子どもの貧困問題

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子どもの貧困とは(Understanding Child Poverty)
子どもの貧困とは、子どもが生活に必要な財やサービスを十分に得られるだけの収入がない世帯に住んでいる状態を指します。
貧困を測定する基準となる閾値は、生活水準や物価、その他の要因によって国や地域ごとに異なります。経済先進国である日本では、貧困の指標として主に「相対的貧困」が用いられます。これは、社会の他のメンバーと経済的に比較する方法です。一方、低中所得国では、生存に最低限必要な資源の不足を示す「絶対的貧困」の基準が多く採用されています。
2007年の国連総会では、子どもの貧困について以下のように説明されています。
「貧しい生活を送っている子どもたちは、栄養、飲料水と衛生設備、基本的な保健サービスの利用、住居、教育、参加、保護などを奪われている。モノやサービスが極端に不足すると、だれもが悪影響を受けるものだが、そのことでもっとも大きな脅威を受けて傷つくのは子どもたちである。子どもたちは権利を享受できず、潜在能力を十分に発揮することも社会の一員として参加することもできないまま取り残される」
(出典)ユニセフ「国連総会、‘子どもの貧困’の強力な定義を採択」
日本を含む経済先進国では、相対的貧困が問題として認識されにくい傾向があります。子どもの貧困は、同居する大人の所得状況によって決まり、保護者が支援を求めない限り表面化しにくいことから「見えにくい貧困」と呼ばれることもあります。2019年にセーブ・ザ・チルドレンが実施した調査によると、日本では子どもも大人も約30%が、子どもの貧困の実態について「聞いたことがない」と回答しました。
目次
数字で見る子どもの貧困(Facts & Figures)
- 2024年には、約7億人(世界人口の8.5%)が、1日2.15ドル以下の「極度の貧困」に苦しんでいるとされている(2024 / WBG)
- 世界銀行グループとユニセフが行った共同分析によると、2013年から2022年の間に、極度の子どもの貧困率が20.7%から15.9%に減少することが示されている(2020 / ECP)
- 紛争の影響を受けている国に住む子どもたちの約38.6%が極貧世帯で生活しているのに対し、その他の国々の子どもたちは10.1%となっている(2025(アクセス)/ ECP)
- OECD加盟国の平均では、子どもの約12.2%が相対的所得貧困の状況に置かれている(2024 / OECD)
- OECD加盟国のうち米国、スペインを含む6か国で、子どもの20%以上が相対的貧困の状況に置かれている(2024 / OECD)
- OECD加盟国のうちデンマークとフィンランドでは、子どもの相対的貧困率は約4%であった(2024 / OECD)
- OECD加盟国37か国のうち23か国では、子どもの相対的貧困率が全人口の貧困率を上回っている(2024 / OECD)
- 2023年、厚生労働省の国民生活基礎調査によると、生活意識別の世帯構成割合では、「苦しい」と感じている世帯が全体の59.6%を占めている。その中で「児童のいる世帯」に限ると、その割合は65.0%に達している(2023 / 厚生労働省)
- 2022年、日本の各世帯の生活意識において、母子世帯の75.2%が「苦しい」と回答した(2022 / 厚生労働省)
- 日本における2021年の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は127万円とされている。相対的貧困率は15.4%で、子どもの貧困率(17歳以下)は11.5%となった(2022 / 厚生労働省)
※上記のOECD関連データは、OECDが2024年11月に発行したレポートに基づいています。なお、データの基準年は原則として2021年ですが、以下の国については異なります:コスタリカ(2023年)、ブラジル、チリ、フィンランド、韓国、ラトビア、オランダ、メキシコ、ノルウェー、スウェーデン、米国(2022年)、オーストラリア、ドイツ、スイス(2020年)、デンマーク(2019年)、アイスランド、南アフリカ(2017年)、中国、インド(2011年)
異なる貧困の定義(Definitions of Poverty)
相対的貧困 (Relative Poverty)
相対的貧困は、ある特定の国や地域における平均的な水準と比較した時に、大多数よりも貧しい状態を指します。この問題は経済先進国でも問題視されており、日本においても深刻な問題となっています。
日本の相対的貧困世帯の特徴として、ひとり親世帯が多いことが挙げられています。2021年には日本の相対的貧困率は15.4%、子どもの貧困率は11.5%でした。ひとり親家庭では特に深刻で、貧困率は44.5%に達しています。
