IDEAS FOR GOOD主催の、5週連続のオンラインイベント「世界サステナブルトークツアー」が、今月5月13日よりスタートしています。
新型コロナの影響により対面で集うことができないこんなときに、それぞれのより心地の良いサステナブルライフを再考できるオンラインの世界ツアー。行き先はオランダ、デンマーク、ニューヨーク、ニュージーランド、そして最後に日本を含むアジア諸国です。
第三回は、アメリカ・ニューヨーク。現在ニューヨークにお住まいのカリあすかさん、COOKIEHEADさんのお二人にお話を伺いました。トークのファシリテーターは、第一・二回に引き続き、IDEAS FOR GOOD編集長の加藤佑が務めています。参加者の皆さんそれぞれが暮らす社会の、世界の、私たち個人の、今後のサステナブルライフに向けてのヒントが詰まった2時間となりました。
話者プロフィール:カリ あすかさん / IDEAS FOR GOODライター
ニューヨーク在住。パーソナルスタイリングを通して地球にも人にも優しいファッションとライフスタイルを紹介する、パーソナルスタイル コンサルタント。幼い頃から伝統的なデザインに興味をもち、ニューヨークでサステイナブルファッションに出会う。ブログ:http://www.asukamstyle.com
話者プロフィール:COOKIEHEADさん / IDEAS FOR GOODライター
ロンドン経由東京育ち、2013年よりニューヨークのブルックリン在住。Parsons でファッション・マーケティングを専攻後、ラグジュアリー・ファッションの世界で働く。ファッション、ビューティ、ライフスタイルにおける「好きなものは好き」と「自分にできるサステナビリティ」の実現が人生のテーマ。ブログ:THE LITTLE WHIM
ニューヨークの街中で誕生する新型コロナ対策のアイデア
「ニューヨーカー」とは誰のことを指すのかわからなくなってしまうほど、アメリカ国内外からたくさんの人が集まるニューヨーク。多様なバックグラウンドの人が、それぞれの生活を営むなかで生まれる格差は、新型コロナの流行を経て、一部が顕在化したといいます。
COOKIEHEADさん:ニューヨークは他の都市と比べても、新型コロナの検査をしっかり行っており、どの地域でどれほどの感染者が出ているのか、郵便番号ベースで細かく報道されています。データを見ると、低所得者及び特定の民族で構成されがちな地域で特に感染者が多いということがわかります。人々のバックグラウンドによる収入の格差はサステナビリティを考える上でも重要なポイントです。
現在(イベント開催時5月27日)、新型コロナによる感染者数・死者数は減少傾向にあるニューヨーク。街は徐々に活気を取り戻しつつあるそうです。現在の街の様子を写真とともに紹介していただきました。
カリあすかさん:マンハッタンは通常観光客が多い場所ですが、現在街を歩いているのは地元の人々だけ、という感じです。飲食店は店頭でテイクアウトの商品をピックアップできるように工夫しています。開店していることを路上のスプレーペイントで知らせていたり、お客さんの名前のイニシャルごとにピックアップコーナーを分け動線を拡散させたりしている光景も目にします。通常マンハッタンの公園には人が多く集まりますが、現在は距離を開けながら皆さん公園でくつろいでいます。
COOKIEHEADさん:芝生に円が書かれていて、その円の中で過ごせるようになっている公園もあります。今後もしばらくこういった工夫が必要になってくると感じています。子どもが描いた希望を表す虹の絵が窓に貼られているのもよく見かけますね。
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COOKIEHEADさん:先日、マスク着用を呼びかける動画が公開されました。この動画は一般の人から公募されたもので、色んな人種の人が登場し、ポジティブな雰囲気です。ニューヨークらしさがよく表現されているなと思いました。
新型コロナはニューヨークの格差社会を直撃していますが、そうしたニューヨークで育まれた豊かな文化やユーモアが、決して暗くならずに感染症を乗り越えようとする一助になっているようでした。
ニューヨークのサステナブルカルチャーはどのようにつくられている?
