しっぽをぶんぶん振りながら、くりくりした目を輝かせ駆け寄ってくる犬の姿に、心癒されたことのある人は多いかもしれない。犬というのは、ときには愛らしい恋人のように、またあるときには親友のように、私たちに寄り添ってくれる大切な存在だ。
では実際に、彼らを家族に迎え入れようというとき、あなたはまずどこに行くだろう?ペットショップ、という人が大半かもしれない。しかし実は、スウェーデンなどの諸外国では、ペットショップでの犬の販売が禁止されていることを知っていただろうか? これは、シェルター等で保護されている動物たちの里親探しを優先し、彼らの殺処分をゼロにしようという目的達成のためだ。
今年7月1日、オーストラリアのヴィクトリア州でも同様、ペットショップでの犬猫の販売を禁止する法律が施行された。今後ショップには、動物保護施設・シェルター出身の犬たちだけが並び、店頭が彼らの里親探しの場として機能することになる。さらに今回の法改正のユニークなところは、ブリーダーの飼育できる雌犬の頭数に、50頭という上限を設けたことだ。
これには、オーストラリアで以前から悪質ブリーダーたちの存在が問題化していた背景がある。彼らはパピーファクトリーと呼ばれる「子犬繁殖施設」において劣悪な環境で大量の雌犬を飼育し、まるで子犬を生産する機械のごとく、なんども妊娠と出産を強要させていたのだ。
この状況を変えるためにヴィクトリア州政府は、ブリーダーたちの管理と規制を強化することにした。3頭以上の雌犬を保有するブリーダーはすべて公的登録が義務づけられ、保有頭数が多いほど規制は厳しくなる。たとえば、11頭以上のメス犬を保有する人は、「商用ブリーダー」としてヴィクトリア州農業省からの認可が必要になる。この資格は、犬たちの飼育環境や業務形態などに関する厳しい監査をパスしなければ得られない。
さらに、今後は州のシステムにより犬の繁殖に関するトレーサビリティも担保していく予定だという。「誰がこの犬を繁殖し、どこの施設から来たのか」がわかる個人番号をそれぞれの登録者に発行するのだ。
これにより、ヴィクトリア州の人々がペットを迎え入れる際には、ペットショップや動物愛護施設を通じて保護犬の里親となるか、健全な飼育環境の中で生み育てられた子犬をブリーダーから直接購入することになる。犬にも人間にも、やさしく健全な選択ができるようにする試みだ。
本記事で紹介した犬たちにまつわる社会問題は、そのまま日本にも当てはまる。日本で殺処分される犬は、年間1万頭に上るだけでなく、悪質ブリーダーの元で非人道的な扱いを受けている犬たちも多く存在する(※1)。
そんな社会を生きる私たちが、ヴィクトリア州の取り組みに学べることはなんだろう。実際に里親として引き取り手のない犬たちを引き取ることかもしれないし、今日からでもこの問題について周りの人に話してみることかもしれない。あなたの何気ない一言が、どこかで助けを必要としている命を救うかもしれないのだ。