5月13日よりスタートした、IDEAS FOR GOOD主催の5週連続オンラインイベント「世界サステナブルトークツアー」。ありがたいことに、第一回に引き続き、第二回の今回も満員でした。コロナ禍の今だからこそ、世界のリアルな声を聞き、これからのサステナビリティについてみんなで考えていく、有意義な旅となっています。
第二回目となる今回は、昨年の2月にIDEAS FOR GOOD編集部も取材で訪れた、デンマークのロラン島へ!現地を案内してくださったのは、ニールセン北村朋子さんです。日本時間20時開始のイベントでしたが、デンマークでは昼間の13時。朋子さんのご自宅の窓から差し込む明るい光に、デンマークの初夏の空気をすぐそばに感じられるあたたかい雰囲気の中、イベントは始まりました。
成熟した民主主義国家であり、コロナ禍での国の対応も世界から注目を集めたデンマーク。そんなデンマークの様子は今、どうなっているのか?アフターコロナで、サステナビリティへの取り組みは今後どう変わっていくのか?ジャーナリストやソーシャルコーディネーターとして多彩な活動を続けていらっしゃる朋子さんの視点で、生活・教育・民主主義などの様々なトピックについてお話をシェアしていただきました。前回同様、トークのファシリテーターはIDEAS FOR GOOD編集長の加藤佑が務めています。それでは参りましょう!
話者プロフィール:ニールセン北村朋子さん
2001年よりロラン島在住のソーシャルコーディネーター・アドバイザー、ジャーナリスト。「地球と人にうれしい」ライフスタイルと社会づくりをテーマに、企業や団体のコンサルティングを行う。国家どうしの公的会談の際には通訳も務める。宮城県東松島市の復興支援のため、現地での復興プロジェクトへの関わり合いを継続して行っている。現在、ロラン島での食のインターナショナル・フォルケホイスコーレ開設プロジェクトに尽力。著書に『ロラン島のエコ・チャレンジ〜デンマーク発、自然エネルギー100%の島』がある。現在、新著を執筆中。
政府と市民の信頼関係が生んだ、スムーズなロックダウン
デンマークでは今(イベント開催5月20日現在)、レストランやカフェなどが制限つきでオープンしたり、子どもたちは学校に戻り始めたりするなど、3月から始まったロックダウンが段階的に解除されつつあります。デンマークのロックダウンは、イタリアやスペインのような外出禁止令ではなく、スーパーへの出入りや公園への散歩も自由であるなど、どちらかというと日本の外出自粛に近いものだったようです。
ロックダウン初期、買い占めは起こりませんでしたが、最初に売り切れたのがパンを焼くためのイーストだったり、自粛期間中の一番のストレスは、親しい人と気兼ねなくハグができないことだったりと、デンマークらしい様子がたくさん伺えました。
![ニールセン北村朋子さん](https://ideasforgood.jp/wp-content/uploads/2020/05/70a2e6a3a856d56948a5467616b0e329-1024x640.png)
ニールセン北村朋子さん
そんな中、やはり話題は世界で評価されているデンマーク政府の緊急時の対応に移っていきます。パンデミック前には40%前後だったデンマーク政府の支持率は、なんと現在は85%にまで上がっているそうです。その理由はどこにあったのでしょうか。
朋子さん:実質5週間のロックダウンでデンマークの感染者は順調に減り、著しい成果が出ました。その一つの大きな要因としては、政府のいち早い決断。ロックダウンで自粛やリモートワークを推奨することに合わせて、政府が素早く、民間企業や個人事業主に向けて補償制度を立ち上げたので、みんな安心してスムーズに自粛に入ることができたんです。収入の減少に対する補償は3〜4か月分もらうことができ、申請は5分で完了、1か月後にはまとめて振り込まれました。
また、デンマークはここ数年、ITインフラの整備に国としてかなり力を入れてきていました。リモートワークをする人も元々多く、オンラインでの手続きや仕事ができる体制が整いつつあったところにこのコロナの事態が起こったいうのも、素早い対応ができた一因でした。
デンマーク政府の進め方は、国民にとってストレスがとても少ないですね。市民の疑問や不安に、的確にスピーディーに答えていっている。また情報の一元化も早く、ワンストップで必要な情報収集からアクションまでできるようになっていたことも、政府の信頼性を高めることにつながったと思います。子どもたちに対しても、首相が直接質問に答える形で会見を行いました。子どもも社会の一員として扱い、しっかりと向き合う姿勢が伝わってきました。
国をあげて取り組む、気候変動対策
更に話題はデンマークの今後のサステナビリティへの取り組みについて移ります。デンマークではすでに、パンデミックへの対応から気候変動の政策へと移行しつつあるそうです。
新型コロナの流行によりデンマークでも新たに5万人程失業者が出たこともあり、国は今後サステナビリティ関連の新しい事業を起こし、新たな雇用を作る意味も含め、国は今後サステナビリティへの投資を更に強めていく方向性を示しているそうです。
