画面スクロールの代わりに、ページをめくらない?ワルシャワの地下鉄駅に図書館が誕生

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地下鉄を待ちながら、人々はスマートフォンに目を落とす。会社に着くまでスクロールを続けるその時間は、ともすれば無機質になりがちだ。そんなひとときを、新たな発見や思索を深める豊かな時間に変えられないだろうか。そんな問いから、ポーランドの首都ワルシャワでは地下鉄の駅構内に新しい図書館が誕生した。

ワルシャワのタウグフェク地区を走る地下鉄線、コンドラトヴィッチャ駅。毎日何千人もの人々が行き交うこの場所にオープンした「メトロテカ(Metroteka)」は、忙しい通勤客が気軽に本の世界に触れられるよう設計された、新しい公共スペースだ。

メトロテカ

Image via Metroteka

広さ150平方メートルのスタイリッシュな空間には、波打つようなデザインの本棚が並んでおり、そこには約1万6,000冊の蔵書が収められている。

メトロテカでは、専用の機械に本とカードをかざすだけで、誰でもスピーディーに本を借りることができる。返却も、駅の外にある24時間利用可能な専用ロッカーに入れるだけなので、時間を気にする必要がない。あわただしい通勤途中でも、サクッと気軽に訪れることができるのだ。

また、館内では大人用と子ども用に分かれた読書エリアでくつろいだり、備え付けのPCをレンタルしたり、無料のコーヒーを片手に一息つくことも可能だ。

水耕栽培の壁

Image via Metroteka

この図書館の特徴の一つとして、地下空間で緑を育てる「垂直庭園」の存在が挙げられる。地下では太陽光や土の確保が難しいが、メトロテカでは水耕栽培の技術を使って、バジルやオレガノといったハーブなどを壁一面に育てている。

この図書館誕生の背景には、ポーランドが直面している深刻な読書離れの課題がある。ポーランド国立図書館が2024年に行った調査によると、過去1年間に少なくとも1冊の本を読んだ国民は、わずか41%にとどまった(※1)

The Gurdianによると、国立図書館の館長トマシュ・マコフスキ氏は、第二次世界大戦で国内の図書館の7割が破壊されたことや、ポーランドでは読書に対して「学校での課題となるもの・母親から子どもへ読み聞かせるもの」といったイメージが強く「大人の文化」として根付いていないことも、読書が日常的な習慣になりにくい一因ではないかと指摘している(※2)

今後、Metrotekaでは作家を招いた朗読会やワークショップなどを開催し、地域コミュニティとのつながりを一層深めていく計画だ。

もし、さほど興味のない記事を惰性で眺めたり、SNSのタイムラインをなんとなくスクロールして時間を潰していたり退屈したりしているなら、代わりに、本を開いてみてもいいかもしれない。新たな物語や知らない知識との出会いが、そして、紙の感触を指で確かめながら本のページをめくるささやかな一瞬が、地下鉄を待つ時間をほんの少し豊かにしてくれるだろう。

※1 Stan czytelnictwa w Polsce w 2024
※2 Warsaw opens metro station ‘express’ library to get commuters off their phones(The Gurdian)

【参照サイト】Biblioteka Publiczna w Dzielnicy Targówek m.st. Warszawy

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