【ベトナム特集#4】イエもクルマもシゴトバも。新興国ベトナムで進むシェアリングエコノミーの最前線

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ベトナムという言葉を聞いたとき、皆さんはどんなイメージを思い浮かべるだろうか。癒しの国。社会主義の国。おいしいベトナム料理。人によってその印象は様々だろう。

東南アジア諸国のなかで4番目に多い9270万人もの人口を抱え、平均年齢は28歳と若さ溢れるベトナムは、実質GDP成長率も年6.5%と非常に高く、いまアジアの中で最も注目され、今後の成長が期待されている国の一つでもある。

そのベトナムでいま急速に普及しつつあるのが、「シェアリングエコノミー」という新しい経済モデルだ。遊休資産を活用することで、環境や社会にかかる負荷を最小限に抑えながらサステナブルな経済成長を目指すシェアリングエコノミーの仕組みが、ベトナムの人々の生活をどのように変えているのか?

今回、IDEAS FOR GOOD編集部では「滞在する」「移動する」「働く」という3つの視点から、新興国ベトナムのシェアリングエコノミー最前線について取材をしてきた。

ローカルを求める観光客の受け皿に。空前の民泊ブーム

今、ベトナムのシェアリングエコノミーを牽引している分野の一つが、空いている部屋を観光客らに貸し出す「民泊」だ。

米国の民泊データ分析会社「Airdna」のデータによると、ベトナム最大の都市ホーチミンにあるAirbnbの掲載物件数は11月20時点で約14,000件、首都ハノイの掲載物件数は約8,800件、合計20,000件を超えており、民泊として貸し出されている部屋の数はこの2年間で急速に増えていることが分かる。

今回の取材で編集部が宿泊していたのも、ホーチミンの中心部にあり、駐在員なども多く暮らしているリバーサイドエリアの高級タワーマンション群の一室だ。部屋のオーナーでもあるベトナム人ホストは、同じマンションで3つの部屋を貸し出しているとのことだった。

Airbnb で貸し出されているマンションの一室。洗練されたインテリアでゲストをもてなしている。

また、ホーチミンには現地人ではなく海外からやってきて民泊を運営している人もいる。急速に経済発展が進むホーチミンで深刻化するプラスチック廃棄の問題に取り組んでいる「Zero Waste Saigon(ゼロ・ウェイスト・サイゴン)」の経営者、アメリカ人のマイケルとフランス人のジュリアン夫妻は、ホーチミンで環境保護活動に取り組むかたわらで、3階建てのプール付きペントハウスを民泊として貸し出している。

収容人数は11名で、貸出料金は一泊300米ドル。利用者は韓国人やフランス人、オーストラリア人など様々で、地元のベトナム人がパーティーのために利用することもあるという。

マイケル氏によると、ホーチミンでは民泊がとても人気で、彼の友人の中にはAirbnbのためだけにゼロから宿泊施設を建てた人すらいるとのことだ。あまりの過熱ぶりに、ホスト同士の競争環境も非常に激しくなっているそうだ。

Zero Waste Saigon の創業者、マイケル氏。Airbnbホストとしても活躍している。

ここまでホーチミンで民泊が盛んになっている大きな理由の一つに、現状ベトナムには民泊を規制する法律がないという点がある。アジアでは、シンガポールが年間180日未満の賃貸借契約を禁止しているほか、日本においても民泊は届出制となっており、届出をとったとしても年間180日以上の貸出はできないのが現状だ。

マイケル氏は、Airbnbで部屋を貸し出して世界中から様々なゲストを受け入れることは、Zero Waste Saigonの活動を広げるためにも役立っていると語る。マイケル氏は民泊用の物件ではプラスチックストローの代替ストローの原料に使うための草を育てており、その草をゲストにも見せているが、アメリカからやってきたゲストの一人がたまたまアメリカのEPA(環境保護庁)に勤めており、マイケル氏のプロジェクトを気に入ってくれてベトナムの担当者につないでくれたこともあったそうだ。

