世界の男女格差を比較する世界経済フォーラムの『The Global Gender Gap Report 2017』によると、日本のジェンダーギャップ指数は144ヵ国中114位。特に政治と経済の分野において女性の進出が遅れていることが原因となり、G7のなかでは最下位であった。日本より下位の国には、イスラム教徒が多い中東の国々が目立つ。イスラム諸国では、女性が社会で活躍し自由に生きようと考えても、文化的、宗教的なハードルが存在しているのだ。
そんなイスラム諸国の中でも、特に厳格とされるサウジアラビアでは世界で唯一、女性の自動車運転を禁じていた。しかし、2017年9月にサウジアラビアのサルマン国王は女性の自動車運転を認める国王命令を発布し、女性ドライバーが解禁される2018年6月24日に向けて、10人の女性に運転免許証を発行したのだ。
この取り組みのきっかけとなったのは、2030年を目標に発表されたサウジアラビア経済の改革計画だ。計画の一部には、女性の労働人口増加が含まれる。現在、働いている女性の割合は22%であり、政府は2030年までにそれを30%まで高めることを目指している。
「女性にとって自動車運転の権利とは、単なる移動手段を得るだけでなく、意思決定の力や自信を向上させることに繋がるだろう」と政府は述べた。近年サウジアラビアでは、自動車免許だけでなく、女性の教育やスポーツスタジアムや映画館などの公共スペースへのアクセスを改善するなど、制約の緩和に意欲的である。
しかし、女性の運転解禁が1ヶ月と迫り、権利拡大を訴えた女性活動家らが逮捕されるという事態も起きている。女性の運転解禁には聖職者などから、「シャリーア(イスラム法)に反するものだ」とする声も出た。一連の逮捕には、こうした社会改革に反対する保守勢力をなだめる目的があるほか、政府の改革方針を逸脱した過度の要求は控えるようにというメッセージだとも読み取れる。
また、女性の運転解禁に対して「政府が“変わった”と偽っているだけにすぎない。サウジアラビアはまだまだ抑圧的な独裁国であり、この改革は国のイメージアップ戦略として使われている」という懐疑的な意見もある。依然として女性の服装には厳格な決まり事があり、家族以外の男性との接触は禁じられているのだ。また、女性が旅行したり、働いたり、医療サービスを受けたりする際には男性の付き添いか書面での許可が必要だ。サウジアラビアで真の男女平等が実現されるまでは、長く険しい道のりであることがわかる。
今回の自動車運転の解禁は、お飾りだけで終わってはいけない。政府だけが努力するのではなく、国民も主体となって実際に女性が車を安全に購入、運転できる環境づくりが必要となる。また、女性の社会進出が進むなかであらわれる課題に対して真摯に向き合っていかねばならない。
そして、世界有数の先進国でありながらジェンダー格差が大きい日本においても同様のことが言える。女性が社会で活躍するために産休や育休、育児のための短時間勤務などの制度を政府が整えるだけでは十分でなく、その制度の利用を促す職場の環境や雰囲気を国民自身がつくりだすことが求められるだろう。
【参照サイト】Saudi Traffic Dept., Starts Granting National Driving License, for Women Holding Int’l Ones
【参照サイト】The Global Gender Gap Report
【参照サイト】運転解禁が迫ったサウジアラビアで女性活動家ら相次ぎ逮捕 反対する保守勢力に配慮か
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