IDEAS FOR GOOD主催の、5週連続のオンラインイベント「世界サステナブルトークツアー」が、今月5月13日よりスタートしています。
新型コロナ感染拡大で旅に出れないこんなときだからこそ、オンラインで世界とつながり、希望の光に目を向けることができるバーチャル世界ツアー。行き先はオランダ、デンマーク、ニューヨーク、ニュージーランド、そして最後に日本を含むアジア諸国です。
ゲストの方々から現地のリアルなお話をシェアいただき、コロナ禍で生まれている新たなアイデアや人々の変化を見ながら、これからのサステナビリティを参加者のみなさまと一緒に考えていく、旅のレポート第一弾をお届けします!
第一回目の行き先は、オランダのアムステルダム。現地を案内してくださったのは、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博さんです。トークのファシリテーターは、IDEAS FOR GOOD編集長の加藤佑が務めています。
当日は45名を超える方々にご参加いただき、オンラインでも伝わる熱気に包まれて、新たな出会いとつながりも生まれた2時間半となりました!
話者プロフィール:安居昭博(やすいあきひろ)さん
1988年生まれ。Circular Initiatives&Partners代表。アムステルダム在住サーキュラーエコノミー研究家 / サスティナブル・ビジネスコンサルタント / 映像クリエイター。2019年日経ビジネススクール x ETIC『SDGs時代の新規事業&起業力養成講座 ~資源循環から考えるサスティナブルなまちづくり~』講師。
やりながら学ぶ、オランダ・アムステルダムのコロナ対策
昨年度11月にIDEAS FOR GOOD編集部も訪問した、オランダのアムステルダム。本イベントが開催された5月中旬、少しずつアムステルダム市内も賑わい始めているようでした。
アムステルダムの中央駅から出ているフェリーなどの交通機関、お店など、さまざまなサービスがソーシャルディスタンスを守りながら再開。
ユニークなスタートアップが多いアムステルダムでは、コロナ対策で行われている施策も面白いアイデアばかり。イベント内では、数々の施策をシェアいただきました。
安居さん:コロナの施策に限らずですが、こうしたデザイン一つをとっても、アムステルダムの行政と市民との距離の近さが感じられ、住んでいて親近感が湧きます。
オランダでは、社会課題に直面したときにたとえ実験的で前例のない活動だったとしても、とりあえずやってみよう、という「Learning by doing(やりながら学ぶ)」のポリシーを行政が掲げていて、こうしたコロナの状況下でも対応の素早さを感じています。
3月の中旬には、欧州各国の厳しいロックダウンに対して「インテリジェント・ロックダウン※」という言葉を使い、一定のルールは設けるが、完全なロックダウンはしない方法を取っていました。そこからわずか1週間たらずで、子どもたちが一斉にオンライン教育へ切り替えるにあたり、行政と大企業が連携を図り、使われなくなったパソコンを集めて子どもたちに配ったり、打撃を受けた飲食店の共同イニシアチブが生まれたりしました。
※自主性を重んじるので、国民は個々の判断でコロナウィルス対策のロックダウンをしようという、国民のインテリジェンス(知性)を信頼したロックダウン。
多様性を受け入れることがサーキュラーエコノミーの推進につながる
コロナに限らず災害への対応の早さや、企業やお店同士のコラボレーション力が、まさにアムステルダムらしいと言えます。一体なぜ、ここまでの対応ができるのでしょうか。ここで参加者の方から、アムステルダムの素早いコラボレーション力の背景にも通ずるこんな質問が。「なぜアムスタルデムではここまでサーキュラーエコノミーが進んでいるのですか?」
安居さん:いろいろな切り口がありますが、国の成り立ちが大きく関係していると思います。オランダは、プロテスタントの国として独立した最初の国です。しかしそのときも、カトリックの人々やユダヤ教を信仰する人々を追い出したりは、決してしませんでした。宗教的な思想や考えの自由を認めながら、みんなで一緒にオランダを盛り上げていこうというダイバーシティのマインドが強かったのです。同性愛者の人々の結婚を世界で初めて認めたのも、実はオランダです。
また、世界初の株式会社を生み出し、今日で言われるアメリカのウォール・ストリートの前身になったのもアムステルダムだと言われています。自分たちの国の社会問題を見つめて、そこから一番いい解決策となるビジネスモデルを作り上げていくことを、国ができた当初からずっとやってきているんですよね。
たとえば、食品ロスの問題や建物を壊したときの廃棄物が課題としてあったとき、それを活用したほうが一般の人、企業、行政にとっても三方よしの関係になると考えられていることがサーキュラーエコノミーのもとにあると感じます。なので、オランダ人の環境への意識が高いというよりは、そこに経済的メリットがあって「合理的だから」進めているという背景があります。
実は日本もサステナブル?