参加者からは「新型コロナがもたらす大変な状況下で、ニューヨークの一般の人たちはサステナビリティについてどのように考えているのか」という質問も。
COOKIEHEADさん:ニューヨークでは、環境負荷を意識している人とそうではない人がはっきり分かれている印象です。大きい家と車を持っている人がいる一方で、エコバックすら買えない人もいます。そういう人たちも一緒に進めていく方法を模索するために、家に不要なエコバッグがある人は寄付してくださいと呼びかける取り組みもありました。ビールやファーマーズマーケットなどでも気軽にゼロウェイストをしたり、ローカルビジネスをサポートしたりもできます。
サスティナビリティに対する意識が高い人は、受けてきた教育の要因が大きいのではないかと思います。 今社会の中心をになっている人材の中には、2007年に発表された書籍『不都合な真実(An Inconvenient Truth)』を読んで影響を受けた人も多く、 知ったことが実際に目の前で起こっていて、本当にシフトしていかなくてはいけないのだと行動している印象です。
また、アメリカには議論好きな人が多いので、行政の取り組みが決まったところでたくさん議論をします。これは、本当に正しいことなのか。正しいことでなければ政府に相談してみよう、とアクションに移す人が多いです。
カリあすかさん:ニューヨーク市全体でコンポストの取り組みをしていたり、野菜がプラスチック包装なしに並べられていて、オーガニック食材も手に取りやすい価格だったりと、意識しなくても目に入るところにきっかけがあることが大きいと思います。他にも例えば、洋服のレンタルのサービスが少し前からニューヨークで流行りはじめたのですが、土地や家の値段が高く、クローゼットも比較的小さいため、ものを出来るだけ少なくしようとした人が多いことが流行の理由の一つだと言われています。街中では寄付で成り立つお店があったり交換会もよく行われていたりと、困っている人々や一般の人々が生活の中で取り組みやすいシステムがニューヨークにはあると感じます。
COOKIEHEADさん:ニューヨークでは、誰でも参加しやすいサービスが普及しています。ブルックリンにはビールを作っている場所が多く、今もできるだけ安全を確保しながら店頭でのビール販売を行っています。そうした小さなお店に足を運んでローカルビジネスをサポートしたり、ファーマーズマーケットなどでも気軽にゼロウェイストの生活ができたりします。
環境問題のアクティビズムから発展したビジネスも最近多いです。ブルックリンにあるゼロウェイストのお店「パッケージフリーショップ」もその例で、店舗をはじめたローレン・シンガーさんは、元々はフラッキング(環境負荷の高い天然ガス採掘)反対運動をしていた学生でしたが、自分の生活を見つめたときにゴミが多いことに感じた矛盾から、ゼロウェイストライフスタイルを送り、お店を立ち上げました。いまやニューヨーカーの間でロールモデル的存在となっています。
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カリあすかさん:そうしたビジネスで大切にされているのは、デザイン性とクリエイティビティ。コンセプトに賛同してお店に入ってくる人もいますが、おしゃれとサステナビリティを共に楽しみたいと思う人も多く、デザインもとても大切にされています。分別や再利用をしたくなるようなパッケージデザインもよく見かけますね。ニューヨークはサステナビリティとデザイン・アートの距離が近い街だなと感じます。
等身大で楽しむことがサステナブルライフを継続する秘訣
カリあすかさん:サステナビリティに関して、普段の生活が楽しいままで、取り入れていけるところから始めてみることが、ストレス無く続けるコツだと思います。サステナブルを謳ったものが今の自分には手が届きにくい価格だと感じるときは、まずは今持っている物を大切にしたり、古着に挑戦してみたり。家にあるもので代用することもできます。
「サステナブル」と表記がされていなくても、環境や生産者に配慮した物作りがなされていることもありますし、サステナブルと謳われている商品を買うことだけがサステナブルな暮らしというわけではないので、自分だったら何から始められそうかと考えてみてほしいです。生産過程に配慮して物作りが行われることで、普段見慣れている価格と比べて高いと感じてしまう物もあるかもしれませんが、価格が高いことには、その分手仕事の技術や時間を要しているという理由があります。長い目で見て、自分の生活を豊かにしてくれる物として投資する、と考えてみることも、サステナブルなライフスタイルを自分のものにする上で大切なポイントです。
COOKIEHEADさん:「ファストファッションはなぜ安いのか?」のように、興味から出てきた疑問は調べてみるのも新しい生き方になると思います。
また、窮屈な思いではなく楽しい気持ちで新しいことをどんどん発見していくことが大切です。一緒にやっていける仲間や家族を大切にしていますが、人によって選択肢は変わってくるため、シェアはしても自分の正当性を押し付けないことが大事です。他人を受容する心を持ち、相手を非難することなく、それぞれにマッチした方法を構築していくことを大切にしたいなと思っています。
編集後記
たくさんのご質問をいただくなかで、今回参加者の皆さんが特に関心を持ってくださっていたのは、衣食住に関することでした。そうした日常に密着した部分から、少しずつサステナブルに変えていけるヒントをお二人にたくさんいただけたように感じています。
ニューヨークのエピソードで筆者にとって何より印象的だったのは、生産者と消費者が無理のない範囲で楽しく工夫しあっていることです。自身が楽しまなければ、素敵なパッケージデザインは生まれず、消費行動もとりあえず命をつなぐための味気ないものになってしまいます。お手本のサステナビリティをコピーするのではなく、自分自身のライフスタイルと向き合い、できることから取り込んでいく。サステナビリティとは本来とても気持ちよく、楽しい行為なのではないかと思わされました。
第四回の世界サステナブルトークツアーは、ニュージーランドより四角大輔さんにお越しいただきました。次回のイベントレポートもお楽しみに!