命をかけて海を渡る15世紀の大航海時代から時は過ぎ、いまではわずか10数時間で大陸間の移動が可能になった。世界の距離が昔よりも近くなるにつれ、安全性だけではなく快適さや費用も重視されるようになった。
しかし、航空業界はさらに遠くを見据えた最先端のニーズに応えようとしている。2016年にはアメリカのアラスカ航空が国内で初めて木材由来のバイオ燃料を使った国内線を始めたが、今回はオーストラリアのカンタス航空が、世界で初めてバイオ燃料使用のアメリカ―オーストラリア間の直行便を運航したのである。
ロサンゼルスとメルボルンを繋ぐボーイング787は、15時間かけて大陸を渡った。カンタス航空が使用するバイオ燃料の10%はBrassica carinataというマスタードシードから採れたオイルを用いており、1万平方メートルの種子が2,000リットルの再生可能な燃油を生産しているという。既存の燃料と比べて1万8000キロものCO2を削減できるというのだから驚きだ。
この燃料を提供するアグリテック企業Agrisomaの最高経営責任者スティーブ・ファビジャンスキ氏は「Brassica carinataは一般的な作物が育たない時期に育つため、今まで眠らせているだけだった土地を有効活用することができる。高タンパクで家畜の飼料として使え、さらには畑の土壌を良くする効果まである。エネルギーとしても優秀で、伝統的な化石燃料に比べてCO2排出量を20%以下にまで抑えられるのだ。」と述べた。
カンタス航空の最高経営責任者であるアリソン・ウェブスター氏は、これまではオーストラリアで生産可能かつ十分な量の燃料を確保する方法を見つけることができなかったことを認め、ロサンゼルス-メルボルン間のバイオ燃料飛行機の運航に対して「これは歴史的なフライトであり、オーストラリアにおけるバイオ燃料業界の発展における最初の一歩として歴史に刻まれるだろう」と声明を出した。
さらにシドニー大学で農業を研究するダニエル・トン教授は、この取り組みを航空業界のみならず、農家でも持続可能なエネルギーとして使うことができるだろうと高く評価する。
石油や石炭エネルギーが最盛期の頃に言われ始めた「低炭素社会」というビジョンは夢物語のようですらあった。しかし近年は持続可能なエネルギーのコストパフォーマンスは十分高まり、地域によっては石油や石炭エネルギーよりも安価になっているという。
食品業界では児童労働が関与していないチョコレートがエシカルな商品として価値を見出されたのと同様、これからはサービスが用いているエネルギーが安全で持続可能かも購買行動において重要なポイントとして評価されるようになるだろう。
【参照サイト】FROM FARM TO FLIGHT: QANTAS TO OPERATE WORLD’S FIRST US-AUSTRALIA BIOFUEL FLIGHT