加藤:アムステルダム政府は2050年までに100%サーキュラーエコノミーを実現するという目標を掲げていますが、実際に暮らしている市民の方の意識はどの程度なのでしょうか?
安居さん:言葉の認知度は高いと思いますが、実際にみんな環境への意識が高いのかというと、そうではありません。オランダ人は無意識に日常生活でサーキュラーエコノミーを取り入れているというのが正しいですね。オランダ国内のすべての路面電車と電車は100%再生可能エネルギーで賄われていたり、アムステルダム市では生ゴミのコンポスト化を進めたりしています。あとはゴミ捨て場と同じ感覚で、着なくなった衣類を寄付するBOXが街中にあります。そうした取り組みが生まれたときから身近にある彼らにとっては、特別なことではないんです。日本人が新聞を古紙としてまとめて出すのと同じ感覚。そう考えると、オランダが進んでいて日本が遅れているとは、一概には言えないんですよね。
東京はゴミ箱がないのにポイ捨てが少なくて街が綺麗というのは、よくオランダ人の友人に言われます。また、日本では洗濯を水でするのが普通ですが、欧州では温水で洗うのがスタンダードで、水洗いよりもエネルギーを使います。私たちが気づいていないだけで、実は日本人が自然とやっているサステナブルな習慣ってたくさんあるんですよね。お互いにアイデアをシェアしていくのが大切です。
最後のテーマは、いま多くの方々が抱いている関心ごと「コロナ前後でサステナビリティの分野はどう変わっていくか」。
安居さん:いま、キーワードとして「気候変動」よりも「コロナ」を検索する人は増えているかもしれませんが、サーキュラーエコノミーは環境面だけではなく、経済面や社会面が複合的に組み合わさって長期的に戦略が立てられているものです。たとえアフターコロナでも、人々のサーキュラーエコノミーへの意識が低くなってしまったり、企業がサーキュラーエコノミーに舵を取らなくなったりすることはないと思います。
参加者からの質問も絶えず、イベントはあっという間に終わりの時間に。イベント後の懇親会では、参加者全員でブレイクアウトルームを使ってイベントの感想や今考えていることなどをシェアし合いました。「サステナビリティに興味がない人に対してこれからどう伝えていくか?」や「意識が高いと思われずに、周りをどう巻き込んでいくか?」といった悩みをみんなで話し合ったり、「欧州よりも優れている日本のサステナビリティの事例」もたくさん上がってきたりと、これからのサステナビリティを前向きに考えるきっかけになったのではないでしょうか。
編集後記
イベントを終えて感じたのは、人は世界と出会うことで優しくなることができ、一歩引いてみて初めて、日本の良さがわかる、ということです。
「社会課題を自分ゴト化するためにどうしたら?」という参加者の方からの質問に対して、安居さんは「アムステルダムで生活をしていると、様々な国のバックグラウンドを持つ友人ができます。友人がいる国のニュースはやはり気になるようになりますね」と、おっしゃっていました。また、イベントの中では数多くの「日本人が自然と実践しているサステナブルな事例」をシェアしてくださいましたが、日本に住んでいると見過ごしていたことばかりでした。
オンラインで世界とつながりやすくなった今こそ、より人々が世界の問題を身近に考え、日本を改めて見直すチャンスかもしれません。
第二回の世界サステナブルトークツアーは、デンマークのロラン島よりニールセン北村朋子さんにお越しいただきました。次回のイベントレポートもお楽しみに!
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