また、韓国から泊まりに来たゲストがたまたま大学でプラスチックを食べるマッシュルームの菌の研究をしており、そこから共同研究に発展したこともあったという。ゲストとの交流を楽しみつつ、本業と民泊をうまく組み合わせているようだ。

ホーチミン市内にあるビル。via Shutterstock

国連世界観光機関のデータによると、ベトナムの2017年の外国人観光客数は約1290万人となっており、観光収入は510兆VND(約2兆4900億円)に達している。また、観光業の成長率は東南アジアで最も高く、今後も大幅な観光客増が見込まれている。

観光客が増えれば、当然ながらそのぶんだけ宿泊施設が必要となる。しかし、観光客増加に対応して新たなホテルを建設しつづけるのは、サステナブルな観光の在り方とは言えない。新しくホテルを建てる代わりに、すでにある建物の空き部屋を貸し出すことができれば、より多くの観光客を受け入れながらも環境への負荷を抑えることができる。

民泊は、観光大国ベトナムが持続可能に経済成長を遂げるうえで非常に大事なカギを握る一つの形なのだ。

ライドシェアが当たり前。街を埋め尽くすGrabのドライバーたち

ベトナムと言えば大量のバイクが列をなして道路を走っており、道路を横切るのも一苦労、というイメージをお持ちの方も多いかもしれない。車の数が増えれば増えるほど排気ガスで大気は汚染され、渋滞による時間ロスで多大な経済的損失が生まれる。

こうした問題の解決策となりうるのが、車をシェアする「ライドシェアリング」だ。自家用車ではなくライドシェアを活用して移動する人が増えれば、そのぶんだけ路上を走る車の数を減らすこともできる。

もちろん、ライドシェア用の車両が需要以上に増えてしまっては意味がない。実際に、米国ニューヨークではライドシェア車両の増加が逆に渋滞を悪化させる原因となり、ニューヨーク市は今年の8月にライドシェアの配車台数の規制をする条例案を可決した。

このように理想とは裏腹にまだまだ課題も多いライドシェアだが、いま、東南アジア各国でも同様のトレンドは急速に広まりつつある。

ベトナムでのライドシェアリングサービスと言えば、最大のシェアを誇っているのが緑のロゴが目印の「Grab(グラブ)」だ。ホーチミンの道路ではGrabのユニフォームに身をまとったドライバーたちが数多く走行しており、街のいたるところで休憩中のドライバーを見かけることができる。

ホーチミン市内を走るGrab のドライバーたち。via Shutterstock

Grabは、アプリで行先を入力するだけですぐに近くにいるドライバーが迎えに来てくれるとても便利な配車サービスだ。目的地までの料金も事前に表示されるので安心で、観光客にとっても使いやすい。

一方で、急速なGrabの増加はベトナム現地で様々な問題を引き起こしてもいる。乗客を求めて街をさまようGrab車両の増加による渋滞の深刻化、低料金での移動がもたらす地元のタクシー会社への経済的損失などだ。

ベトナムでは地元大手タクシー会社のVinasun(ビナサン)社は、Grabらがベトナム交通・運輸省の規則を破り、不当な価格設定により顧客を獲得したことでタクシー業界に大幅な損失を与えたとして、420億ドン(約2.1億円)の賠償金の支払いを求める裁判を起こした。

その結果、今年の10月にホーチミンで行われた裁判で検察官はVinasun側の主張を支持し、Grab社に対して賠償金を支払うよう主張した。

Grab の乗用車。

渋滞を緩和できるはずのライドシェアが渋滞を引き起こし、たくさんの雇用を生み出すはずのライドシェアが地元のタクシー会社で働く人々の雇用を奪うという皮肉な結果となっている。

今後、このトレンドがベトナム以外の東南アジア諸国も含めてどのような方向へと進み、本来のシェアリングエコノミーの良さを享受できる仕組みへと進化していけるのか。引き続き動向に注目したいところだ。

