循環システムを作る一歩は、人と人の繋がりから生まれる──そう強く感じさせたのが、京都市主催・ハーチ運営の実践型サーキュラーエコノミー事業開発プログラム「サーキュラービジネスデザインスクール京都(以下、CBDS Kyoto)」の一環として開催された交流会。
2025年11月20日、京都市にある共創施設・QUESTION(クエスチョン)にて開催されたこのイベントでは、循環型ビジネスの実践者によるプレゼンテーションや、新たな循環の可能性を形作るプロダクトの展示が行われた。会場の様子から、京都発のサーキュラービジネスの現在地を探る。
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他者との出会いが、循環のエコシステムを耕す
オープニングに続き、ハーチ株式会社代表取締役の加藤佑がキーノートトークとして登壇。加藤は、サーキュラーエコノミーが単なるリサイクルや環境活動の枠を超え、ビジネスとしての競争力を生み出す源泉であること、そしてその実現には「多様な他者との交流」が不可欠であると語りかけた。
「同じ価値観を持ってる人の間では、ごみはごみにしか見えない。しかし違う価値観を持っている人が集まると、ごみが資源に見える可能性が高まるのです。だからこそ多様な人の集まる場は非常に大事だと思っています」
既存の商習慣や業界の常識にとらわれないパートナーシップの重要性を示すため、加藤はオランダの建築家トーマス・ラウ氏のエピソードに触れた。ラウ氏がある建物の屋根を作る際、可能な限り鉄の使用量を減らしたいと考えた。しかし、鉄骨会社に依頼すれば、彼らは鉄を売ることが商売であるため、多くの鉄を使う提案をしてくる。
そこでラウ氏は、なぜか「ジェットコースターの職人」に依頼を持ちかけた。その理由は、ジェットコースターが、できる限り少ない鉄で安全性の高い構造を作ることが求められる建物であり、その職人ならば鉄の使用量を減らす方法を熟知しているからだったという。
「ジェットコースターの職人さんは当然『屋根なんて作ったことない』と言ったのですが、ラウさんはそこで『じゃあ平らなジェットコースターを作ってくれ。そしたら自分はそれを屋根と呼ぼう』と説得しました。そうしてできたのが、鉄の使用を30%抑えた屋根だったのです」

つまり、自身の事業にとっての「ジェットコースター職人」にあたる、思いもよらない解決策を持つパートナーを見つけることが重要だ。そんな業種を超えたプレイヤー同士が繋がり、最小限の単位で循環を試みる「最小限の生態系」を構築することこそが、次なるステップであると加藤は提唱する。
「最小限の価値循環システムを作ることで、サーキュラーエコノミーがきちんと機能するかどうかをみんなで試行し続けていく考え方ですね。(中略)異業種を繋ぐ線の結節点が増えれば増えるほど、循環可能性が高まると思います。まさに今日のような場を通じて、この線の本数を10本から50本へ増やすと、より循環可能性が高まるはずです」
京都の実践者たちが描く、自然と産業の調和
続いて、実際に京都でサーキュラービジネスを推進している、または今後京都での展開を予定している3社によるプレゼンテーションが行われた。老舗企業からスタートアップまで、多岐にわたる実践のアプローチを見てみよう。
老舗寝具メーカーの挑戦:株式会社イワタ
トップバッターとして登壇したのは、株式会社イワタの代表取締役・岩田有史氏だ。京都に本社を置き、滋賀の工場で製造を行う同社は、「自然との調和を眠りから実現する」をパーパスに掲げている。キャメルやヤク、麻といった天然素材を主原料に、東洋の「天人合一(自然と人の調和)」の思想と科学的な睡眠環境学を融合させたものづくりが特徴だ。
その製造プロセスには、徹底した循環の思想が実装されている。工場では再生可能エネルギー100%利用を達成。製品は家庭で洗える仕様にすることで長寿命化を図り、製品タグのQRコードでメンテナンス情報にアクセスできる仕組みも整えた。さらに、使い古した寝具は仕立て直しによって新たな製品へと生まれ変わり、製造工程で出る端切れさえもタオルや堆肥として循環させている。

登壇資料より
「設計段階から資源が循環するようにできるだけ心がけています。それでも使えなくなったら仕立て直しをする。布団や敷きパッド、ベッドのマットレスまで、仕立て直しの対応をしているので材料を捨てる場面が少なくなるのです」
現在、岩田氏が次の一歩として描くのは、睡眠そのものだけでなく「眠る前の静寂」から一日をデザインする新たな文化の輸出だ。禅的なマインドフルネスを取り入れた空間を構成するため、お香や和ろうそくといった道具をサーキュラーデザインで再編集し、海外展開を目指している。
「例えば拓を例を取りますと、 大概海外から輸入した木材で作ってしまっています。もしかしたらこれを、寺社仏閣や家具の端材を使って日本の木材で作れないかと考えており、引き続き循環と親和性があるモノづくりができればと思っております」

