デンマークの首都コペンハーゲンにあるデザイン博物館には、デンマークの有名デザイナーの椅子やファッションの歴史、日本や中国の骨董品などが展示されている。この博物館の特徴は、単なるファッション性や美しさ、豊かさを追求するデザインだけではなく、社会を良くするデザインやアイデアを目にすることができる点だ。
まず発見したのは、デンマーク人が発明した、汚水を清潔な飲料水に浄化する「ライフストロー」だ。このストローを通すと、99.9%のバクテリア、ウイルス、パラサイトが殺菌される。一本のフィルターで約1,000リットルの水を浄化することができるので、1日2.5リットルの水を飲むとしたら約1年間使用可能である。
このストロー自体はプラスチック製で約50gと軽く、値段は250kr(約4250円)だ。綺麗な水がすぐに手に入らない途上国だけではなく、アウトドアや災害の際にも使用できるので、日本の家庭にも一本あれば何かと役に立つのではないか。日本のアマゾンで購入も可能だ。
二つ目は、海藻の繊維とリサイクルペーパーで作られたランプである。海藻は農作物と異なり、化学肥料や農薬を使用していないため、オーガニックなランプだ。また、海藻は食用として利用する国は少ない一方で海岸国であれば豊富に存在する資源のため、従来捨てられていた資源を利用して作ることができるエコな製品でもある。さらに、海岸に流れ着く海藻の処分にはお金がかかるため、経済的なメリットも大きい。海藻がランプになるなんて思いもつかなかったが、オーガニックでエコノミカル、そしてサステナブルな優秀な資源である。海藻を使用したリサイクル製品として、食べられるコップや土に還るお皿も製品化している。
最後に、日本の伝統的素材である竹を使用したデザインをいくつかご紹介したい。まず見つけたのは、弁当箱と鱒ずしの包みである。最近では竹からできたタンブラーや、なんと自転車まで存在する。竹は成長が早いので、他の木材と比べて森林減少に影響を与えにくい。むしろ地球温暖化の抑止に向けて間伐が推進されている今日では、新しい竹ではなく間伐された竹を使用できればより環境にやさしい製品を作ることもできる。日本にいると竹は身近すぎる素材がゆえに焦点が当たることが少ないが、改めて考えてみると、日本で昔から使用されている竹は、実はサステナブルな素材であることを実感する。
上記のデザインは、見た目だけを気にして作られたものではなく、問題解決の手段にもなっている。1個目は、世界の清潔な水不足を解決するデザインだ。ライフストロー一本で水不足が全て解決するわけではないが、完璧なものができるまで待つのではなく、製品化して実際に使い始めることで何人もの命を救うことができる。そして、2つ目と3つ目の海藻や竹から作られる環境にやさしい持続可能なデザインからは、自分たちの身近に既にあるものや従来捨てていたものを見直して、既存のものとは異なる面白い使い方を考える視点が学べる。
さらに、このデザイン博物館では日本の伝統的な作品やデザインも紹介されている。今でこそデンマークをはじめとする北欧のデザインや家具が日本で非常に流行しているが、もともとは日本のデザインのシンプルさや文化がデンマークのデザインに影響を与えていたというのは興味深い。
たとえば日本のデザインには自然がモチーフになったものが多く、その影響からデンマークでも自国の自然を再評価することが多くなった。また、日本の伝統的な折り紙がデンマークの照明の形や最近では服やファッションにもインスピレーションを与えているそうだ。日本にいると当たり前で見過ごしてしまっていることも、外の目から見るとまた違った視点で見ることができる。
社会を良くするデザインと聞くと、何か新しいアイデアを思いつかないといけないように聞こえるかもしれない。しかし自分の身近なところに目を向けてみると、日常の思わぬところに、新しいアイデアのヒントが隠れているのではないだろうか。
【参照サイト】Design Museum Denmark
【参照サイト】林野庁「間伐等の推進について」