![ロラン島の消費電力の8倍を生産する風力発電](https://ideasforgood.jp/wp-content/uploads/2019/03/IMG_0709-1.jpg)
ロラン島の風力発電タービン
朋子さん:ついさっき、パンデミックで少し滞ってしまった気候変動対策について、デンマーク政府の政策発表があったところです。二酸化炭素の排出量を、2030年までに1990年比で70%削減するという気候変動適応法の目標に対して、二酸化炭素税を増やしていくかどうかが争点となっていましたが、それは一旦延期になりました。また、コペンハーゲンでは99%普及している地域熱供給(※)を、デンマーク全土においても、なるべく早く天然ガスから移行していく方針であることが発表されていました。更に、エネルギー供給のための人工島、『グリーンエナジーアイランド』を2箇所程作る計画も正式に決定しています。
全体的には、資源をできるだけ地域で回していくという方向性が見て取れます。私の住むロラン島は、再生可能エネルギーの生産率が800%ですが、コペンハーゲンでは再生可能エネルギーの供給は十分ではないなど、需要と供給のバランスの取り方が今後の課題ですね。
基本的に、エネルギー・食料・水・空気を自給できていると、他の国と無駄に争わなくていいという考え方が浸透しているのですが、今回のような事態になって、その重要度が再認識されているのを感じます。
※冷水や温水等を一箇所でまとめて製造し、供給するシステム。まとめて製造・供給することによって省エネルギーや省CO2など様々なメリットを実現する。デンマーク全土では65%普及。
自分たちで作る、より良い民主主義
ここで参加者から、デンマークの成熟した民主主義を深堀りする、こんな質問がありました。「デンマークは高福祉、高負担の国家ですが、高額な税金について国民はどう思っているのでしょうか?」
朋子さん:それに関しては、大体の人が納得していますね。それは、納めた税金がどう使われるかの透明性がきちんとあるから。そして払うからには、みんなそれをどう使って欲しいかをしっかり主張します。これからデンマークにも高齢化社会がやってくる中で、今のレベルが維持できるならもっと税金が上がってもいいと言う人もたくさんいる程です。社会の安定が自分の幸せにもつながることを理解している人が多いんですね。
加藤:素晴らしいことですね。このような国家を作ることができている理由はどこにあるのでしょうか?
朋子さん:1番はやっぱり教育だと思いますね。この国では、自分が生きている社会に関してや、人間が生きる意味、そして民主主義について、小さい頃から本当にしっかり教育を受けます。そして、一人一人が違う中でどう折り合いをつけて生きていくのか、今の時点でベストな妥協点を見つけるということを、学校でも家庭でもずっとやってきている。また、デンマークの人が特に成熟しているなと感じるのは、民主主義にも教育にも、正解や完成形はない、ということを理解していることです。それらは、社会が動いていく中で常にアップデートしていくべきものなのだという共通認識と、その努力を怠らない姿勢、そしてそのために教育をデザインするという考え方があり、デンマークに民主主義を根付かせているのだと思います。
加藤:ありがとうございます。デンマークらしいエッセンスをたくさんいただきました。最後に、今後日本の社会が変わっていくために、私たちにできることはなんでしょうか?
朋子さん:まず、有権者が選挙にいくのは当たり前ですが、行くだけではなく、投票する政治家になんらかの直接的なコンタクトをとるべきだと思います。その人がどんな人で、何を考えているのか、当選したら何をやりたいのかをしっかり聞くこと。そして、選挙の後も、政治家がどう育っていくのかは、その国の有権者にかかっているのです。政治家は自分たちで育て上げるんだ、というくらいの意気込みが必要だと思います。そのためには、学校教育をアップデートすることや、立候補に関する制度を変えていくことも必要ですね。
編集後記
メイントーク後の懇親会でも参加者からたくさんの質問があがり、非常に内容の濃い2時間となりました。当日参加された方からは、「デンマークと相対化することで、日本について考える新たな視点を得ることができた」「デンマークという国における「社会(公)」と「市民(私)」との関係性について、様々な観点・切り口からお話を伺い、気付き・発見が多々あった」などの感想が寄せられました。
イベントを通して、誰もが住みやすい、よい社会を作るには、私たち一人一人の意識の持ち方を変えていくしかないということを改めて感じました。パンデミックによるこの状況を、「より良い社会を作ることについて、改めて考え直す機会」にしていくことが大切なのではないでしょうか。
第三回のツアーでは、IDEAS FOR GOODライターのカリあすかさんとCOOKIEHEADさんをゲストにお迎えしました。
次回のイベントレポートもお楽しみに!
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