海を汚さない洗濯へ。いつもと洗い方でマイクロプラを減らすフィルター技術

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エベレストの山頂から海洋の最深部に至るまで、今や地球上のあらゆる場所に拡散しているマイクロプラスチック(※1, 2)。毎年、推定1,000万〜4,000万トンのマイクロプラスチック粒子が環境に放出されている(※3)。この微粒子は、海洋生態系を破壊するだけでなく、地球の酸素の半分以上を生成し、炭素の約40%を吸収する、海洋の生物ポンプの機能を阻害している(※4)

この地球規模の汚染の発生源の一つが、私たちの日常生活に欠かせない「洗濯」にもある。特に合成繊維の衣類を家庭用洗濯機で洗うとき、生地への摩耗が起きることで、微細なプラスチック繊維・マイクロファイバーを放出。いわば洗濯機がチーズおろし器のように繊維を削り取ってしまい、排水を通じて汚染に加担してしまう一面があるという。私たちが着ている服と環境負荷は、どう製造するかだけでなく「どう使うか」にも大きく関係するのだ。

この洗濯をめぐる課題に、ある解決策を提示しているのが、英国ブリストルを拠点とするスタートアップ・Matter.社だ。彼らは自宅の「発生源」で汚染を食い止めるアプローチとして、マイクロファイバーを最大97%捕捉する洗濯向けのろ過技術「Regen.®」を開発した。従来のフィルター製品の多くは、使い捨てのカートリッジ交換を必要とし、それが新たな廃棄物を生むというジレンマを抱えていた。しかし、Regen.®は独自の自己洗浄機能を搭載し、フィルター交換が不要。捕えた繊維は濃縮され、簡単に廃棄可能となっている。

この技術の強みは、家庭用から産業用まで対応する高い拡張性にある。2025年からはBoschやSiemensといった大手家電メーカーと提携して家庭用洗濯機へのフィルター実装が進んでいるほか、業務用ランドリー施設や繊維工場向けのソリューションも展開。特に産業用においては、汚染物質の除去だけでなく、水の再利用による最大30%の節水やエネルギーコストの削減を実現し、3年未満での投資回収(ROI)を可能にしている(※5)

Matter.社の特許技術であるRegen.®を外付けフィルターとして搭載した洗濯機。2026年1月現在欧州では購入可能|Image via Matter.

洗濯機の内部にRegen.®技術を組み込む、統合型の開発も進められている|Image via Matter.

こうしたMatter.社の取り組みは、今、世界で注目を集めている。英国のウィリアム皇太子が創設し、環境問題の解決に向けて活躍する個人や組織を表彰する「アースショット賞」の2025年ファイナリストとして、同社が選出されたのだ。洗濯時のマイクロプラスチック流出を防ぐツールとしては、マイクロファイバーをキャッチするパタゴニアの洗濯ネットCora Ballなども存在する中、Matter.社が生活者の自助だけに頼るのではなく、既存製品や産業構造そのものに介入ことがより大きなインパクトと評価に繋がったのではないだろうか。

2025年12月16日には、EUがプラスチックペレット由来のマイクロプラスチック汚染を防ぐための新規則を発効。この追い風も受けてマイクロプラスチック対策は、意識啓発のフェーズから、具体的な技術的実装のフェーズへと加速するだろう。そんな中、Matter.社の躍進から見えてくる、「ユーザーの負担を最小化するシステムデザイン」と「環境対応をコストから利益へ転換する構造」の重要性は、環境対策の実装において示唆を持つはずだ。

私たちが何気なく洗濯機を回すその行為が、海の豊かさを奪うことのない未来へ。Matter社の技術は、日常の風景を変えることなく、その裏側にある環境負荷の構造を着実に変え始めている。

※1 エベレスト山頂もマイクロプラスチック汚染、登山具に由来か 研究|AFPBB
※2 Plastics found to be abundant at deep-sea levels, new research reports|Northeastern University
※3 Microplastics and our health: What the science says|Stanford Medicine
※4 THE EARTHSHOT PRIZE ANNOUNCES MATTER AS A 2025 FINALIST|Matter.
※5 Professional Laundry|Matter.

【参照サイト】Matter.
【参照サイト】Matter.|The Earthshot Prize 2025 Finalist
【参照サイト】Bristol Startup’s Washing Machine Microplastic Filter Earns Earthshot Prize Finalist Spot|Happy Eco News
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