シェアリング・エコノミーの影。「つながるほど孤独になる」時代とは

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1994年にジェフ・ベゾスが創業したAmazonは、私たちの買い物スタイルを大きく変革させたと言っていいだろう。オンラインでの商品の購入は今では当たり前のことになり、購入履歴からおすすめ商品を提案するレコメンド機能もごく自然に使われるようになってきた。

それだけではない。これら以上に私たちの日常において習慣化した機能がある。それは、他者の評価を参考に買い物をする「レビュー機能」だ。

人が人を評価するシェアリングエコノミー

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オンラインショッピングはもちろん、レストランを探すときや、ホテルに泊まるときなども、まず誰かの投稿した口コミを確認した経験があるはずだ。店員の話や自分の目と勘に頼っていた頃の買い物スタイルと比べると、「間違いのないサービス」に課金できる可能性が格段に高まったと言える。

しかし、こうしたあまりに簡単で便利すぎる評価・レビュー機能が、私たちを誤った方向に導いている可能性があることに触れておかなければならない。というのも、もともと「物」を対象として役割を発揮してきた評価レビューが、その枠を飛び出し、「人」の評価へと及んでいるからだ。それが現実化した世界のひとつが、「シェアリング・エコノミー」である。

シェアリング・エコノミーは、乗り物や場所、物などを個人間でシェアする考え方で、世界的には、自家用車を利用してタクシーのような配車サービスを実現するUberやLyft、日本で「民泊」と呼ばれる個人宅への宿泊を支援するAirbnbが代表的だ。

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ICTやスマートフォンの普及、IoTによる技術革新を背景に、シェアサービスの勢いは増すばかりで、ある調査によれば、シェアリング・エコノミーの世界のマーケット規模は、2017年に18億ドル、日本円にして約2兆円規模にもなり、2022年には40億ドル(約4.5兆円規模)にまで拡大することが見込まれている。

一般社団法人シェアリングエコノミー協会によれば、日本は欧米に遅れを取りつつも、カーシェアや民泊、フリマ・レンタル系のサービスの浸透により、2017年には450億円程度の市場規模があるなど、3年前に比べたらほぼ倍の成長ぶりだ。

使われていない資産を共有することで有効活用しようという、一見意義のあるシェアリング・エコノミー。だが、これを悲観的に眺めているのが、スタンフォード大学で社会学を専門に研究するパオロ・パリッジ教授だ。

「信頼」の意味の変化

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教授がUberやAirbnbなどのシェアサービスに関する研究を通して気が付いたのは、オンラインの世界では、人との関係作りがこれまで以上に素早くできるようになった代わりに、その結束が非常に薄く、弱いものになっているということだ。

言ってみれば、シェアリング・エコノミーの世界は、つながりやすく壊れやすい表面的なお付き合いによって支えられているということである。

こうした事態を招いている原因は、シェアリング・エコノミーで当然のように行われる人に対する評価レビューにある。シェアする物は車や家の空きスペースだとしても、それを管理・提供するのも、利用するのも人であり、レビューは人に対するものとなる。

初めて会う人が信頼できるかどうかは、時間と経験によって判断するものであったが、シェアリング・エコノミーの世界では、「この人はとても親切だし、信頼できる人だ」というレビューと星の数によって、その人が信頼に足る人物かどうかを判断されてしまう。

また、教授によれば、これらの評価レビューの特徴は、あまりに具体的すぎるという。つまり、「あの人は、(私の車の管理に関しては/私の部屋の利用に関しては/私のペットの世話に関しては)信頼できる」といった具合に、その人全体の印象として信頼できるかどうかではなく、具体的な物の利用に限って人を判断しているということだ。

シェアリング・エコノミーの世界では、「信頼」という言葉の意味が変わっているようである。

「あなたは星いくつの人?」

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さらに、今後の動向として、ゲスト(利用者)とホスト(提供者)がお互いに評価レビューし合うこれらのサービスが、グローバルな評価システムやスコア化へと発展していくことは、技術的には難しいことではない。だが、パリッジ教授は、それを「すべきかどうか」は別の問題だとし、かつての東西ドイツのように全国民同士がお互い監視しあい、スパイしあうような世界を目指したいのだろうか、と疑問を投げかける。

人を商品のようにレビューし、星の数でスコア化することが行われるシェアリング・エコノミーの世界。さて、あなたは教授の考えを極端な捉え方だと感じただろうか。もし、「人の良し悪しをレビューで判断するほど人は落ちぶれていないし、そんな世界はやってこない」と思ったとしたら、その期待は裏切られてしまうかもしれない。

私たちがレビューによって相手を信頼する時代にすでに足を踏み入れ始めていると感じさせられる出来事の一つが、恋活・マッチングアプリの登場だ。

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リクルートやサイバーエージェントなど大手企業が続々と提供し始めているこれらのアプリの画面には、未来の恋人候補の写真やプロフィールに加えて、「いいね」の数が表示されている。マッチングアプリは、見知らぬ異性を評価したり、アプローチしたりすることに価値を設けたビジネスと言えなくもない。

こうした流れは、本来人生の大切な時間であるはずの、恋人との信頼関係の構築プロセスを、あまりに簡単に取り除いてしまってはいないだろうか。また、星の数が少ない人、ある特定のコンテンツにおいて評価が低い人が全体として「魅力的でない」と評価されるのはいかがなものだろうか。

まとめ

振り返ってみれば、そもそも私たち日本人は、こうした評価レビューやスコアによる人の評価が好きな側面があったことに気付く。「受験大国」として世界でも知られる日本では、テストの点数や偏差値による人の評価を当たり前のように行ってきたし、通信簿に書かれた先生からのたった一言のコメントで一喜一憂したはずだ。

また、年齢や勤続年数など年功序列による評価制度は日本型雇用の特徴だと言われてきた。こうして考えてみると、多国籍の人種が集まり、型にはまらない自由な思想が奨励される環境と比べると、日本人は一定の水準で他人を見がちで、あるべき人との信頼関係の作り方はとうの昔に失われていたようにも思えてくる。

シェアリング・エコノミーをあえて冷めた目線で捉えてみれば、人からのレビューが自分の信頼度に直結する世界ということになる。そのやり方に慣れ親しんできた私たち日本人は、この新しい世界を抵抗なく受け入れ、より多くの星と高いレビューを獲得することに一生懸命になってしまうのかもしれない。

パリッジ教授の心配をよそに、シェアリング・エコノミーがここ日本で爆発的な広がりを見せていくのだとしたら、私たちは改めて「信頼できる人間関係」とは何かを考え直さなくてはならない。

【参照サイト】How Many Products Does Amazon Sell Worldwide – January 2018
【参照サイト】Sharing Economy Revenues to Double by 2022, Reaching Over $40 billion
【参照サイト】Why the Sharing Economy Is Making All of Us More Lonely
【参照サイト】Why Japan’s sharing economy is tiny
【参照サイト】一般社団法人シェアリングエコノミー協会
【参考サイト】人々の生活を大きく変革したAmazonの歴史とは?

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