「お金をもらっている以上はしっかりやってくれ。」仕事場でよく耳にする説教文句の定番だが、ではお金が絡まなかったらどうなのだろうか。「お金」の部分は他の言葉でも置き換えられるのだろうか。
オランダのハーグ市で生まれた「Timebank cc.」は、人々が貨幣の代わりに自分の「時間」を使ってサービスを売買できるプラットフォームだ。気心の知れた間柄であればお金を介さずとも「コレをやってあげるからアレをやって」と仕事を頼み合うことはよくあるが、Timebank.ccは「時間」を通貨に見立てることで、そのやり取りを見知らぬ人にまで拡張させたシステムだ。
仕組みはとてもシンプルで、1時間の仕事を提供することで「1 Timebank Hour」が得られ、この「1 Timebank Hour」を使うことで誰かに1時間の仕事を依頼することができる。取引されている内容はピアノの調律から自転車の修理、ウェブサイトの開発からビジネスのコンサルティングまで様々で、お互いが得意分野を活かしてお金を介さずに助け合う場所となっている。
提供するサービスの内容や人物に関わらず、参加者の1時間が等しく価値を持つ1時間としてカウントされるこの方式は、見方によっては公平ではない。「自分の1時間は他の人より価値がある」と言いたくなる人もいるだろうし、お金が全てを測ることができないのと同様に、「時間」という指標もやはり完璧ではない。しかし、あくまでも貨幣経済の補完的なシステムとして位置付けるのであれば、面白い使い道もありそうだ。
例えば、貨幣経済の中ではいま一つ評価されない技能でも取引できるのがこのシステムの魅力だろう。「社内ではカラオケが上手いと評判」「見よう見まねで散髪ができる」といった、お金を取るほどではない、あるいはお金になるのかもしれないが現状それがわからない、という特技を誰でも一つや二つは持っているのではないだろうか。そういう特技をまずは「時間」で取引してみて、好評であれば貨幣取引に切り替える、という方法も可能なのである。
Timebank cc.上でのサービスの質をどう担保するのかという問題も確かにあるし、ウェブサイトではサービスを受けたあとのフィードバックも公開されているようだが、そこはお金ほど真剣なものでもないのだから、もう少し緩くしてもよいのではないかと個人的には思う。
Timebank cc. への登録は無料で、既に1,000人以上が参加しているという。時間の売り買いにより参加者が得られるメリットも大きいが、それ以上にこのサービスを通じて地域の住民同士が交流する機会が数多く生まれるという点も重要だ。貨幣を介さずとも地域の人々の暮らしを豊かにすることはできることを示す好事例だと言える。
サイトではユーザーがどういうサービスをやり取りしているのか見ることができるので、興味がある方はぜひ覗いてみてはいかがだろうか。
【参照サイト】Timebank cc.