火災での死因の半数以上が煙の吸引によるものといわれ、日本に限っても一酸化炭素中毒・窒息がほぼ3割で毎年推移している。消防庁によると、平成25年の火災による死者の50%以上が逃げ遅れで、避難行動を起こしているが逃げきれなかったと思われる人が全体の18%を占める。その中には、避難中にガスを吸引し息絶えたり、搬送先の病院で亡くなったりといったケースも見られる。
突然の火災にみまわれた際は、限られた時間の中で瞬時の判断と行動が生死をわける。しかしガス吸引による死者は、マスクで呼吸が確保されていれば生存率が大幅に上がるのだ。そうだとしても、火災現場に遭遇した人で、高品質のマスクを持っている人はほとんどいないだろう。ハンカチやタオルを水に濡らし鼻や口に当てて呼吸することで、即席の防煙マスクにすることも可能だが、火災現場に必ずしも水があるわけではない。
そこで、火災時の対策として韓国の国民(クンミン)大学校の学生研究グループが、非常用ウォーター・マスク・ディスペンサを開発した。この装置の内部には、乾燥した状態で複数のマスクが収納されており、非常時に備える。そして、ひとたびその扉を開封すると、つながっている水タンクのふたが外れ、マスクは瞬時に水をかぶり、即席の防煙マスクとなる。学生グループによると、マスクは水に濡れることで、防煙性能が2.5倍も向上するのだという。
30人分のマスクに水を浸透させるのに十分な水量や装置のサイズ、有用性等を検証しながらスケッチから3Dモデリングをおこなった。壁面に設置されていたら、一見お洒落で新鋭のミネラルウォーターのセルフサービスのようだ。
現在、プロトタイプのテスト中で、マスクの吸収性の高さ、装置の設置・管理のしやすさ、周辺スペースとの調和性を満たす最新バージョンの完成を目指し、改良を重ねている。
将来的には、行政や学校等の公的施設に設置することを念頭に置いている。平時は水タンクとマスクを収納しておくだけで、電気系統が故障するといった心配も無用だ。大掛かりな設備が不要なため、中小規模の事業者でも導入が容易になるだろう。いたってシンプルでユニークなアイデアにより今後、世界中で多くの命を救うことが出来る可能性がある。
【参照サイト】Water Mast Dispenser
【参照サイト】Emergency device provides life-saving masks in case of fire
(※画像:Water Mast Dispenserより引用)