相対的貧困は、社会の通常の生活水準から排除された状態を意味し、時代や地域によって異なる定義がなされます。例えば、ある地域では必須とされるものが他の地域では贅沢品とみなされるなど、生活の質を反映した指標として使われます。
また、貧困率は個人の所得ではなく、その人が所属する世帯全体の所得を基に計算されます。つまり、たとえ子どもが所得を持っていなくても、その子どもが所属する世帯の所得を元に貧困率が計算されます。

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絶対的貧困(Absolute Poverty)
絶対的貧困とは、国や地域の生活水準に関係なく、生命の維持に必要な最低限の生活水準が満たされていない状態を指します。世界銀行の定めた国際貧困ラインに基づいて、衣食住など基本的な生活物資を購入できない人々が該当します。
2015年に世界銀行は1日1.90ドルを「極度の貧困」を測る貧困ラインとして定めましたが、2022年9月に更新され、現在は2.15ドルが基準となっています。また、3.65ドルおよび6.85ドルの基準も設けられています。絶対的貧困は特に南アジアやサブサハラ・アフリカの途上国に多く見られ、低い教育水準や高い乳幼児死亡率などが常態化しています。
絶対的貧困は、生きるために必要な基本的なもの(食料、水、衣服)を手に入れられず、命を守ることすら困難な状態を意味します。これは、1日2.15ドル未満で生計を立てる「極度の貧困」を指し、最低限のカロリー摂取や非食品費用を満たすために必要な最低所得を基準にしています。
多次元的貧困(Multidimensional Poverty)
多次元的貧困は、貧困が単なる経済的要素だけでなく、清潔な飲料水、栄養状態、教育、住居環境など、基本的な資源へのアクセスの不足も貧困として捉える考え方です。多次元貧困を評価するための代表的な方法としては、多次元貧困指数(MPI)、多次元重複剥奪分析(MODA)、ブリストル・アプローチなどがあります。
多次元的貧困の測定は、栄養不足や不健康な状態、劣悪な生活環境など、所得以外の貧困の側面を反映できるため、貧困の全体像をより包括的に把握することが可能です。子どもたちが栄養、教育、健康、住居などの面で困難に直面している場合、彼らは貧困の中で生活していると見なされます。
子どもの貧困の現状(Current Situation)
子どもの貧困は、経済先進国である日本においても深刻な問題です。貧困に苦しむ子どもたちの状況はさまざまで、日々の食事に困窮している子どもや、教育の機会を失っている子どももいます。子どもの貧困は外見ではわかりづらいことが多く、一見問題がないように見えても、実際には周囲と比較して選択肢が大幅に限られ、生きづらさを感じている場合があるのです。
子どもの貧困の具体例として、病院に行けず健康管理ができない、税金やガス・水道代の支払いが滞る、勉強のための場所・時間・教材が不足することで満足な学習環境が整わず、自由に進学先を選べなかったり、進学を断念したり、学校の制服代や給食費が払えず中退を余儀なくされることがあります。
さらに、栄養バランスが偏った食事を強いられ、遊びや旅行の機会がない、冷蔵庫や暖房器具などの生活必需品が揃わないといった状況もあります。加えて、経済的不安定さが虐待や家庭崩壊につながり、貧困の連鎖を生むこともあります。ほとんどの人が持っているものを持てず、生活の質が著しく制限される例です。
特にひとり親家庭では貧困が深刻です。ひとり親は、育児と仕事を一手に引き受けなければならず、家庭に多くの時間を費やす必要があるため、非正規雇用で収入が不安定になりがちです。
子どもの貧困は、その現在の生活だけでなく、将来にも大きな影響を及ぼします。経済的な困難によって、子どもたちは進学や学習の選択肢を失い、将来の可能性を狭められてしまうことがあります。このような環境は、子どもの成長にとって大きな障害となり、社会に出てからの選択肢を制限する要因となります。
日本では、国や自治体がいくつかの支援制度を提供していますが、その利用には条件があり、全ての貧困家庭が支援を受けられるわけではありません。また、支援を求めるための手続きが複雑であったり、どこに相談すればよいのかがわからない場合も多いため、実際には多くの子どもたちが必要な支援を受けられずに困難な状況に陥っています。
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子どもの貧困の背景と要因(Background & Factors)
経済的要因
子どもの貧困の背景における経済的要因は、家庭の収入や支出、そして社会保障制度の問題などに起因します。子どもを育てるには、教育、医療、住居など、さまざまな基本的な支出が必要ですが、これらの費用は多くの家庭にとって大きな負担となり、貧困を深刻化させる要因となっています。
