2026年2月24日の今日、2022年のロシアによるウクライナ侵攻から4年が経った。絶え間ない破壊のニュースが続くなか、つい「失われたもの」の多さに目を奪われてしまう。
戦争で破壊された街を元に戻すとき、私たちはまず「建物」を建て直すことを考える。しかし、コンクリートの壁を修復するだけで、人々の心や日常は本当に戻るのだろうか。
再生が必要なのは、建物という「点」の集合体ではなく、人と人とが自然に触れ合い、歩き、語らうための「線」のつながりかもしれない。ウクライナの被災地で始まったのは、瓦礫の撤去を超えた、目に見えない「心のインフラ」を編み直す試みだ。
この新しい復興の形を提示しているのが、ウクライナの都市デザイン団体・Urban Reform。彼らはドイツ政府や国連ハビタットの支援を受け、戦争で甚大な被害を受けたボロディアンカとマカリフの2つのコミュニティにおいて、半年間にわたる住民参加型のプロジェクトを実施した。

Image via Urban Reform
このプロジェクトの核心は、公園や広場、学校の中庭を単独の場所として捉えるのではなく、それらをつなぐ「ネットワーク」として再定義した点にある。人々の歩く道や集まる場所を一つの有機的なシステムとして捉えることで、街全体のアクセシビリティと快適性を高める狙いだ。

Image via Urban Reform
住民の一人は、空間そのものよりも「空間の間をどう移動するか」が重要だと語る。ルートが快適であれば、人々は自然と外に出るようになり、そこから交流や地域への帰属意識が生まれるからだ。特に戦時下という極限状態において、こうした公共空間は単なる施設ではない。それは人々のメンタルリカバリーを支え、日常の「当たり前」を維持するための、精神的なセーフティネットとして機能する。
具体的な再生の象徴として期待されているのが、マカリフコミュニティに属するヴェリキー・カラシン(Velykyi Karashyn)のジムナジウム(義務教育学校)の中庭だ。公開されたビジュアルでは、学校の正面に教育、スポーツ、レクリエーション、そして社交の機能が融合した多機能な空間が描かれている。

ヴェリキー・カラシンの中庭|Image via Urban Reform
この場所は単なる生徒のための施設ではない。周辺の村々に住む住民たちも利用できる「地域のハブ」として設計されており、孤立しがちな村同士を繋ぎ、コミュニティ全体のネットワークを強化する拠点となる。自然のポテンシャルと歴史的遺産、そして日々の生活動線を掛け合わせることで、破壊された風景の中に新しい意味を吹き込もうとしている。
このプロジェクトの最大の強みは、徹底した「対話」にある。ボロディアンカで291人、マカリフで665人、合計で950人を超える住民が調査や開発に参加し、自分たちのアイデアが最終的な意思決定に反映されるプロセスを経験した。この経験こそが、空間に対する責任感と信頼を醸成し、持続可能な復興の土台となる。完成した戦略文書は、自治体が具体的なアクションを今すぐ起こすためのツールとして、すでに各市議会へと引き渡された。
復興とは、かつての姿に戻すことだけではない。住民たちが自らの手で「共有された未来」を描き、再び街を歩き出すための勇気を取り戻すプロセスそのものだ。ウクライナの地で編み直されたこのネットワークは、どんなに深い傷を負った街であっても、人と人のつながりから再生できるという希望を世界に示している。
【参照サイト】A network of public spaces as a tool for sustainable community renewal
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