近年ではVR(バーチャル・リアリティ)技術の発展が著しく、エンターテイメント業界を筆頭に、三次元の映像を疑似体験できるVRは様々な場面で活用されるようになってきた。そんな中、VRを環境問題への取り組みに活用しているSCジョンソン社の試みについて紹介する。
Pledge®、Glade®、OFF!®、Ziploc® などの人気商品で知られる米国の家庭用製品メーカーSCジョンソンは、国際環境NGO団体のConservation International(以下CI)とのパートナーシップの一環として「acre-for-acre matching challenge」という森林保護のためのチャリティプロジェクトを発表した。これは、ヴァーチャルリアリティ(以下VR)を用いて、人々にアマゾンの熱帯雨林の様子を疑似体験してもらうという試みだ。
キャンペーンに使われるVR対応映画の「Under the Canopy」は、CIと360°映像製作・配信を手がけるJauntが共同で製作したドキュメンタリーで、2017年のサンダンス映画祭で初上映された。この映画では、先住民ガイドのKamanja Panashekungと俳優のLee Paceの2人が、地球上で最大の熱帯雨林であるアマゾンを紹介してくれる。
この映画を見ることで、アマゾンには世界最大の分水嶺としての役割があることや、木々が炭素を吸収して気候を調整することなど、何故人々がアマゾンを繁栄させなければならないのかの理由を知ることができる。なかなか立ち入ることができないアマゾンの密林を映し出した迫力ある360°映像は、強い臨場感とともにアマゾンの現状を私たちに訴えかけてくる。
この映画はサイト上で公開されており、誰でも見ることができるようになっている。VRヘッドセットを持っている人はJauntのVRアプリを用いてより没入感の高い映像を体験することが可能だ。
CIのウェブサイトを通じて25米ドルの寄付をすると、1エーカーの熱帯雨林が保護される。SCジョンソンは5,000エーカーの熱帯雨林を保護するまでこの試みを続ける。
SCジョンソンの会長兼CEOを務めるFisk Johnson氏は、「アマゾンの熱帯雨林は、新鮮な水や空気から炭素隔離や生物多様性、観光やレクレーションに至るまで、この地球における生命活動を維持するための豊富な生態系サービスを提供している。この熱帯雨林は『保護するだけの価値がある』のではなく、もはや『保護する必要がある』のだ。」と語る。
また、同氏は「既に熱帯雨林の8%が森林破壊の犠牲になっている。現状をこのままにしておくことはできない。人々と地球にとって壊滅的な未来になるだろう。」とも指摘している。
SCジョンソンは、これまでにも様々な環境問題に取り組んできた企業だ。2000年以来、世界中にある自社の製造工場の温室効果ガスの排出を50%以上も削減したほか、生産拠点の3分の1において埋め立て廃棄物をゼロにした。また、パルプ・紙・包装・パーム油の持続可能な調達により、2020年までに森林伐採をゼロにすると約束しているthe Consumer Goods Forumの一員でもある。
CIの会長兼CEOであるPeter Seligmannが「SC Johnsonのような、人々が聞き慣れた名前の企業が熱帯雨林の保護活動を行うと、人々の注目を引く。」と述べているように、この試みは、人々に浸透している企業だからこそできる活動の良い例だ。
また、近年著しく発展しているVRをCSR活動に効果的に導入している事例としても興味深い。従来の2次元映像よりも高い没入感を得ることができるVRを用いることで、環境問題をより「自分ごと」として捉えるきっかけを人々に与えており、チャリティへのエンゲージメントを高めている。社会の様々な問題を身近なものだと感じてもらうためのツールとしてのVRの有効性を示している事例であるとも言えるだろう。
【参照サイト】SC Johnson