まず、教育費が大きな経済的負担となることがあります。文部科学省の調査によれば、2023年における公立小学校の学習費は33万6,265円、公立中学校は54万2,475円に上り、義務教育の段階でも、給食費や通学費、学用品費など、家庭が負担しなければならない支出が多いのが現状です。このため、教育を受ける機会が制限され、子どもが貧困状態から抜け出すための重要な手段である進学や学習の機会を失ってしまう場合があります。
また、住宅手当や公営住宅などの住居支援策が不十分で、子どもの医療費助成が多くの自治体で15歳までに制限されていることも、経済的負担を増加させているという声もあります。教育、住居、医療といった基本的な支出が家計を圧迫し、貧困を悪化させる要因となる場合があります。
貧困の連鎖
貧困の連鎖とは、世代を超えて貧困が引き継がれる現象を指します。一度貧困に陥ると、その状態から抜け出すことが難しく、次の世代にも継続する傾向があります。特に、親の経済状況は子どもの教育機会に大きな影響を与え、これが将来的な就労や収入に直結するため、貧困の連鎖が生じる主な要因となっています。
親の経済的理由により塾通いや大学進学が困難で、十分な教育や支援を受けられない場合、将来の進学や就職の選択肢が狭まります。その結果、安定した職に就くことが困難になり、十分な収入を得られず、成長しても貧困から抜け出せないまま次世代へと連鎖してしまうことがあります。こうして、貧困は世代を超えて継続しやすい構造となっているのです。
女性と子どもの貧困の構造的課題
子どもの貧困は、女性の貧困と密接に関連しています。厚生労働省の2024年の調査によると、日本の母子家庭は約120万世帯と、父子家庭(約15万世帯)の8倍に上ります。シングルマザーの就労率は2021年時点で86.3%以上と高いものの、就労収入は低く抑えられ、母子世帯の平均年間収入は272万円であるのに対し、父子世帯は518万円と大きな格差が存在します。
さらに、正社員率においても母子家庭は約50%、父子家庭は約70%と差があり、男女間の所得格差が貧困を助長する要因となっています。この背景には、1960年代以降に強まった「男は仕事、女は家事・育児」という性別役割分業の考え方が影響していると考えられます。
日本社会の構造は、依然として「女性は家族に依存する」という前提のもとに成り立っています。京都大学大学院の丸山准教授によれば、未婚女性は父親、既婚女性は夫、高齢女性は遺族年金や息子の経済力に頼ることが標準とされてきました。このため、シングルマザーや未婚女性、離死別による単身女性は経済的に不利な立場に置かれやすく、貧困のリスクが高まります。
また、大阪公立大学の伊田教授は、女性の貧困の根源が家庭内での役割にあると指摘しています。性別役割分業の考え方が根強い社会では、女性が生計を立てることを前提とせず、家庭に組み込まれることが「生存の命綱」となっているのです。
このような社会構造の中で、貧困は女性の問題として表面化しにくいまま、家庭内に潜み続けてきました。女性が家族に依存することを前提とした社会では、男性が世帯を支える責任を負うことになりますが、これは男性にとってもプレッシャーとなり、家事や育児の時間を確保しづらくする要因にもなっています。
そのため、子どもの貧困を解決するためには、女性が経済的に自立しやすい環境を整えるとともに、男性が家事・育児に関わりやすくなるような社会制度の整備が効果的です。
子どもの貧困をなくすための道筋(Roadmap)
子どもの貧困問題に取り組む国際的なネットワーク、「Global Coalition to End Child Poverty (子どもの貧困を根絶する世界連合)」によると、子どもの貧困に効果的に取り組むためには、包括的で多面的なアプローチが必要です。地域や国ごとの貧困の状況に応じた対策が重要ですが、子どもの貧困に対処するための共通の指標となるマイルストーンは以下の通りであるといいます。
- 子どもの貧困をなくすための国の道筋の構築
- 子どもの貧困の測定
- 子どもの貧困の可視化
- 政策/プログラムの変革を通じて子どもの貧困を削減する
- SDGsの達成により「極度の子どもの貧困」をなくす
具体的に、子どもの貧困対策に効果的であることが証明されているアプローチには以下が含まれています。
- 子どもの貧困削減を国の優先事項として明示することで、国の支援を構築する
- 社会保護制度とプログラムにおいて、子どもへの配慮を拡大する
- 特に最も貧しい子どもたちのために、質の高い公共サービスへのアクセスを改善する
- ディーセント・ワークと包摂的成長のアジェンダを推進し、貧困にあえぐ家庭と子どもたちに手を差し伸べる
(出典)The Global Coalition to End Child Poverty. ‘Child Poverty FAQs’.
