくれる。そんな意表を突くメッセージは、YouTubeの動画や街中のデジタル広告を通じて社会に広がり、話題となった。

DOCの調査によると、ニュージーランドでは90%の人々が自然を大切に思い、89%が国内の自然は「良好な状態にある」と信じている(※1)。しかし現実には、同国で4,000種もの在来種が絶滅の危機に瀕し、生態系の63%が崩壊の瀬戸際にある(※2)。例えば、国鳥であるカカポはわずか238羽しか残っていないという。

この危機的な現状に意識を向け、人々のアクションを促すために「Always Be Naturing」というキャンペーンが開始され、“本当の”人口を伝える記事や広告が公開されたのだ。 人口6,950億という数字は、ニュージーランドの住民の99.999%は人間以外であり、いかに人間がマイノリティであるかを突きつける。全体の0.001%に過ぎない人間は、そんな多様な命の支え合いの中にあってこそ生かされているのだろう。

このキャンペーンは、課題提起に加えて、日常で参加できる具体的なアクションも紹介。専用ページでは、費やせる時間や労力、場所、関心のある分野を選ぶと「庭に在来種の鳥の隠れ家となる木を植える」「外来種の雑草を抜く」「猫に鈴をつける」など、20のアクションから自分に合った保全活動が見つかる仕組みになっている。

気候変動や生物多様性の損失をニュースから知っていても、「私たちの地域は大丈夫」と思い込んでしまうかもしれない。しかし、足元の危機こそ気づきにくい。ニュージーランドでの今回の試みは、国の「人口」の定義をクリエイティブに提示し直すことで、自分たちの見えている自然がごく一部であることに気づかせ、知らぬうちに危機が歩み寄ってきていることを悲壮感なく前向きに発信した。

命の数え方を変える。そのシンプルながらも、複雑に関係し合う世界を示した表現が、人間の視点を逆転させ、自然の中での振る舞いを変える転機となりうるのだ。

※1, 2  From 5 million to 695 billion – DOC reveals New Zealand’s “new population”|Department of Conservation/Te Papa Atawhai

【参照サイト】From 5 million to 695 billion – DOC reveals New Zealand’s “new population”|Department of Conservation/Te Papa Atawhai
【参照サイト】New Zealand’s 695 billion population count reminds humans they’re in the minority|Trend-Watching
【参照サイト】New Zealand Declares Population of 695 Billion to Reflect, Save Nature, JCDecaux Donates Billboards|Little Black Book
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