現在、石炭火力発電所は世界的に廃止の方向に向かっている。先日もドイツ政府の諮問委員会が、炭素排出量の削減を目的として、2038年までに国内すべての石炭火力発電所を廃止することに合意したばかりだ。
そんななか、米オハイオ州立大学が、石炭火力発電所の副産物である石膏(せっこう)を使って土壌改良を行い、農作物の品質を向上させる方法を発表した。石炭火力発電所から排出される石膏の埋め立てを減らし、土地も豊かになる一石二鳥以上の試みとなる。
石膏は自然界に多く存在し、地面からも採掘できるが、石炭火力発電の脱硫処理で副産される石膏は粒子が小さく、大きさも均一で反応性が高い。そのため、研究チームはこの石炭火力発電から回収された高品質な石膏に注目した。
石膏が農作物の品質向上につながる理由―それは、石膏が土の水吸収を助けて土壌浸食を防ぎ、湖や小川へ土壌の栄養源であるリンの流出を抑えることだ。
さらに、石膏が農作物に必要なカルシウムと硫黄を供給できることも、農作物の品質向上に寄与している。土壌が酸性だった場合、石膏は土壌のpHを大きく変化させることはないが、作物の根の発達を妨げるアルミニウムの毒性を打ち消し、根の発達を促進させるのだ。
また、石膏は適度な溶解性も持つため、カルシウムが土壌中によく拡散され、植物の根を強くする。そして、石膏は1〜2年間硫黄を供給し続けることから、トウモロコシ、大豆、キャノーラ、アルファルファなどの成長を助けることもわかった。
石膏の使い方はいくつかある。細かく砕いた石膏を灌漑用水に溶かしたり、農作物を植える前の表土(ひょうど)に塗ったり、収穫後の畑につかったり、耕うん機を使って石膏を土の中に入れたりもできるようだ。
当研究を率いたディック教授は、「これは、廃棄物を有益な方法で再利用する良い例だ。」と述べている。ディック教授は、2018年11月に開催された全米農業学会および米国作物科学協会でこの研究を発表した。
これまで250年以上にわたって石膏は農業で使用されてきたが、その効用についてはまだ研究が行われている。
廃止の方向に向かいつつある石炭火力発電所の副産物である石膏をリサイクルして、土壌改良を行い農作物をもっと美味しくする研究。いまあるものを最大限に有効利用する、いい試みだ。
【参照サイト】Gypsum as an agricultural product
【参照サイト】ドイツ、2038年までに石炭火力発電所を廃止か。パリ協定の目標達成に向けた大きな一歩