子どもの貧困を根絶する世界連合は、ユニセフやセーブ・ザ・チルドレンなどの国際機関、NGO、学術機関が連携し、子どもの貧困を削減するための政策提言や研究、実践的な支援活動を行っています。
子どもの貧困問題への取り組み(Action)
「こどもの未来応援国民運動」
日本政府は2015年に、「こどもの未来応援国民運動」を開始しました。このプロジェクトは、子どもの貧困問題に社会全体で取り組むため、支援を希望する個人や企業と、NPOなどの支援団体を結びつけることを目的としています。また、国や自治体が実施する子どもの貧困対策を促進する役割も担っています。
この運動は、主に以下の三つの活動を軸に展開されています。
「こどもの未来応援基金」
企業や個人から寄付を募り、学習支援団体、子ども食堂、児童養護施設などの支援団体に資金を提供する仕組みです。
企業と支援団体のマッチング
各支援団体のニーズに応じて、企業の特性に適した形で支援ができるよう、マッチングを行います。
広報活動
子どもの貧困問題への理解を広め、支援の輪を拡大するための啓発活動を行っています。
民間セクターの活動
生活基盤の強化や所得支援にとどまらず、地域コミュニティの再生、学習支援、食事支援など、さまざまな側面から子どもの貧困に取り組んでいます。民間セクターによるこうした多層的な取り組みは、SDGs(持続可能な開発目標)の目標「貧困をなくそう」の達成に向けて、重要な役割を担っています。
具体的な取り組みとしては、捨てられる予定だった消費可能な食品を無償で提供するフードバンク、無料または低価格で食事が提供される子ども食堂、無料の塾や低額の学習支援プログラムなどがあります。これらの活動は、地域のつながりを強化し、子どもを見守る役割を果たすとともに、将来の進学や就職に向けた重要な支援となっています。
子どもの貧困問題に関して私たちができること(What We Can Do)
個人でも子どもの貧困対策に貢献することができます。募金や寄付での支援は、支援団体への直接的な寄付や、さまざまなプロジェクトを通じて貢献することが可能です。
「こどもの未来応援国民運動」では、簡単に募金できる「クリック募金」を実施しています。1クリックするだけで2円の寄付ができ、子どもの貧困対策に役立てることができます。
子どもの貧困を改善するアイデア(IDEAS FOR GOOD)
子どもの貧困問題を解決するために、できることは何でしょうか?
IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアで子どもの貧困問題解決に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。
子どもの貧困に関連する記事の一覧
【参照サイト】日本弁護士連合会「女性と子どもの貧困に関する活動(女性と子どもの貧困部会)」
【参照サイト】日本弁護士連合会「貧困の連鎖を断ち切り、すべての子どもの生きる権利、成長し発達する権利の実現を求める決議」
【参照サイト】World Bank Group. ‘Fact Sheet: An Adjustment to Global Poverty Lines’.
【参照サイト】こども家庭庁支援局家庭福祉課「ひとり親家庭等に関する施策・制度について」
【参照サイト】文部科学省「令和5年度子供の学習費調査の結果を公表します 」
【参照サイト】World Bank Group. ‘Global poverty reduction has slowed to a near standstill’.
【参照サイト】厚生労働省「国民生活基礎調査(貧困率) よくあるご質問」
【参照サイト】徳田彩「母子家庭の相対的貧困問題における本質的問題の研究」『日本デザイン学会研究発表大会概要集』 一般社団法人 日本デザイン学会
【参照サイト】ワールド・ヴィジョン「相対的貧困とは?絶対的貧困との違いや相対的貧困率についても学ぼう」
【参照サイト】プラン・インターナショナル「相対的貧困とは?貧困の種類や世界・日本の貧困率、起こりうる問題」
【参照サイト】プラン・インターナショナル「日本における貧困の現状とは?原因や改善に向けて行われている支援」
【参照サイト】こども家庭庁 支援局家庭福祉課「こどもの未来応援国民運動」ホームページ
【参照サイト】ユニセフ「国連総会、‘子どもの貧困’の強力な定義を採択」
【参照サイト】OECD. ‘Child Poverty’. In OECD Family Database. OECD, 2024.
【参照サイト】OECD. Society at a Glance 2024: OECD Social Indicators. Paris: OECD Publishing, 2024.
【参照サイト】厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」
【参照サイト】セーブ・ザ・チルドレン「日本の子どもの貧困」
【参照サイト】厚生労働省「II 各種世帯の所得等の状況」『2023(令和5)年 国民生活基礎調査の概況』
【参照サイト】World Bank Group. ‘Global Trends in Child Monetary Poverty According to International Poverty Lines’. “Policy Research Working Paper 10525”. (2023)
【参照サイト】World Bank Group. ‘Global Trends in Child Monetary Poverty According to International Poverty Lines’.
【参照サイト】The Global Coalition to End Child Poverty. ‘Child Poverty FAQs’.