公共の場で「ちょっとしんどいな。人目のつかない所で休みたい」と感じたときに、少し腰を下ろして心を落ち着かせる空間が、「カームダウンスペース」だ。主に大きな音や強い光への感覚過敏、不安感・ストレスなどを感じやすい発達障害のある人を対象として、その場にとどまることが難しくなった際、一時的に周りと距離をとり休憩できる空間として普及してきた。
近年、こうした空間の設置が国内の駅や空港、博物館などで増えている。多くの場合、利用対象は限定されておらず、誰でも落ち着く場所が必要だと感じたら使える場所として広がっているようだ。
たとえば、2025年1月19日に開業した大阪メトロ夢洲駅には、日本の地下鉄として初めてカームダウン・クールダウンスペースが導入された(※1)。専用スペースは、駅構内の壁に馴染んだ黒色の壁に囲まれていて、中にはソファが設置されている。天井はあいているため、音や光を完全に遮ることは難しく、感覚過敏のある人への配慮が不十分との指摘もある(※2, 3)。公の場においては刺激の遮断性と、密室になることでの安全性のバランスが課題となるだろう。
さらに2025年4月には九州国立博物館にもカームダウンスペース「あんしんルーム」が登場。白と木目の暖かい色合いが基調だ。
九州国立博物館に「あんしんルーム」ができます!
あんしんルームは、刺激に敏感な方が、気持ちを落ち着かせるための部屋です。
4月2日(水)から使えます。部屋があることで、あんしんして来館できる方が増えますように!#あんしんマップ #あんしんガイド #カームダウン #クールダウン pic.twitter.com/yQEU9YqFxB— 九州国立博物館 (@kyuhaku_koho) March 29, 2025

グッズ(左)と、同伴者のための待合室(右)|Image via 九州国立博物館
「雪・月・花」という3部屋があり、「雪」では靴を脱がない仕様で車椅子使用者でも使いやすく、「月」では靴を脱いでクッションでくつろげるなど、ニーズに合わせた特徴の部屋を選ぶこともできる。さらに、部屋の明るさの調節機能や、同伴者のための待合室、気持ちを落ち着かせるためのセンサリーグッズも用意。
同館では福岡市立発達障がい者支援センター協力のもと、音や光、においなどに敏感な人に向けて、明るい場所・大きな音がする場所などを記した「あんしんマップ」や、写真とわかりやすい文章で説明した「あんしんガイド」を公開するなど、多様なニーズに寄り添う空間づくりが進められている。
これまで企業オフィス内での設置が中心だったカームダウンスペースは、こうして駅や博物館といった公共空間へ広がりを見せているのだ。ほかにも羽田空港や神戸空港、2025年7月現在開催中の大阪・関西万博にも8か所が設置された。そのうちの一つは株式会社Yogiboが感覚過敏や障害のある人などと対話を重ねてデザインされた部屋だという。

Image via プレスリリース
こうした取り組みは、障害のある人のニーズに応えるだけではなく、社会全体に対して「公共空間のあり方」を問い直す試みでもある。特に公の場では、効率よく動き働くことが求められやすいものの、誰しも日常の中で強いストレスや不安を抱える瞬間がある。カームダウンスペースは、そのような状態を「異常」ではなく「どこでも・誰でも起こりうること」と捉えなおし、心身の負荷から距離を取る余白をつくるハード面からのアプローチとなるだろう。
かつては感覚過敏やストレスによるしんどさが「個人の問題」とされてきた。しかし今は、それが社会で共有される課題になりつつある。カームダウンスペースの広がりは、誰かのしんどさを見過ごさない社会への着実な一歩であるはずだ。
※1, 3 駅に感覚過敏“カームダウン”空間も 当事者「課題多い」 万博|毎日新聞
※2 大阪「夢洲駅」のカームダウン・クールダウンスペース【体験レポート】|感覚過敏研究所
【参照サイト】あんしんルーム – バリアフリー情報|九州国立博物館
【参照サイト】ユニバーサルデザインサービス施設 カームダウン・クールダウンスペース|羽田空港旅客ターミナル
【参照サイト】カームダウン・クールダウンスペース|神戸空港
【参照サイト】各種施設について|EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト
【参照サイト】博物館にできた「あんしんルーム」って何?九州国立博物館に学ぶやさしさと常識破りの面白さ|@DIME アットダイム
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