新しい働き方を。急増するコワーキングスペース

9,000万人を超える人口のうち実に半分以上が30歳未満という若者で溢れるベトナムが国をあげて推進しているもの、それが起業だ。ベトナム政府は現在2020年までに100万社のスタートアップを創出するという目標を掲げ、ITや観光分野などの成長産業を中心に起業人材の育成に取り組んでいる。

そんな国の政策を後押しするかのように、いまベトナムで急速に増えているのが、オフィスのシェアリングエコノミーとも言えるコワーキングスペースだ。コワーキング検索サイト「Coworker.com」には、ホーチミンだけでも49か所のコワーキングスペースが登録されている。

ホーチミンにあるコワーキングスペース「Dreamplex」でマネジャーを務めるNhung氏によると、利用者はエンジニアやデザイナー、フリーランサーが多く、月額会員で200名程度が登録しているとのことだ。平日の稼働率はすでに80%を超えており、利用者の3割程度は女性だという。

Dreamplex

また、ベトナムでは様々なコンセプトのコワーキングスペースがあるのもユニークな点だ。

ホーチミンで最も高く、展望台も人気がある高層ビル、「ビテクスコ・フィナンシャル・タワー」の中に入っているのは、香港に本拠を置く世界第二位の保険会社AIAが運営する「Nest by AIA」だ。

Nestの運営を担当しているAIA VietnamのNguyen氏によると、Nestではドリンク代を払うだけでカフェをワークスペースとして利用できるほか、ミーティングルームも用意されている。さらにビューティーやメイクアップ、音楽などライフ系のイベントも定期的に開催しているという。

Nest by AIA

保険会社がこのようなワーキングスペースを提供する理由について尋ねたところ、カスタマーの人生に寄り添うパートナーとして、カスタマーサービスを向上させる一貫との回答が返ってきた。

AIA VietnamのNguyen氏

保険に限らず、仕事や生活のあらゆる側面で顧客と接点を持つことで、保険会社としてのロイヤリティを高めていってもらう。その施策としてコワーキングスペースを用意しているという非常にユニークな事例だ。

ホーチミンの市街地にある「KA KONCEPT」は、香水ブランドが展開するコワーキングスペースだ。洗練されたインテリアが特徴のこのワークスペースでは、仕事だけではなく、香水を購入できるショップの機能も兼ねている。また、イベントを週2回の頻度で開催しており、新商品の披露などもしているそうだ。

KA KONCEPT。スペースの一部ではフレグランスを購入できる。

ドリンクを飲みながらくつろぎつつ、仕事もでき、ブランドアイテムも購入できる。日本ではなかなか見られない、ユニークなコワーキングスペースだ。

そして「KA KONCEPT」と同じビルには、コワーキングスペースながらも会社ごとにしっかりとスペースが区切られており、チームでの作業がしやすい「Circo」も入居している。一つのビルに二つの違うコワーキングスペースがあるという密集ぶりには驚かされる。

Circoのエントランス。

起業家やフリーランサーにとって、初期費用もあまりかけずに低価格でオフィスを借りられるコワーキングスペースは、ビジネスを始めるにあたってうってつけの環境だ。

彼らが新しいビジネスを始めやすい土壌が整ってきていることは、ベトナムの今後の経済成長を考えるうえで大きなプラス材料と言えるだろう。

まとめ

民泊、ライドシェア、コワーキングスペースという3つの領域で独自に進化する、ベトナムのシェアリングエコノミーの最新事情をお伝えした。

経済成長が著しいベトナムは、他の新興国と同様に大気汚染やゴミ問題などその成長痛も抱えている。これらの成長痛を抑え、持続可能な成長を遂げるうえで、シェアリングエコノミーというコンセプトは大いに役に立つ。

ライドシェアの事例にみられるように、シェアリングエコノミーにも解決すべき負の側面はあるものの、有休資産をシェアすることで最小限の資源で最大限の経済を創り出すシェアリングエコノミーの仕組みは、ベトナムのような新興国にこそマッチするものでもある。

これからどのようにベトナムのシェアリングエコノミーが成熟し、21世紀にふさわしい新たな経済成長の仕方を提示してくれるのか、これからの変化が楽しみだ。