株式会社イワタ代表取締役・岩田有史氏
未利用資源を素材へ、地域産業との共創:Curelabo株式会社
続いて登壇したのは、Curelabo株式会社の赤松司氏だ。沖縄で創業した同社は、サトウキビの搾りかす「バガス」など、これまで廃棄されてきた未利用資源をアップサイクルする素材開発を行っている。
「サトウキビの製糖工程で発生する『バガス』と呼ばれる搾りかすは、年間約5億トン発生していると言われております。 現状は生糖工場のボイラーの焼却燃料として使われているんですが、なかなか全ては使い切れていないという現状があるのです」
同社の開発の核となるのは、日本の伝統的な「和紙糸」の技術。乾燥粉砕した植物残渣を麻パルプと混ぜて紙にし、それを細くスリットしてより合わせることで、軽量かつ機能的な繊維へと生まれ変わるというのだ。京都においては、この技術を地域資源である北山杉の再生に応用している。建築様式の変化により木材需要が減少する中で、林業の新たな価値を創出しているのだ。
「我々は北山杉の枝打ち作業で発生する剪定枝やおがくずを繊維にアップサイクルする取り組みをしております。アパレル製品への展開や、大学と連携したブランディングを通じて、最終的には木材使用の拡大のきっかけに繋げていきたいです」
素材メーカーとしての強みを持つ一方で、赤松氏はその先の「出口」における連携を模索しているとのこと。作った素材をいかに社会へ流通させ、消費者の手に届けるか。そこには共創の余地が残されているのだ。

プレスリリースより

Curelabo株式会社・赤松司氏
植物から内装を自動生成する:株式会社Spacewasp
最後に登壇したのは、株式会社Spacewaspの代表取締役・伊勢崎勇人氏だ。伊勢崎氏は、全産業の中で最も資源を消費すると言われる建設業界の課題に対し、「CO2を吸収して育った植物廃材を建築内装にすることで、炭素を固定する」というビジョンを掲げて挑んでいる。あらゆる植物廃棄物を原料として、3Dプリンターで内装や家具を自動製造するその事業は、まさにグリーンテックの最前線だ。
「日本では、人手不足により、内装が手に入りにくい時代に入っています。 また産業構造上、非常に儲かりにくく、内装はスクラップアンドビルドが当たり前の世界なので環境負荷が大きいです。 だからこそこの内装分野で、植物の廃棄物を自動で内装に変えていく工場を作っています。
地球上のあらゆる植物を粉砕して、植物性のプラスチックに変え、生成 AIあるいは人が考えたデザインに従って3Dプリンターで内装や家具・建材のパーツを作り、完成したパーツが現場に送られます。こうしてプラモデルのように内装を作るだけで完成するシステムです」

プレスリリースより
「サプライチェーン全体を垂直統合することができるため、通常より工期を9割削減できたり、コストを3割削減できたりする効果もあります。また最初はテーブルを作った後、それを原料にして椅子を作ったり、照明に変えたりという形でデザインを変化させることもできます」
さらに、将来的にはこの工場を宇宙へ打ち上げ、宇宙ホテルの内装を作る構想も持つ伊勢崎氏。その壮大なビジョンに向けて、まずは国内での着実な事業の拡大が欠かせない。今回のプログラムの舞台である京都においては、この土地ならではの老舗との協働や新たな植物資源との結びつきに期待を寄せた。

株式会社Spacewasp代表取締役・伊勢崎勇人氏
サーキュラービジネスの種を見つける展示
この日、会場後方には展示ブースも設置され、京都を拠点とする企業を中心に、サーキュラーエコノミーの実現に向けた具体的なソリューションやプロダクトが並んだ。
株式会社colourloop(京都)
京都工芸繊維大学発のベンチャー企業である同社は、廃棄繊維を「色」で分別しアップサイクルする独自技術「Colour Recycle System®」を社会実装するために発足した。年間数百万トンとも言われる廃棄繊維の山に対し、従来のリサイクル手法ではなく「色」という視点を持ち込むことで、新たな素材の価値を模索している。単に再利用するだけでなく、消費者が「素敵だ」と感じる美的価値を付与すること、またサステナブルな製品開発や企業コラボレーションを通じて、環境負荷の低減と人々の暮らしへの彩りの提供を目指している。
甲子化学工業株式会社(大阪)
展示された「HOTAMET(ホタメット)」は、北海道で廃棄されていたホタテの⾙殻を再利⽤した「カラスチック®」という素材を使⽤したヘルメット。年間数万トン廃棄される貝殻を単なる廃棄物としてではなく、強度と耐久性を備えた資源として捉え直した。特筆すべきは、バイオミミクリーの観点からホタテ貝殻の構造を意匠に取り入れたことで、耐久性が向上させている点だ。廃棄物を価値ある製品へと昇華させる理念と、素材の特性を活かした機能美が融合したプロダクトである。
株式会社TerrUP(京都)
飲食店やホテルなどで年間43億膳も廃棄されているという「竹割り箸」に着目し、それらを再利用したオフィス家具の製造を行っている。木製の割り箸は製紙原料などへのリサイクルルートが存在する一方で、竹割り箸はその繊維の硬さゆえに再利用が困難とされてきたという。同社はその「硬さ」を家具としての強度というメリットに転換し、一点物の家具へと生まれ変わらせている。厄介者扱いされていた素材の特性を理解し、適切な用途を与えることで、新たな循環のループを生み出そうとする試みである。
TOPPAN株式会社(東京)
使用済み紙おむつの回収から洗浄、分別、そしてマテリアルリサイクルまでを関係企業と連携して事業化することを目指している。紙おむつからパルプ、プラスチック、SAP(高吸収性樹脂)といった素材を分離・回収し、それらを再び有益な製品や材料へとアップサイクルする技術を展示した。焼却処理と比較してCO2排出量の低減に貢献するだけでなく、高齢化社会において避けては通れないおむつの廃棄物問題に対し、技術とパートナーシップの両輪で解決策を提示しようとする、社会インフラとしての側面も持つ取り組みだ。

