「森を壊してGDP増」をいつまで賞賛するのか?国連が先導する、脱・成長依存の指標づくり

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2026年、私たちは大きな岐路に立っている。

私たちがこれまで「進歩」の絶対的な指標としてきた国内総生産(GDP)。その数値が上昇し続ける裏側で、気候変動や生物多様性の損失など、地球の安全な限界(プラネタリー・バウンダリー)の多くをすでに超えている。2026年2月、国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏は、ガーディアン紙などを通じて、現代の経済システムが抱える致命的な欠陥を指摘し、世界経済が「GDPを超える指標」を早急に確立すべきだと強い警鐘を鳴らした(※1)

「私たちは環境に真の価値を置き、人類の進歩と幸福を測る尺度としてGDP(国内総生産)を超える必要があります。森林を破壊すればGDPが創出され、魚を過剰に摂取すればGDPが創出されるという不条理を、私たちは忘れてはなりません」

この言葉が問いかけているのは、経済理論の話にとどまらない。私たちが何を大切にし、どんな状態を「豊かだ」と感じるのか。その価値基準そのものを見直そうとしているのだ。

国連事務総長のアントニオ・グテーレス氏 Image via shutterstock

GDPは、一定期間内に国内で生み出された付加価値の合計である。しかし、この指標には「自然資本の減耗」という視点が決定的に欠落している。たとえば、広大な熱帯雨林を伐採して木材として販売すれば、その国のGDPは一時的に上昇する。しかし、それによって失われる生物多様性、炭素固定機能、そして先住民の生活基盤といった「目に見えない損失」は計算式には反映されない。現状の会計システムでは、地球を切り売りするほど「経済が成長している」と見なされてしまっており、ここに、現代経済の歪みがある。

最新の研究によれば、2024年の世界平均GDPは過去最高を記録したが、同時に世界の二酸化炭素排出量も過去最高を更新した(※2)。経済成長と環境負荷を切り離すデカップリングは、一部の先進国で進んでいるように見えるが、グローバルな視点で見れば、依然としてGDPの成長は地球温暖化と密接に連動しているのが実態である(※3)

さらに、私たちが守ろうとしている「1.5度」という目標。これは単なる象徴的な数字ではなく、いまこの瞬間も異常気象や海面上昇の脅威にさらされている人々の人権や生存権そのものであり、誰一人取り残さないことを誓う気候正義の境界線でもある。

しかし、現在多くの政府が採用している経済モデルは、気候変動を「一時的なショック」としてしか捉えていない。2026年2月に発表されたGreen Futures Solutionsの最新レポート(Recalibrating Climate Risk)は、現在の主流派経済学のモデルは、極端な気象現象や「ティッピング・ポイント(気候の臨界点)」による連鎖的な崩壊を過小評価していると指摘。このままでは2008年のリーマン・ショックを超える「地球規模の金融崩壊」を招くリスクがあると警告している(※4)

森林が消え、海が酸性化し、耕作地が失われる。こうした不可逆的な破壊が進行する中で、GDPの増減だけをもって社会の健全性を測ることは、現実のリスクを見誤らせる。環境基盤が損なわれれば、生産や雇用、財政の持続性そのものが揺らぐにもかかわらず、その影響はGDPには十分に反映されないからだ。

では、私たちは何を指針にすべきなのか。国連は、SDGsの先を見据えた「Beyond GDP(GDPを超えて)」の枠組み作りを加速させている。

この動きは、いま急速に実務レベルへと移行している。2025年5月には、持続可能な開発のための新しい指標を策定する「Beyond GDP」のハイレベル専門家パネルが任命された(※5)。さらに2026年1月、国連はジュネーブで「GDPを超えて」と題する会議を開催。ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ氏やカウシク・バス氏など、世界屈指の知性が集い、富の総量ではなく「誰の幸福をどう測るか」という具体的な議論が行われた。

現在進められている枠組みでは、以下の3つの柱が重視されている。

  • ウェルビーイングとエージェンシー:人々の心身の健康や、社会への主体的な参加実感。
  • 生命と地球への敬意:自然資本を維持・再生し、将来世代の可能性を守ること。
  • 格差の是正と連帯:富の総量だけでなく、その分配の公正さ。

「森林を破壊すれば、GDPが上がる」。このグテーレス氏の指摘は、私たちが当たり前だと思い込んでいる成長の定義がいかに脆いかを物語っている。

私たちが日々選択する商品、関わる仕事、そして支持する政策。それらは、地球の限界を削り取った上での成長に加担しているのか、それとも生命を育む豊かさに寄与しているのか。GDPという単一の数字に惑わされるのではなく、複雑で、美しく、そして脆いこの地球の豊かさを、多層的な視点で見つめ直す。そのための「新しい物差し」を、私たち一人ひとりの価値観の中にも作っていく必要がある。

あなたは、10年後の世界にどのような「豊かさ」が残っていてほしいだろうか。

※1 Global economy must move past GDP to avoid planetary disaster, warns UN chief
※2 High-Level Expert Group on Beyond GDP | United Nations

※3 Economic growth is still heating the planet. Is there any way out?
※4 Recalibrating Climate Risk: New report urges governments and investors to fix ‘faulty radar’ in climate damage models
※5 UN Secretary-General appoints High-Level Expert Group on Beyond GDP

【参照サイト】Global economy must move past GDP to avoid planetary disaster, warns UN chief
【参照サイト】Economic growth is still heating the planet. Is there any way out?
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