孤独は解消すべき問題なのか?―日本語の「孤独」に対応する2つの英単語から考える

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昨今の様々な研究によって、孤独が死亡リスクを29%も高めることや、うつやアルツハイマーを誘発しやすくすることなどが明らかになった。孤独が人間の健康に悪影響を及ぼす度合は喫煙や肥満のそれと同程度とされており、決して些細な問題とはいえなくなってきている。

900万人以上が頻繁に孤独を感じているというイギリスでは、今年1月、国内の孤独問題解決に取り組む「孤独担当国務大臣」が設置された。追って10月15日には、『つながる社会:孤独問題に取り組むー変革に向けての基礎的方策(筆者訳、原題は“A connected society: a strategy for tackling loneliness-laying the foundations for change”)』という戦略書が公表されており、国を挙げて、着々と問題へ取り組んでいる様子がうかがえる。

この動きは、日本のメディアでも多数取り上げられた。生きづらさを抱える人がいるという事実を個人の問題として片づけてしまわず、その人を現状に追いやった社会の側に問題があると捉えたイギリスのやり方には、はっとさせられた人も多かったのではないだろうか。

孤独な老人の姿

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しかし、日本語の「孤独」という言葉が持つ曖昧さによって、このニュースのメッセージが「孤独=一人でいること=悪いこと」という単純な方程式に集約されて伝わってしまうのではないかという懸念を覚えている。

上述の戦略書では、lonelinessとisolationという単語を用い、イギリスがどのような「孤独」を解消すべき問題と想定しているのかについて詳細な定義がなされている。loneliness/isolationはそれぞれ日本語の「孤独」と似た英単語である。しかし、この2つの単語は違ったニュアンスを持っている。lonelinessには人と一緒にいなくて「悲しい」というネガティブな感情判断が含まれるのに対し、isolationは、他の人と一緒にはおらず「ただ」一人でいるというイメージである。孤独担当大臣はa minister for lonelinessと表現されているため、イギリスで解決すべきとされている「孤独」は一人でいることそのものではなくネガティブな心の状態のほうであるとわかる。

ニュース内のlonelinessを日本語で端的に「孤独」と訳してしまえば、この微妙なニュアンスの違いは消滅してしまう。ニュースのヘッドラインはこうした単語の差異について説明するには短すぎるし、記事本文でも政策内の「孤独」の定義まで詳細に記載するのは難しいだろう。だから「イギリスが国全体で孤独問題の解決に乗り出した」という日本語のニュースをざっと目にしただけだと「孤独(=一人でいること)って、国の政策で解決しなければいけないくらいダメなことなのだ」という理解の仕方をしてしまう人が出てくる可能性がある。常に誰かと一緒にいるのが当たり前になっている人や孤独について深く考えたことがないという人は特にそうだろう。

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「一人で行動すること=いけないこと」という認識のフィルターを通してしまったら?本当は一人でいたいけれどみっともないからやめておこうと自分の気持ちを押し殺してしまうかもしれない。一人で考えにふけったり本を読んだりすることよりも、友人が多いことや流暢に会話ができることのほうが健全で重要であるかのように感じてしまうかもしれない。コミュニケーション力ばかりが重視されるようになり、人間の多様な価値が見失われてしまう可能性だってある。

じっくり考えを深めたり自分の内側から他者への慈しみを引き出したりと、人間の深みを醸造するような「よい孤独」も存在する。「孤独=解決すべき悪い問題」とだけ考えてしまうのはもったいない。今一度、「孤独」について、そして「孤独との向き合い方」について考え直してみるのはどうだろうか?

ニュースの中の言葉や表現は、気に留めなければすぐに通り過ぎる。だから、たまには言葉ひとつに想いをめぐらす「孤独な」時間を持つのも悪くない。

【参照サイト】“A connected society: a strategy for tackling loneliness-laying the foundations for change”
【参照サイト】PM commits to government-wide drive to tackle loneliness
【参照サイト】Government’s work on tackling loneliness
【参照サイト】About Campaign to End Loneliness