株式会社colourloop(左上)、甲子化学工業株式会社(右上)、株式会社TerrUP(左下)、TOPPAN株式会社(右下)
馬場染工業株式会社(京都)
150年以上の歴史を持つ「京の黒染屋」が提案するのは、着物だけでなく洋服を黒に染め直し、再生している。色あせや汚れによって着られなくなった服を、伝統的な技術と「柳の水」を用いて、自然な黒から漆黒の「秀明黒」まで染め上げる。染め直しに合わせてボタン交換や修理も行うことで、一着の服を長く大切に着続ける文化を現代に再提案しているのだ。
洛西紙工株式会社(京都)
強化ダンボールを用いた「循環型什器」を展示。木製什器と比較して約3分の1の軽さと高い強度を持ち、CO2排出量も半減させるという。イベントや展示会で短期間使用されては廃棄される什器を、使用後は100%リサイクル可能なダンボールに置き換えることで、環境負荷とコストの削減を同時に実現する。さらに製造過程で生じる端材を地域の教育教材として活用するなど、素材の循環が地域社会への還元にもつながっている。
株式会社ワコール(京都)
独自開発した「立体メルトブロー法」を用い、廃棄物を低減する立体不織布の製造を実現している。単一素材で立体物を成型できるという強みは、リサイクル時の分別コストを下げ、水平リサイクルを容易にする重要な要素だ。現在は下着のカップや雑貨への展開を進めているが、その技術は衣服や産業資材など、より広範な分野への応用可能性を秘めている。
京都市(京都)
コインの代わりにペットボトルキャップを入れて回すことができるカプセルトイ「循環ガチャ」。ガチャを回すと循環型グッズなどのアイテムが出てくる仕掛けになっており、楽しみながら地域や資源の循環を体験できる啓発ツールだ。一方的にルールを押し付けるのではなく、市民、特に次世代を担う子どもたちが遊び心を持って資源循環に関われる接点を作る点が特長である。

馬場染工業株式会社(左上)、洛西紙工株式会社(右上)、株式会社ワコール(左下)、京都市(右下)
循環の輪を広げるために
プログラムの後半は、登壇者と参加者、あるいは参加者同士が自由に交流するネットワーキングの時間となった。「ビジョンを語り、困りごとをさらけ出す」という加藤の言葉通り、会場のあちこちで技術と課題のマッチングが試みられたようだ。
本イベントで浮き彫りになったのは、サーキュラーエコノミーが単なる環境配慮ではなく、異業種連携や新技術の実装によって、経済的な合理性と新たな文化的価値を生み出す源泉になり得るということだ。京都という歴史ある都市で、どのようなプレイヤーが交わり、いかにして「Minimum Viable Ecosystem(実用最小限の生態系)」が育っていくのか。その行方に注目したい。
▶︎本プログラムの最終報告会は、2026年1月23日(金)に京都・QUESTIONでの対面とオンライン両方で開催予定。参加者のアイデアに触れる機会をぜひお見逃しなく。



Circular Business Design School Kyotoとは
京都には1200年の歴史の中で育まれた「しまつのこころ」や循環型の暮らし、モノづくり文化など、時代を超えて輝き続ける資産がある。気候変動や生物多様性の保全など地球規模の課題が深刻化する中で求められる循環型の未来を実現するには、これらの叡智を現代に活かし、未来につなぐ創造力が必要だ。そこで、IDEAS FOR GOODを運営するハーチ株式会社では、京都というまちに根付く循環型の叡智と最先端のサーキュラーエコノミー知見に基づく未来志向を掛け合わせることで、ともに欲しい未来を描き、実現するための学習プログラムを2025年10月より開始。「Decode Culture, Design Future 叡智をほどき、革新をしつらえる」──伝統の先に続く循環型の未来を、京都から。
ウェブサイト:https://cbdskyoto.jp/
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