銀行のATMでお金を下ろす。何気ない生活の一部として、私たちはかんたんにこの動作を行える。しかし、視覚障害がある人がATMでお金を下ろすとなると、容易なことではない。
目が見えない状態では、もしかしたら、ボタンを押し間違えるかもしれない。他の人の何倍もの時間がかかり、並ぶ人を待たせてしまうかもしれない。誰かに手伝ってもらわなければいけなくなり、申し訳ないと感じてしまうかもしれない。
そのような問題を解決するために、スペインの大手銀行BBVAは、視覚障がい者に向けたスマートフォン(以下スマホ)アプリ「BBVA para todos(ベベウベア・パラ・トドス)」をリリースしている。BBVA para todosは、スマホに搭載された自動読み上げシステムVoice Overの機能を使い、視覚障がい者でも容易にATM操作を行えるようになるアプリだ。
使い方はこうだ。まず、アプリ画面から利用したい銀行カードの種類や引き出す金額を選んでおく。金額を選んだのち、対応する一番近いATMまで出向くことになる。ちなみに、ATMまでの道のりはVoice Overが案内してくれる。
ATMに到着すると、アプリが音声を使って銀行カードを入れるための動作や、暗証番号の入力を指示してくれる。操作が完了すると、事前にアプリで選択しておいた金額が出てくる仕組みだ。ATMの前で金額の入力などの一連の操作をすべて行う必要性がない。
実際に、視覚障がい者が同アプリを利用した動画がある。利用イメージがわかりやすいため、0:38ごろから確認してほしい。
BBVA para todosは、1年以上の開発期間を経てリリースされた。BBVA側の意見だけでなく、50名以上の視覚障がい者の協力を経て、改善が繰り返されたのだ。
また、障がいを持つ人々の社会参加を推進するONCE財団のブランド、Iluinion(イルニオン)も開発に協力している。そのため、視覚障がい者が直面する悩みや要望も、アプリに反映されていることが特徴だ。
BBVA para todosは、iOSとAndroidのどちらでもダウンロードができ、スペイン全土にある6,300台以上のATMで利用可能である。視覚障がい者だけでなく、すべての人に開かれたアプリであるため、スマホの操作が不得意な場合が多い高齢者などにも使えるアプリとなるだろう。
また、アプリは今後数週間でアップデート予定だ。スマホのNFC(近距離無線通信)機能を使い、カードを差し込むことなく身分証明が可能なること、そしてスマホの指紋認証機能を使い、アプリに簡単にアクセス可能になるそうだ。
日本の場合、音声ガイダンスや視覚障がい者にも対応したATMはあるものの、未だにわざわざ窓口に行かなくてはならない場合も多い。また、代理人や代筆が必要になる現状がある。そのため、ATM操作をほぼすべて一人行い、お金を下せるという強み持つBBVA para todosは、視覚障がい者がより自立できるという側面を持つアプリと言えるだろう。
視覚障がい者がかんたんにATM操作をして現金を引き出しできるアプリは、スペイン国内でも珍しい。大小合わせて300以上の銀行が存在するスペインで、BBVAは障がい者にも対応できる銀行アプリ開発の先人になったと言える。これから、障がい者に優しい国への発展に一役買いそうだ。